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夏休みも後数日となった頃、いつも私より早く来ている葛城が遅れてやってきた。
「どうしたの? 珍しいね。電車が遅れてた?」
「ううん、ちょっと昨日眠れなくて……」
「ああ、そういうことか。病気かと思って心配したよ。また新しい振付けの特訓かな?」
「違うの……ねえ、洋子ちゃん。今日さぁ、お勉強休まない? 私……わたし……」
そう言うと葛城沙也が泣き出した。
たくさんの人達が行きかっているとはいえ、ここは図書館。
冷たいフロアタイルにぺチャッと座り、幼い子供のように泣き始めた少女と、その横に佇む私。
どう見ても『悪役令嬢』と『ヒロイン』を想像するじゃないか。
「どうした? ケンカ?」
見知らぬ男の人が声を掛けてきた。
「あ……いえ、違います。急に泣き出しちゃって」
「どこか痛いのかな?」
そう言うとその男性は葛城の肩に手をかけて、顔を覗き込むようにして言った。
「大丈夫? どこか痛めたの?」
しゃくりあげながら葛城が首を横に振る。
困ったその男性が、私に助けを求めた。
「そこのベンチに移動させようか」
頷いた私は、その人と一緒に葛城を両脇から支えて移動した。
「どうしたの? 葛城……何があった?」
私の問いに顔を上げた葛城は、思い出したように大声を上げて泣き始めてしまった。
横から伸びてきた葛城の手が、ぎゅうぎゅうと私の首を締め付ける。
これが噂に聞く『アーム・トライアングル・チョーク』というものか?
拙い……息が……
「こらこら、お友達が窒息しちゃうでしょ。手を離してあげなさい」
葛城の腕が緩み、私はやっと息を吸うことができた。
マジでヤバかった。
ありがとう、通りすがりのお兄さん。
私は彼のことを心の中でメシアと呼ぶことにした。
「ああ、落ち着いたみたいだね。じゃあ僕は行くけど、君は大丈夫?」
メシアの声に頷いた私は、弾けるように立ち上がって礼をした。
「ありがとうございました。お陰さまで助かりました」
「いやいや、お役になてたのなら何よりだよ。じゃあ頑張ってね」
床に投げ出していたカーキ色のトートバッグを拾い上げ、メシアは去って行った。
「葛城、出ようか」
私はまだしゃくりあげている葛城の腕をとって、図書館を出た。
まだ昼前だというのに8月の太陽は容赦なく照り付けてくる。
こんな日は併設されている児童公園で遊ぶ子供もいない。
「あそこは?」
私は大きな桜の木の下に設置されているベンチを指さした。
葛城は頷いて大人しくついてくる。
鞄から水筒を出して冷えた麦茶を注いだ。
「飲みなよ。ヤカンで煮出してるから美味しいよ」
コクンと頷いた葛城は、一気にそれを飲み干した。
「ありがとね、洋子ちゃん」
「何があった?」
「あのね……」
葛城の口から出てきた話は、私の想像を遥かに上回るものだった。
「どうしたの? 珍しいね。電車が遅れてた?」
「ううん、ちょっと昨日眠れなくて……」
「ああ、そういうことか。病気かと思って心配したよ。また新しい振付けの特訓かな?」
「違うの……ねえ、洋子ちゃん。今日さぁ、お勉強休まない? 私……わたし……」
そう言うと葛城沙也が泣き出した。
たくさんの人達が行きかっているとはいえ、ここは図書館。
冷たいフロアタイルにぺチャッと座り、幼い子供のように泣き始めた少女と、その横に佇む私。
どう見ても『悪役令嬢』と『ヒロイン』を想像するじゃないか。
「どうした? ケンカ?」
見知らぬ男の人が声を掛けてきた。
「あ……いえ、違います。急に泣き出しちゃって」
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そう言うとその男性は葛城の肩に手をかけて、顔を覗き込むようにして言った。
「大丈夫? どこか痛めたの?」
しゃくりあげながら葛城が首を横に振る。
困ったその男性が、私に助けを求めた。
「そこのベンチに移動させようか」
頷いた私は、その人と一緒に葛城を両脇から支えて移動した。
「どうしたの? 葛城……何があった?」
私の問いに顔を上げた葛城は、思い出したように大声を上げて泣き始めてしまった。
横から伸びてきた葛城の手が、ぎゅうぎゅうと私の首を締め付ける。
これが噂に聞く『アーム・トライアングル・チョーク』というものか?
拙い……息が……
「こらこら、お友達が窒息しちゃうでしょ。手を離してあげなさい」
葛城の腕が緩み、私はやっと息を吸うことができた。
マジでヤバかった。
ありがとう、通りすがりのお兄さん。
私は彼のことを心の中でメシアと呼ぶことにした。
「ああ、落ち着いたみたいだね。じゃあ僕は行くけど、君は大丈夫?」
メシアの声に頷いた私は、弾けるように立ち上がって礼をした。
「ありがとうございました。お陰さまで助かりました」
「いやいや、お役になてたのなら何よりだよ。じゃあ頑張ってね」
床に投げ出していたカーキ色のトートバッグを拾い上げ、メシアは去って行った。
「葛城、出ようか」
私はまだしゃくりあげている葛城の腕をとって、図書館を出た。
まだ昼前だというのに8月の太陽は容赦なく照り付けてくる。
こんな日は併設されている児童公園で遊ぶ子供もいない。
「あそこは?」
私は大きな桜の木の下に設置されているベンチを指さした。
葛城は頷いて大人しくついてくる。
鞄から水筒を出して冷えた麦茶を注いだ。
「飲みなよ。ヤカンで煮出してるから美味しいよ」
コクンと頷いた葛城は、一気にそれを飲み干した。
「ありがとね、洋子ちゃん」
「何があった?」
「あのね……」
葛城の口から出てきた話は、私の想像を遥かに上回るものだった。
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