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28話 宿への帰り道
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「よし! 買い物も終わったみたいだから、ディモが選んだ森の安らぎ亭に戻ろうか?」
「そうだね。あれ? アメーリエさんは?」
「そう言えば居ないね? 案内役が先に帰るなんてなにを考えてるんだい。気にせずに戻ったら良いんだよ。行くよ。ディモ」
「えっ? う、うん」
よろず屋を出た二人は喋りながら宿に向かって歩いていた。アメーリエの姿は店の中にも出てからも見られず、キョロキョロと探すディモにヘレーナは気にせずに宿に戻るように話した。そしてディモの手を引っ張りながら宿に向かう。道中、ディモから購入した香辛料を見せて貰いながら楽しそうに森の安らぎ亭へ道を間違う事なく進んでいた。
「あれ? お姉ちゃんは森の安らぎ亭がどこにあるか知ってるの? さっきから先に歩いて道を間違ってないけど?」
「ふふ。ディモが通った道だから分かるよ。だってお姉ちゃんだからね! あっ! そこは右に曲がるんだよ。道に間違うディモも可愛いねー」
宿の名前しか話していないにもかかわらず道に迷わないヘレーナに、ディモは首を傾げながら尋ねる。そんな表情も可愛いと感じながらヘレーナは笑みを深めながら答えた。爽やかに言い切ったヘレーナの表情を見て、そんなものかと納得したディモは左に曲がろうとする。ヘレーナから道の間違いを指摘されたディモは頭を掻いて照れ隠しをすると、慌てて右の道を進んだ。
「あれ? こっちだと思ったよ」
「ふふふ。お姉ちゃんはディモの匂いで分かるからね」
「ちょっと! 置いていくなんて酷いじゃない!」
「え?」
「ちっ」
二人が仲良く手を繋いで帰っていると、背後から風を感じる勢いで誰かが近付いてくる。ディモは不思議そうな顔で、ヘレーナは舌打ちをしながら振り返った。そこには息を荒げ、肩で息をしつつ苦しそうにしているアメーリエの顔があった。
「あれ? 先に帰ったんじゃないの?」
「お客様を放置して先に帰るわけないじゃない! それにヘレーナさんが『あっちに荷物を預けてるから取ってきてくれ』と言ったんでしょ!」
「お姉ちゃん?」
「イヤ、オネエチャンハソンナコトヲイッテナイヨ?」
ディモの問い掛けにアメーリエが必死の表情で言い訳と抗議をしてヘレーナを睨む。そっぽを向いて下手くそな口笛を吹きつつ片言で誤魔化した。
「えー! そんな適当な誤魔化し? ほら! ディモ君も怒ってよ!」
「うるさいよ! 別に良いだろ! だってディモと一緒に街を歩きたかったんだもん!」
「お姉ちゃん?」
「ゴメンナサイ。モウシマセン。ホントウニハンセイシテイマス。……。そう言えば、あんたあの店の跡継ぎなんだって?」
アメーリエの素っ頓狂な声にヘレーナがそっぽを向いたまま反論する。だが、ディモが半目で呟くと、一転して頭を下げた。途中まで謝っていたヘレーナだったが、急にアメーリエに質問する。
「らしいね。でも、私は継がないよ。私には森の安らぎ亭があるから」
それまでは表情豊かに喋っていたアメーリエだったが、よろず屋の跡継ぎ問題の話になると急に無表情になった。ディモは心配そうな顔をしたが、ヘレーナは興味が失せたようで話を打ち切った。
「まあ、私達には関係ない話だからね。ディモも気にしなくていいよ。そんな顔をお姉ちゃんに見せないで」
「それには同意。そんな顔をしなくてもいいよ。私はお母さんみたいに宿屋の女将さんになりたいだけだから」
「そうなんだけどね。何かがモヤモヤするんだよね……」
二人から心配しなくても良いと言われたディモだったが、何かが気になるようでしばらく無口で考え込むのだった。
◇□◇□◇□
「ただいまー。ちゃんとディモ君を食料品店に連れていったよ! 喜んでくれたよ!」
「ヘルマンさんも喜んでくれたでしょ?」
「知らない。ディモ君が実演販売をしてお客さんが多く来てたから喜んでくれたんじゃない? ……。では、ディモ様。夕食は一時間後になります。部屋に戻られた呼びに行きますね。ご用がありましたらお声かけください。では、失礼しますね」
「ちょっと待ちなさい! アメーリエ!」
無表情になったアメーリエにリカルダが声を掛けたが、振り返る事なく厨房に入っていった。完全に無視されたリカルダは渋い顔をしながらも、二人の視線に気付くと慌てて笑顔になる。
「すいません。食事をこれから作りますのでお部屋でゆっくりとなさってください。それともどこかに出かけられますか?」
「今日はもう大丈夫!」
「二人でゆっくりするから夕食が出来たら呼んでおくれ」
リカルダの確認に二人は部屋に戻る事を告げると階段を昇った。扉を開け、部屋に入ると疲れたのかディモはベッドにダイブする。その状態でポヨンポヨンと跳ねている様子を見ながら、まだディモが考え込んでいる事に気付いたヘレーナは横に座って一緒に弾みながら声を掛けた。
「なにか気になるのかい?」
「うん。アメーリエさんとヘルマンさんは仲が悪いように見えなかったよね?」
「そうだね。仲の悪い人間が経営している店にお客を案内はしないね」
「だよね! それに、お店も継げばいいと思うのに、なんであんなに否定するんだろう?」
「お姉ちゃんには分からないなー。ディモの事なら一所懸命に調べるけどねー」
