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最近どうも過保護気味の兄が会場まで一緒に来て、最後の激励を飛ばしてくれた。
「落ち着いてやれば問題ない。お前は十分に準備してきたんだ」
「うん」
受験票を握りしめ、周りをきょろきょろしていると、マフラーを首にぐるぐると巻いた葛城が駆けてきた。
「おはよう、洋子ちゃん。あっ先生も。おはようございます」
先生って……
「おはよう沙也ちゃん。なかなか良い顔をしているじゃないか。期待できそうだね」
「もう今更焦っても仕方がないですからね。落ちても死ぬわけじゃないしって思ったら、楽になりました」
「そうだ、その意気だ。でも最後まで諦めずに頑張って」
「はぁい。じゃあ行こうか、洋子ちゃん」
「うん、じゃあ行ってくるね、お兄ちゃん」
「ああ、逃げ出さない、投げ出さない、自分を信じる。いいね」
なんか聞いたことがある歌詞のような激励を受け、私と葛城は会場へ入った。
さっき葛城は『落ちても死ぬわけじゃない』と言っていたが、周りの空気は『落ちたら死ぬ』と思いつめている感じだ。
飲まれちゃダメ!
私は掌を握りしめて自分にカツを入れた。
「洋子ちゃん、お弁当持ってきた?」
葛城……お前の心臓にはどのくらい太い毛が生えているんだ?
「うん、母さんが作ってくれた」
「スノウホワイトかな」
「うん、多分」
それぞれの席につき、何度目かの深呼吸をする。
さあ、始まりだ。
会場にはカリカリという鉛筆の音と、時折遠慮がちな咳払いの音がする。
葛城の様子は気になるが、きょろきょろしてあらぬ疑いをかけられるわけにはいかない。
心の中でエールを送り、私は問題に集中した。
じっくり解いていると取りこぼしが勿体ないので、即答できるものからどんどん埋める。
マークする行を間違えないように、慎重に進めていった。
1科目目が終わり、後悔する暇も無く2科目目が始まる。
私の薄灰色の脳細胞よ! 頑張ってくれ!
1日目が終わり、廃人一歩前の顔をした受験生たちがぞろぞろと駅に向かう。
私は葛城と待ち合わせた会場近くの神社に向かった。
「おう! ご苦労さん」
兄が待っていてくれて、その手には二つの紙コップが湯気を立てていた。
「お兄ちゃん」
「沙也ちゃんは?」
「もうすぐ来ると思うよ」
紙コップを私に渡しながら兄が聞いた。
「はい、お汁粉。さっき買ったからまだ熱いと思う。どう? 楽しめた?」
「いや、楽しむところまではいかなかったけれど、それほどの苦痛って言うか切迫感みたいなのは無かったよ」
「そうか。じゃあ良かった」
葛城がやってきた。
兄がお汁粉を渡すと、本当に嬉しそうな顔をする。
やっぱお前ってベッピンさんだよね。
「あ~面白かったぁ」
兄と私が顔を見合わせた。
「面白かったの?」
「だって隣の人が途中で頭を搔き毟り始めてさぁ。声を掛けるわけにはいかないから気付かない振りをしたんだけど、この世の終わりって顔しててさぁ。かといえば、反対側の隣の人なんて、本当に問題読んでるのかってくらいスラスラ進めてるの。その落差がね」
なるほど、人間観察的に面白かったということだな?
で? お前の手ごたえはどうなんだ?
