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ストック切れで今日から当分の間、8時と20時の二話投稿になります。
急いで風呂を沸かして着替えていると、玄関チャイムの音がした。
蕎麦屋の松蕎庵は子供の頃から慣れ親しんだ店で、我が家で店屋物というとここ一択だ。
「早く来ないと伸びちまうよ」
ばあさんの号令で集まり、各々が注文したものに手を伸ばす。
確か父は稲荷ずし三個と言っていたのに、なぜ十個も並んでいるのだろう……などと考えながら、天ぷら蕎麦を引き寄せた。
「お前は昔から天ぷら蕎麦だよねぇ」
ばあさんが呆れた声で言う。
「おばあ様こそ相変わらずの山菜蕎麦?」
私の揶揄うような言葉に、両親がぎょっとした顔でこちらを向いた。
へへへ! ばあさんとはこういう仲になったのさ! つい最近だけど。
「ははは! 蕎麦好きはこういうのが好みなんだよ」
ばあさんが言い返すと、父がグフッと咽た。
「へぇ、じゃあ若い頃から?」
「いや、若い頃は天ぷら肉蕎麦だった」
今度は母親がゴホッと咽る。
ダブルトッピング! ちょっと面白い。
私は敢えてその空気をスルーして稲荷ずしに箸を伸ばした。
「ここの稲荷寿司は、昔から味が変わらないわね」
話題を変えようとする母に、父が同調した。
「そうだな。昔は蕎麦と天丼かかつ丼が当たり前だったが、この稲荷寿司の味を覚えてからはこればっかりだよ。旨いよなぁ。はは……ははは」
父の意外な負けず嫌いに、ばあさんと私は顔を見合わせてニヤッと笑った。
「洋子、ビール持ってきて」
「うん、父さんは?」
「おう、俺ももらおう。恵子は?」
え? 母さんも飲むの? 知らんかった。
「いただくわ」
どうやらここも垣根を取り払おうとしているようだ。
良きかな、良きかな。
食べ終わった食器を洗い、玄関の外に出しておく。
こうしておくと、配達途中の店員さんが回収してくれるのだ。
玄関を閉めて鍵をかける。
リビングを覗くと、ばあさんの姿が無かったので風呂だろう。
「洋子、ちょっと来なさい」
父が私を呼び止めた。
定位置に座ると、少しぬるくなっているビールを一気に流し込んでから父が言った。
「どうすべきか迷っているんだ。なんせ事情が分からない。いろいろと経緯を聞いておいた方が良いと思うんだが、どうだ?」
「うん、今回のことは看過できないよ。おばあ様にも聞いておいてもらいたいんだけど」
「その方がいいだろう」
「一つだけ約束して欲しいんだ。 絶対に怒らないって言って欲しい」
「怒るような事があるのか?」
「あるような、無いような?」
「まあ、それは内容によるな」
ばあさんが風呂から出てきた。
目線で私にビールを催促すると、テレビのリモコンに手を伸ばした。
「お義母さん、洋子から話があるみたいなので」
父の言葉にばあさんが驚いたような顔をした。
「ああ、わかった」
そう改まれると言い辛いような気もするが、葛城の人生にかかわることだと意を決した。
「なぜ葛城と仲良くなったかから始めるね」
クラスメイトから浮いた存在で『イタ子』と呼ばれていた頃の葛城の言動やその原因、そしてなぜ介入する羽目になったのかを順序だてて話す。
その過程で一人で弁当を食べていた事にも触れなければならず、スノウホワイトの事や兄の後方支援であるグレートブラザー弁当の事も全部正直に話した。
「優紀さんらしいねぇ」
ばあさんはそう言ったが、詳しい事情も聞かずに私の願いを断った母は、少し口を尖らせていた。
葛城の両親の離婚の経緯や再婚の話、新しい母親の事情や深雪ちゃんの事も順番に話す。
深雪ちゃん誕生日事件のくだりになると、ばあさんと母さんが身を乗り出してきた。
複雑な家庭を描いたドロドロ系テレビドラマを見ているような感覚?