ヘレーナの言葉にディモは苦笑しながら、後でアメーリエに話を聞こうと決めるのだった。
「そうだね。あれ? アメーリエさんは?」
「そう言えば居ないね? 案内役が先に帰るなんてなにを考えてるんだい。気にせずに戻ったら良いんだよ。行くよ。ディモ」
「えっ? う、うん」
よろず屋を出た二人は喋りながら宿に向かって歩いていた。アメーリエの姿は店の中にも出てからも見られず、キョロキョロと探すディモにヘレーナは気にせずに宿に戻るように話した。そしてディモの手を引っ張りながら宿に向かう。道中、ディモから購入した香辛料を見せて貰いながら楽しそうに森の安らぎ亭へ道を間違う事なく進んでいた。
「あれ? お姉ちゃんは森の安らぎ亭がどこにあるか知ってるの? さっきから先に歩いて道を間違ってないけど?」
「ふふ。ディモが通った道だから分かるよ。だってお姉ちゃんだからね! あっ! そこは右に曲がるんだよ。道に間違うディモも可愛いねー」
宿の名前しか話していないにもかかわらず道に迷わないヘレーナに、ディモは首を傾げながら尋ねる。そんな表情も可愛いと感じながらヘレーナは笑みを深めながら答えた。爽やかに言い切ったヘレーナの表情を見て、そんなものかと納得したディモは左に曲がろうとする。ヘレーナから道の間違いを指摘されたディモは頭を掻いて照れ隠しをすると、慌てて右の道を進んだ。
「あれ? こっちだと思ったよ」
「ふふふ。お姉ちゃんはディモの匂いで分かるからね」
「ちょっと! 置いていくなんて酷いじゃない!」
「え?」
「ちっ」
二人が仲良く手を繋いで帰っていると、背後から風を感じる勢いで誰かが近付いてくる。ディモは不思議そうな顔で、ヘレーナは舌打ちをしながら振り返った。そこには息を荒げ、肩で息をしつつ苦しそうにしているアメーリエの顔があった。
「あれ? 先に帰ったんじゃないの?」
「お客様を放置して先に帰るわけないじゃない! それにヘレーナさんが『あっちに荷物を預けてるから取ってきてくれ』と言ったんでしょ!」
「お姉ちゃん?」
「イヤ、オネエチャンハソンナコトヲイッテナイヨ?」
ディモの問い掛けにアメーリエが必死の表情で言い訳と抗議をしてヘレーナを睨む。そっぽを向いて下手くそな口笛を吹きつつ片言で誤魔化した。
「えー! そんな適当な誤魔化し? ほら! ディモ君も怒ってよ!」
「うるさいよ! 別に良いだろ! だってディモと一緒に街を歩きたかったんだもん!」
「お姉ちゃん?」
「ゴメンナサイ。モウシマセン。ホントウニハンセイシテイマス。……。そう言えば、あんたあの店の跡継ぎなんだって?」
アメーリエの素っ頓狂な声にヘレーナがそっぽを向いたまま反論する。だが、ディモが半目で呟くと、一転して頭を下げた。途中まで謝っていたヘレーナだったが、急にアメーリエに質問する。
「らしいね。でも、私は継がないよ。私には森の安らぎ亭があるから」
それまでは表情豊かに喋っていたアメーリエだったが、よろず屋の跡継ぎ問題の話になると急に無表情になった。ディモは心配そうな顔をしたが、ヘレーナは興味が失せたようで話を打ち切った。
「まあ、私達には関係ない話だからね。ディモも気にしなくていいよ。そんな顔をお姉ちゃんに見せないで」
「それには同意。そんな顔をしなくてもいいよ。私はお母さんみたいに宿屋の女将さんになりたいだけだから」
「そうなんだけどね。何かがモヤモヤするんだよね……」
二人から心配しなくても良いと言われたディモだったが、何かが気になるようでしばらく無口で考え込むのだった。
◇□◇□◇□
「ただいまー。ちゃんとディモ君を食料品店に連れていったよ! 喜んでくれたよ!」
「ヘルマンさんも喜んでくれたでしょ?」
「知らない。ディモ君が実演販売をしてお客さんが多く来てたから喜んでくれたんじゃない? ……。では、ディモ様。夕食は一時間後になります。部屋に戻られた呼びに行きますね。ご用がありましたらお声かけください。では、失礼しますね」
「ちょっと待ちなさい! アメーリエ!」
無表情になったアメーリエにリカルダが声を掛けたが、振り返る事なく厨房に入っていった。完全に無視されたリカルダは渋い顔をしながらも、二人の視線に気付くと慌てて笑顔になる。
「すいません。食事をこれから作りますのでお部屋でゆっくりとなさってください。それともどこかに出かけられますか?」
「今日はもう大丈夫!」
「二人でゆっくりするから夕食が出来たら呼んでおくれ」
リカルダの確認に二人は部屋に戻る事を告げると階段を昇った。扉を開け、部屋に入ると疲れたのかディモはベッドにダイブする。その状態でポヨンポヨンと跳ねている様子を見ながら、まだディモが考え込んでいる事に気付いたヘレーナは横に座って一緒に弾みながら声を掛けた。
「なにか気になるのかい?」
「うん。アメーリエさんとヘルマンさんは仲が悪いように見えなかったよね?」
「そうだね。仲の悪い人間が経営している店にお客を案内はしないね」
「だよね! それに、お店も継げばいいと思うのに、なんであんなに否定するんだろう?」
「お姉ちゃんには分からないなー。ディモの事なら一所懸命に調べるけどねー」
ヘレーナの言葉にディモは苦笑しながら、後でアメーリエに話を聞こうと決めるのだった。
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