「え? 私? 予想通りだよ。半分くらいはできたと思うんだけど、昨日ハンズで買った鉛筆の出番が多かった」
そう言うと五角形の鉛筆を鞄から出してみせた。
通常の半分の長さしかないその鉛筆は、受験生に飛ぶように売れている噂の『神のお告げ』と呼ばれているアイテムだった。
「そりゃいいや。噂には聞いたことがあるけど、実物は始めて見たよ」
なぜか腹を抱えて笑う兄。
口には出さないが、私も持ってるよ。
「さあ、明日に向けて最終チェックだね。なんだか楽しみになってきた」
私の言葉に葛城が力強く頷いた。
「落ち着いてやれば問題ない。お前は十分に準備してきたんだ」
「うん」
受験票を握りしめ、周りをきょろきょろしていると、マフラーを首にぐるぐると巻いた葛城が駆けてきた。
「おはよう、洋子ちゃん。あっ先生も。おはようございます」
先生って……
「おはよう沙也ちゃん。なかなか良い顔をしているじゃないか。期待できそうだね」
「もう今更焦っても仕方がないですからね。落ちても死ぬわけじゃないしって思ったら、楽になりました」
「そうだ、その意気だ。でも最後まで諦めずに頑張って」
「はぁい。じゃあ行こうか、洋子ちゃん」
「うん、じゃあ行ってくるね、お兄ちゃん」
「ああ、逃げ出さない、投げ出さない、自分を信じる。いいね」
なんか聞いたことがある歌詞のような激励を受け、私と葛城は会場へ入った。
さっき葛城は『落ちても死ぬわけじゃない』と言っていたが、周りの空気は『落ちたら死ぬ』と思いつめている感じだ。
飲まれちゃダメ!
私は掌を握りしめて自分にカツを入れた。
「洋子ちゃん、お弁当持ってきた?」
葛城……お前の心臓にはどのくらい太い毛が生えているんだ?
「うん、母さんが作ってくれた」
「スノウホワイトかな」
「うん、多分」
それぞれの席につき、何度目かの深呼吸をする。
さあ、始まりだ。
会場にはカリカリという鉛筆の音と、時折遠慮がちな咳払いの音がする。
葛城の様子は気になるが、きょろきょろしてあらぬ疑いをかけられるわけにはいかない。
心の中でエールを送り、私は問題に集中した。
じっくり解いていると取りこぼしが勿体ないので、即答できるものからどんどん埋める。
マークする行を間違えないように、慎重に進めていった。
1科目目が終わり、後悔する暇も無く2科目目が始まる。
私の薄灰色の脳細胞よ! 頑張ってくれ!
1日目が終わり、廃人一歩前の顔をした受験生たちがぞろぞろと駅に向かう。
私は葛城と待ち合わせた会場近くの神社に向かった。
「おう! ご苦労さん」
兄が待っていてくれて、その手には二つの紙コップが湯気を立てていた。
「お兄ちゃん」
「沙也ちゃんは?」
「もうすぐ来ると思うよ」
紙コップを私に渡しながら兄が聞いた。
「はい、お汁粉。さっき買ったからまだ熱いと思う。どう? 楽しめた?」
「いや、楽しむところまではいかなかったけれど、それほどの苦痛って言うか切迫感みたいなのは無かったよ」
「そうか。じゃあ良かった」
葛城がやってきた。
兄がお汁粉を渡すと、本当に嬉しそうな顔をする。
やっぱお前ってベッピンさんだよね。
「あ~面白かったぁ」
兄と私が顔を見合わせた。
「面白かったの?」
「だって隣の人が途中で頭を搔き毟り始めてさぁ。声を掛けるわけにはいかないから気付かない振りをしたんだけど、この世の終わりって顔しててさぁ。かといえば、反対側の隣の人なんて、本当に問題読んでるのかってくらいスラスラ進めてるの。その落差がね」
なるほど、人間観察的に面白かったということだな?
で? お前の手ごたえはどうなんだ?
「え? 私? 予想通りだよ。半分くらいはできたと思うんだけど、昨日ハンズで買った鉛筆の出番が多かった」
そう言うと五角形の鉛筆を鞄から出してみせた。
通常の半分の長さしかないその鉛筆は、受験生に飛ぶように売れている噂の『神のお告げ』と呼ばれているアイテムだった。
「そりゃいいや。噂には聞いたことがあるけど、実物は始めて見たよ」
なぜか腹を抱えて笑う兄。
口には出さないが、私も持ってるよ。
「さあ、明日に向けて最終チェックだね。なんだか楽しみになってきた」
私の言葉に葛城が力強く頷いた。
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