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26話 食料品店でのイベント
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「こんな大金をお小遣いにするなんて……。お姉ちゃんは僕になにをして欲しいんだろ?」
「どうかした? えっ! な、なに! その大金! ここになにを買いに来たの?」
がま口財布からディモの手に転がり落ちてきた金貨を見たアメーリエが思わず大声を上げそうになる。慌てて口を押さえた後に小声になると、呆れたような顔で確認してきた。
「僕も、こんな大金が入っているなんて思わなかったんだよ! でも、これだけあれば大量の調味料が買えるよ。一通り買って使ってみようかな?」
「おや? アメーリエじゃないですか? 今日は宿屋の買い出しですか? それとも彼氏ですか?」
「ああ。この人は、この食料品店オーナーのマテウスさんだよ。彼氏なわけないでしょ! 宿屋に泊まりに来たお客様よ! 絶対に違うからね!」
「? そんなに必死に否定しなくても。初めまして。お客様。食料品店『よろず屋』オーナーのマテウスです」
「初めまして! ディモです。このお店素晴らしいですね! 調味料を全種類買おうと思ってます」
二人で金額の多さにわきゃわきゃしていると背後から声が掛かる。慌てて振り向いた際にいたのは恰幅の良い男性が笑顔で近付いてきた。恋人発言を必死で否定しているアメーリエにマテウスは首を傾げながらも、ディモに興味があるようで笑顔を向けながら質問する。
「調味料を全て購入して頂ける? お客様は調理人なのでしょうか?」
「調理人じゃなくて旅人だよ。でも、途中で野営をしながら調理する事がある。やっぱり、料理をするなら調味料が多い方が色々なレシピを参考に作れるからね」
「ほう。レシピを参考に料理を?」
得意気に質問に答えたディモを、商売人の顔になったマテウスの目が効果音付きで光ったように見えた。何気ない足取りで調味料の棚に置いてあるハーブを手に取り、ディモに渡しながら質問する。
「例えば、このハーブを使って料理をされるならなにを作られますか?」
「えっ? うーん。このハーブなら……。ちょっと待ってね。お母さんのレシピっと!」
ディモは背負い袋から母親のレシピを取り出すと、ページをめくりながらブツブツと呟き始める。アメーリエが声を掛けようとしたが、マテウスに止められる。しばらく悩んでいたディモだったが、なにかを思い付いたようで目を輝かせると顔を上げた。
「このハーブだったら熊型魔物の肉に詰め込んでハーブの香りを付けるかな。後は肉を塩で固めて焼けば、塩が染みこんで良い感じに料理が出来ると思う」
「ほう! ……。それは良いですな。作り方を教えて貰っても?」
「いいよ! なんだったらすぐにでも!」
レシピを聞いていたマテウスは、しばらく黙って目をつぶってなにかを考えていたが、目を開くと真剣な目をして提案する。ディモは明るい声で了承すると、目を輝かせたマテウスは近くにいた店員に声を掛けるとなにかを指示するのだった。
◇□◇□◇□
「ん! こっちからディモの匂いがする。これは楽しんでいる匂いだね。なっ……。なに!」
ディモを探していたヘレーナは、鼻をクンクンとさせながらよろず屋の扉を開ける。そこには楽しそうに料理をしているディモと、その周りに集まっている女性の多さに驚いていた。その中心にいるディモは、汗をかきながら料理をしており、楽しそうになにかを喋っていた。
「ディ、ディモ? なんでそんなに楽しそうに喋ってるの?」
「ヘ、ヘレーナさん! これは……」
「あっ! お姉ちゃん! さっき紹介していたとこなんだよ! こっちに来て! 皆さん。先ほど紹介していた僕のお姉ちゃんです」
フラフラと鬼気迫る顔で近付いて来たヘレーナを見てアメーリエの顔が青ざめる。そんな表情の二人に、一人だけ気付いていないディモは輝くような笑みを浮かべるとヘレーナの手を取って集まっている女性達に紹介を始める。
「えっ? な、なに? この人達は誰?」
「僕の実演販売を見に来てくれた、この街の奥様方達だよ!」
集まっている数十人の女性から視線を受けて、戦場とは違う威圧感が襲ってくる。だが、一瞬で圧力は弱まり、優しい表情になった。
「まあ。あなたがお姉ちゃん?」
「なるほどねー。確かにお姉ちゃんって感じだね」