「そりゃ酷い話ねえ」
母の言葉に父が頷く。
しかしばあさんのリアクションは少し違った。
「可哀そうな男だね」
私は耳を疑った。
急いで風呂を沸かして着替えていると、玄関チャイムの音がした。
蕎麦屋の松蕎庵は子供の頃から慣れ親しんだ店で、我が家で店屋物というとここ一択だ。
「早く来ないと伸びちまうよ」
ばあさんの号令で集まり、各々が注文したものに手を伸ばす。
確か父は稲荷ずし三個と言っていたのに、なぜ十個も並んでいるのだろう……などと考えながら、天ぷら蕎麦を引き寄せた。
「お前は昔から天ぷら蕎麦だよねぇ」
ばあさんが呆れた声で言う。
「おばあ様こそ相変わらずの山菜蕎麦?」
私の揶揄うような言葉に、両親がぎょっとした顔でこちらを向いた。
へへへ! ばあさんとはこういう仲になったのさ! つい最近だけど。
「ははは! 蕎麦好きはこういうのが好みなんだよ」
ばあさんが言い返すと、父がグフッと咽た。
「へぇ、じゃあ若い頃から?」
「いや、若い頃は天ぷら肉蕎麦だった」
今度は母親がゴホッと咽る。
ダブルトッピング! ちょっと面白い。
私は敢えてその空気をスルーして稲荷ずしに箸を伸ばした。
「ここの稲荷寿司は、昔から味が変わらないわね」
話題を変えようとする母に、父が同調した。
「そうだな。昔は蕎麦と天丼かかつ丼が当たり前だったが、この稲荷寿司の味を覚えてからはこればっかりだよ。旨いよなぁ。はは……ははは」
父の意外な負けず嫌いに、ばあさんと私は顔を見合わせてニヤッと笑った。
「洋子、ビール持ってきて」
「うん、父さんは?」
「おう、俺ももらおう。恵子は?」
え? 母さんも飲むの? 知らんかった。
「いただくわ」
どうやらここも垣根を取り払おうとしているようだ。
良きかな、良きかな。
食べ終わった食器を洗い、玄関の外に出しておく。
こうしておくと、配達途中の店員さんが回収してくれるのだ。
玄関を閉めて鍵をかける。
リビングを覗くと、ばあさんの姿が無かったので風呂だろう。
「洋子、ちょっと来なさい」
父が私を呼び止めた。
定位置に座ると、少しぬるくなっているビールを一気に流し込んでから父が言った。
「どうすべきか迷っているんだ。なんせ事情が分からない。いろいろと経緯を聞いておいた方が良いと思うんだが、どうだ?」
「うん、今回のことは看過できないよ。おばあ様にも聞いておいてもらいたいんだけど」
「その方がいいだろう」
「一つだけ約束して欲しいんだ。 絶対に怒らないって言って欲しい」
「怒るような事があるのか?」
「あるような、無いような?」
「まあ、それは内容によるな」
ばあさんが風呂から出てきた。
目線で私にビールを催促すると、テレビのリモコンに手を伸ばした。
「お義母さん、洋子から話があるみたいなので」
父の言葉にばあさんが驚いたような顔をした。
「ああ、わかった」
そう改まれると言い辛いような気もするが、葛城の人生にかかわることだと意を決した。
「なぜ葛城と仲良くなったかから始めるね」
クラスメイトから浮いた存在で『イタ子』と呼ばれていた頃の葛城の言動やその原因、そしてなぜ介入する羽目になったのかを順序だてて話す。
その過程で一人で弁当を食べていた事にも触れなければならず、スノウホワイトの事や兄の後方支援であるグレートブラザー弁当の事も全部正直に話した。
「優紀さんらしいねぇ」
ばあさんはそう言ったが、詳しい事情も聞かずに私の願いを断った母は、少し口を尖らせていた。
葛城の両親の離婚の経緯や再婚の話、新しい母親の事情や深雪ちゃんの事も順番に話す。
深雪ちゃん誕生日事件のくだりになると、ばあさんと母さんが身を乗り出してきた。
複雑な家庭を描いたドロドロ系テレビドラマを見ているような感覚?
「そりゃ酷い話ねえ」
母の言葉に父が頷く。
しかしばあさんのリアクションは少し違った。
「可哀そうな男だね」
私は耳を疑った。
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