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 登校はしたが、葛城が来ないうちに始業ベルが鳴った。
 あれからどうなったのだろう。
  
 センター試験も終わり、クラスの空気が柔らかいものに変わっていた。
 今までのうっぷんを晴らすかのように、おしゃべりの声が大きい。
 クラス担任が入ってきた。

「お前ら、本当にお疲れさん。まあ受かるかどうかは別として、一応やり切ったんだ。当分はゆっくりしろと言いたいところだが、気を抜きすぎないようにしろよ」

 いつものように始まった朝。
 しかし葛城はいない。
 帰りに行ってみようかと思っていた休憩時間に、クラス担任から呼び出された。

「飯田、葛城から聞いた。昨日は大変だったみたいだな」

「いえ、私は何もできなかったので。それより葛城はどうして休んだのですか?」

「ああ、葛城からお前には伝えてくれと言われたから来てもらったんだ。葛城のお母さん、緊急手術で出産なさったそうだ。相当小さい未熟児で予断は許されない状況だそうだ。お父さんが付き添っているらしいが、当分休むと言っていた」

「そうですか。分かりました」

「三年生にとっては試験が終わって気が抜ける時期
だが、三学期が終わったわけじゃない。お前もいろいろ大変だろうが、葛城はお前を頼りにしているみたいだから、余裕がある時で良いから気にかけてやってくれ」

「もちろんです」

「それで? 手ごたえはあったか?」

「やるだけはやったという感じです。まあ、今から焦っても仕方がないので」

 先生はそりゃそうだと言って、私の肩をポンと叩いた。
 すでに賽は投げられたのだ。
 私は教室に戻りながら葛城のことを考えた。

 本当なら学校に来て、みんなと話をしたかったに違いない。
 それなのにお前は自分より家族を優先しているんだろうな。
 それにしても葛城……お前って前世で何をやらかしたんだ? 付き合ってやるから一度お祓いにでも行くか? 

「一度帰ってから行ってみようかな」

 私はそう声に出してから教室に戻った。
 淡々と授業を受け下校時間を迎える。
 クラスメイトに手を振って駅へと急いだ。
 もう兄の乗った飛行機は飛び立っただろうか。

「ただいま」

 事務所に顔を出すとばあさんがいた。

「ああ、お帰り」

 私は先生に聞いた葛城の事をばあさんに話した。
 黙って聞いていたばあさんがポツリと言う。

「まあ月齢的にも問題はないだろうが、双子っていうのがねぇ。可愛いけれど育てる方は大変さ。まだ入院してるんだろ? じゃあ家にはあの姉妹だけなのかい?」

「たぶんね。私、今から様子を見てこようかと思うんだけど」

 ばあさんがチラッと時計を見た。

「ちょっと待っていなさい。もうすぐ恵子が戻るから、一緒に行けばいい」

 私は頷いて家に戻った。
 げんきんなもので、試験が終わったとたんに勉強する気分がきれいに消滅している。
 鞄から教科書を出すのも億劫だ。
 私は母さんが戻るまで、封印していたコミック本を手に取った。

「洋子、行こうか」

 玄関で母の声がして、私は急いでコートを手に取り玄関に向かう。
 外に出るとチラチラと雪が舞っていた。
 道理で寒いはずだ。

「ねえお母さん。お兄ちゃんはもう着いたかな」

「もう着いてるんじゃない? 東京でこれだけ寒いんだから、あっちはとんでもない寒さなんじゃないかしら」

「そうだよね。お兄ちゃんが寒いっていうより痛いが近いって言ってたもん」

 母が楽しそうに笑う。
 
「帰りに買い物して帰ろうか」

 私の声に母が頷いた。

「今日は鍋にしようか。白菜はあったし、ネギと油揚げもあるから……」

 私は頭の中で塩ちゃんこの具材を思い浮かべ、買い物リストを組み立てていった。
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