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その日は兄が帰ってくるから、いつもより早めに帰宅する予定だ。
どうやら静香さんはババカレーに嵌ったらしく、数口ずつではあるが食べることができているらしい。
「カレーのお陰で水も飲めるようになったし、本当に良かったわ」
母からの伝言である『水を飲むならスポーツドリンクを3倍くらいに薄めて飲んだ方が良い』という妊婦のコツを伝えた。
「なるほどね……さすが先輩」
ストックが無くなる前に今度はひき肉のカレーでも作りましょうと言うと、子供のように嬉しそうな顔をした。
今夜分のアジの塩焼きを準備して、フィッシュロースターの使い方を葛城に伝授する。
タイマーを15まで回して、メモリが10まで来たら塩を振った魚を並べてチンというまで放置するだけなのだが……不安だ。
「では今日は失礼します」
急いで帰って着替えると、まずは唐揚げを揚げる。
サッと一度揚げをして冷ましてから2度上げをすると、外はカリッと中はジューシーというテレビコマーシャルのような唐揚げになるのだ。
早めに帰ってきた母と一緒に、せっせと餃子を包んでいく。
カニ鍋を食べる時と餃子を包むとき、私たち親子は無言になるのは昔からだ。
「ただいま」
半年も経っていないのに、もう何年も聞いてないような気がする懐かしい兄の声だ。
母と一緒に出迎えると、思っていたよりずっと日焼けした顔が笑っていた。
「お帰り」
「うん、ただいま」
この短い会話に、家族ならではの万感の思いがこもっている。
さっそく夕食が始まった。
「やっぱりうちの飯は最高だ!」
兄の言葉にばあさんが何度も頷いている。
いや……ばあさん、作ったのは母と私だが?
我が家の餃子は辛子酢醬油でいただくのが流儀だ。
滴る肉汁をアツアツの白米に沁み込ませると、これがなんとも美味いんだぁ。
兄は三杯もお代わりをした。
なんと言うか、勝った気がする。
「はい、洋子にはこれ」
兄が小さな紙袋を差し出した。
「ありがとう……ん? 何これ」
「農学部の友達からゲットした。何をしても絶対に落ちない染料で染めたお守りだ」
「落ちない染料? 凄いね。ありがとうお兄ちゃん。そうかぁ、落ちないんだぁ」
「大学にはいろいろなことを研究している人がたくさんいてね、ホントに面白い。一番笑ったのが『食べても減らないパン』だよ」
「食べても減らない?」
「うん、空気中の水分だけで増殖し続けるから、食べても元の体積に戻るんだってさ。ただ実用化はまだ難しいらしい」
「なぜ?」
「一つは不味いこと、そしてもう一つは腹を下すこと」
「げっ……ダメじゃん」
「でも実用化できたら人類の食糧危機が劇的に改善するぜ? まあ、それを研究している奴は腹を下しすぎてめちゃくちゃ瘦せてるけど」
私は吹き出した。
「でも勝手に増殖するならお腹の中でも膨れ続けるじゃん」
「おっ! 目の付け所が良いな。それは解決済みなんだ。加熱によって増殖は止まる」
そんな奇抜な研究の話は尽きず、兄が羊の頭突きで二回脳震盪を起こしたという話が終わる頃には12時を回っていた。
「どれくらいいるの?」
「二週間かな」
「短いね」
「お前の短期集中講座をするだけなら十分だろ?」
ありがたい。
兄は妹を見捨てないようだ。
ありがとうね。
感謝を込めて、この二週間はずっと肉料理にするからね。
どうやら静香さんはババカレーに嵌ったらしく、数口ずつではあるが食べることができているらしい。
「カレーのお陰で水も飲めるようになったし、本当に良かったわ」
母からの伝言である『水を飲むならスポーツドリンクを3倍くらいに薄めて飲んだ方が良い』という妊婦のコツを伝えた。
「なるほどね……さすが先輩」
ストックが無くなる前に今度はひき肉のカレーでも作りましょうと言うと、子供のように嬉しそうな顔をした。
今夜分のアジの塩焼きを準備して、フィッシュロースターの使い方を葛城に伝授する。
タイマーを15まで回して、メモリが10まで来たら塩を振った魚を並べてチンというまで放置するだけなのだが……不安だ。
「では今日は失礼します」
急いで帰って着替えると、まずは唐揚げを揚げる。
サッと一度揚げをして冷ましてから2度上げをすると、外はカリッと中はジューシーというテレビコマーシャルのような唐揚げになるのだ。
早めに帰ってきた母と一緒に、せっせと餃子を包んでいく。
カニ鍋を食べる時と餃子を包むとき、私たち親子は無言になるのは昔からだ。
「ただいま」
半年も経っていないのに、もう何年も聞いてないような気がする懐かしい兄の声だ。
母と一緒に出迎えると、思っていたよりずっと日焼けした顔が笑っていた。
「お帰り」
「うん、ただいま」
この短い会話に、家族ならではの万感の思いがこもっている。
さっそく夕食が始まった。
「やっぱりうちの飯は最高だ!」
兄の言葉にばあさんが何度も頷いている。
いや……ばあさん、作ったのは母と私だが?
我が家の餃子は辛子酢醬油でいただくのが流儀だ。
滴る肉汁をアツアツの白米に沁み込ませると、これがなんとも美味いんだぁ。
兄は三杯もお代わりをした。
なんと言うか、勝った気がする。
「はい、洋子にはこれ」
兄が小さな紙袋を差し出した。
「ありがとう……ん? 何これ」
「農学部の友達からゲットした。何をしても絶対に落ちない染料で染めたお守りだ」
「落ちない染料? 凄いね。ありがとうお兄ちゃん。そうかぁ、落ちないんだぁ」
「大学にはいろいろなことを研究している人がたくさんいてね、ホントに面白い。一番笑ったのが『食べても減らないパン』だよ」
「食べても減らない?」
「うん、空気中の水分だけで増殖し続けるから、食べても元の体積に戻るんだってさ。ただ実用化はまだ難しいらしい」
「なぜ?」
「一つは不味いこと、そしてもう一つは腹を下すこと」
「げっ……ダメじゃん」
「でも実用化できたら人類の食糧危機が劇的に改善するぜ? まあ、それを研究している奴は腹を下しすぎてめちゃくちゃ瘦せてるけど」
私は吹き出した。
「でも勝手に増殖するならお腹の中でも膨れ続けるじゃん」
「おっ! 目の付け所が良いな。それは解決済みなんだ。加熱によって増殖は止まる」
そんな奇抜な研究の話は尽きず、兄が羊の頭突きで二回脳震盪を起こしたという話が終わる頃には12時を回っていた。
「どれくらいいるの?」
「二週間かな」
「短いね」
「お前の短期集中講座をするだけなら十分だろ?」
ありがたい。
兄は妹を見捨てないようだ。
ありがとうね。
感謝を込めて、この二週間はずっと肉料理にするからね。
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