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「行くぞ」
昨夜のうちにおばあ様に1日限定バイトの許可を取り付けた兄は、会社の作業着を着こんで私の前に立った。
「了解!」
男性スタッフは重たい荷物や廃棄物を運搬するので作業着の着用が義務付けられているが、軽作業や清掃を担当する女性スタッフはGパンとTシャツの上に、会社のロゴが入ったエプロンをつける事になっている。
昨日のうちに葛城に連絡を取り、私を見ても知らん顔をするように言ってある。
葛城邸の清掃及び廃棄物処理作業を担当するのは、ベテラン作業員の柏原さんをリーダーとしたグループで、我ら兄妹を入れて6名だ。
軽バンに4人が乗り込み、運搬用トラックに2人が乗った。
助手席に座った柏原さんが、後部座席に座る私たち兄妹に話しかけてきた。
「社長から1日だけ働かせてくれって言われたけど、どうしたの? 優紀君は受験生だし、バイトの必要無いんじゃない?」
兄がニコッと笑った。
「柏原さんのチームで良かったですよ。実はお願いがあって」
兄と相談し、チームリーダーである柏原さんには事情を説明することにしていた。
シロウトの私たちではわからないことも多いし、柏原さんなら話を聞いてくれると判断したからだ。
「なるほどね。まあクライアントが良いって言えば何の問題もないけれど、社長がなぁ」
「おばあ様には内緒にするつもりです。協力していただけませんか?」
私が女子高生の得意技である『うるうるおめめ』で懇願攻撃をしてみた。
「う~ん……まあ方法はあるっちゃあるけど」
兄が怒涛の波状攻撃を仕掛ける。
「こいつが友達のために動くなんて、今までなかった事なんです。だから僕も協力してやろうって思って……柏原さん、よろしく頼みます」
「まあ優紀君がそこまで言うなら協力するけど、社長にバレたら頼むよ?」
「そこは任せてください」
兄がドンと胸を叩いた。
「わかった。洋子ちゃんの友達思いの優しさに免じて協力するよ。でもタイミングって言うのもあるからさ、拙いと思ったら引いてね」
「わかりました。無理はしません」
そうして到着した葛城邸は、団地の中でもバス道路に面した場所にあった。
二台分の駐車場の横に、申し訳程度の庭があり、それらに挟まれる形で玄関ドアがある。
外壁は白で、屋根はオレンジ……まるで地中海辺りの家のようなデザインだ。
「思ったよりデカいな。ここに1人で住んでたの?」
「そうだね……きっと寂しかっただろうね」
柏原さんが私たちを見て頷いた。
「おはようございます。昭三清掃から参りました」
チャイムを押して声を掛ける。
パタパタと足音がしてガチャリとドアが開いた。
「ご苦労様です」
葛城沙也だった。
数秒目が合ったが、約束通り何も言わない。
「どちらからかかりましょうか」
柏原さんが淡々と進めていく。
「あ……えっと……では二階から」
葛城が案内するように先導し、私たちは後ろに続く。
「この部屋は全部ですか?」
ギュッと口を結んだが、思い切るように頷いた葛城は泣いてはいなかった。
「はい……この部屋のは全部です」
頷いた柏原さんがテキパキと指示を出していく。
ものの30分ほどで大型家具は撤去され、残っているのは押し入れの中にある数個の段ボールだけとなった。
「これもですか?」
「はい……それもお願いします」
この段ボールに何が入っているのかはわからないが、運ばれていくそれを悲しそうな顔で見送る葛城の手はずっと握りしめられていた。
「では洋子ちゃんはここの掃除を頼むよ」
そう言った柏原さんは、向かいの部屋へと移っていった。
昨夜のうちにおばあ様に1日限定バイトの許可を取り付けた兄は、会社の作業着を着こんで私の前に立った。
「了解!」
男性スタッフは重たい荷物や廃棄物を運搬するので作業着の着用が義務付けられているが、軽作業や清掃を担当する女性スタッフはGパンとTシャツの上に、会社のロゴが入ったエプロンをつける事になっている。
昨日のうちに葛城に連絡を取り、私を見ても知らん顔をするように言ってある。
葛城邸の清掃及び廃棄物処理作業を担当するのは、ベテラン作業員の柏原さんをリーダーとしたグループで、我ら兄妹を入れて6名だ。
軽バンに4人が乗り込み、運搬用トラックに2人が乗った。
助手席に座った柏原さんが、後部座席に座る私たち兄妹に話しかけてきた。
「社長から1日だけ働かせてくれって言われたけど、どうしたの? 優紀君は受験生だし、バイトの必要無いんじゃない?」
兄がニコッと笑った。
「柏原さんのチームで良かったですよ。実はお願いがあって」
兄と相談し、チームリーダーである柏原さんには事情を説明することにしていた。
シロウトの私たちではわからないことも多いし、柏原さんなら話を聞いてくれると判断したからだ。
「なるほどね。まあクライアントが良いって言えば何の問題もないけれど、社長がなぁ」
「おばあ様には内緒にするつもりです。協力していただけませんか?」
私が女子高生の得意技である『うるうるおめめ』で懇願攻撃をしてみた。
「う~ん……まあ方法はあるっちゃあるけど」
兄が怒涛の波状攻撃を仕掛ける。
「こいつが友達のために動くなんて、今までなかった事なんです。だから僕も協力してやろうって思って……柏原さん、よろしく頼みます」
「まあ優紀君がそこまで言うなら協力するけど、社長にバレたら頼むよ?」
「そこは任せてください」
兄がドンと胸を叩いた。
「わかった。洋子ちゃんの友達思いの優しさに免じて協力するよ。でもタイミングって言うのもあるからさ、拙いと思ったら引いてね」
「わかりました。無理はしません」
そうして到着した葛城邸は、団地の中でもバス道路に面した場所にあった。
二台分の駐車場の横に、申し訳程度の庭があり、それらに挟まれる形で玄関ドアがある。
外壁は白で、屋根はオレンジ……まるで地中海辺りの家のようなデザインだ。
「思ったよりデカいな。ここに1人で住んでたの?」
「そうだね……きっと寂しかっただろうね」
柏原さんが私たちを見て頷いた。
「おはようございます。昭三清掃から参りました」
チャイムを押して声を掛ける。
パタパタと足音がしてガチャリとドアが開いた。
「ご苦労様です」
葛城沙也だった。
数秒目が合ったが、約束通り何も言わない。
「どちらからかかりましょうか」
柏原さんが淡々と進めていく。
「あ……えっと……では二階から」
葛城が案内するように先導し、私たちは後ろに続く。
「この部屋は全部ですか?」
ギュッと口を結んだが、思い切るように頷いた葛城は泣いてはいなかった。
「はい……この部屋のは全部です」
頷いた柏原さんがテキパキと指示を出していく。
ものの30分ほどで大型家具は撤去され、残っているのは押し入れの中にある数個の段ボールだけとなった。
「これもですか?」
「はい……それもお願いします」
この段ボールに何が入っているのかはわからないが、運ばれていくそれを悲しそうな顔で見送る葛城の手はずっと握りしめられていた。
「では洋子ちゃんはここの掃除を頼むよ」
そう言った柏原さんは、向かいの部屋へと移っていった。
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