「ディモ君の手料理をいつも食べられるのかー。羨ましいわねー」
「自慢のお姉ちゃんが来たわよ!」
「でしょ! 自慢のお姉ちゃんだからね! あっ! 丁度、出来上がったみたいだよ」
ワイワイとヘレーナを囲んで喋ってくる奥様方達に圧倒されたながらヘレーナが困惑していると、ディモが嬉しそうにしながら料理の完成を告げてきた。
「ここで料理をしていたのかい?」
「うん!」
「そうです。私が依頼をしました。おお。自己紹介がまだでしたね。私はよろず屋オーナーのマテウスを申します。ヘレーナ様ですよね? ディモ君には無理を言って料理をして貰いました」
「無理を言った? ディモにかい?」
「違うよ! 僕が楽しんで料理をしたんだよ! お姉ちゃんに作る料理の練習にもなるからね。ここって凄いんだよ! 色々な調味料があってさ! それだけじゃなくて、食材も多くて街一番の食料品店なのも頷けるんだよ! それにね……」
呆然としながら確認したヘレーナに大きく頷くディモ。それを補足するようにマテウスが話し始める。無理を言ったとの発言に一瞬目を細めたヘレーナに慌ててディモがフォローに入る。嬉しそうに事情を説明しながら、最後は話が逸れてよろず屋を褒めたたえる話になっているのだった。
「どうかした? えっ! な、なに! その大金! ここになにを買いに来たの?」
がま口財布からディモの手に転がり落ちてきた金貨を見たアメーリエが思わず大声を上げそうになる。慌てて口を押さえた後に小声になると、呆れたような顔で確認してきた。
「僕も、こんな大金が入っているなんて思わなかったんだよ! でも、これだけあれば大量の調味料が買えるよ。一通り買って使ってみようかな?」
「おや? アメーリエじゃないですか? 今日は宿屋の買い出しですか? それとも彼氏ですか?」
「ああ。この人は、この食料品店オーナーのマテウスさんだよ。彼氏なわけないでしょ! 宿屋に泊まりに来たお客様よ! 絶対に違うからね!」
「? そんなに必死に否定しなくても。初めまして。お客様。食料品店『よろず屋』オーナーのマテウスです」
「初めまして! ディモです。このお店素晴らしいですね! 調味料を全種類買おうと思ってます」
二人で金額の多さにわきゃわきゃしていると背後から声が掛かる。慌てて振り向いた際にいたのは恰幅の良い男性が笑顔で近付いてきた。恋人発言を必死で否定しているアメーリエにマテウスは首を傾げながらも、ディモに興味があるようで笑顔を向けながら質問する。
「調味料を全て購入して頂ける? お客様は調理人なのでしょうか?」
「調理人じゃなくて旅人だよ。でも、途中で野営をしながら調理する事がある。やっぱり、料理をするなら調味料が多い方が色々なレシピを参考に作れるからね」
「ほう。レシピを参考に料理を?」
得意気に質問に答えたディモを、商売人の顔になったマテウスの目が効果音付きで光ったように見えた。何気ない足取りで調味料の棚に置いてあるハーブを手に取り、ディモに渡しながら質問する。
「例えば、このハーブを使って料理をされるならなにを作られますか?」
「えっ? うーん。このハーブなら……。ちょっと待ってね。お母さんのレシピっと!」
ディモは背負い袋から母親のレシピを取り出すと、ページをめくりながらブツブツと呟き始める。アメーリエが声を掛けようとしたが、マテウスに止められる。しばらく悩んでいたディモだったが、なにかを思い付いたようで目を輝かせると顔を上げた。
「このハーブだったら熊型魔物の肉に詰め込んでハーブの香りを付けるかな。後は肉を塩で固めて焼けば、塩が染みこんで良い感じに料理が出来ると思う」
「ほう! ……。それは良いですな。作り方を教えて貰っても?」
「いいよ! なんだったらすぐにでも!」
レシピを聞いていたマテウスは、しばらく黙って目をつぶってなにかを考えていたが、目を開くと真剣な目をして提案する。ディモは明るい声で了承すると、目を輝かせたマテウスは近くにいた店員に声を掛けるとなにかを指示するのだった。
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「ん! こっちからディモの匂いがする。これは楽しんでいる匂いだね。なっ……。なに!」
ディモを探していたヘレーナは、鼻をクンクンとさせながらよろず屋の扉を開ける。そこには楽しそうに料理をしているディモと、その周りに集まっている女性の多さに驚いていた。その中心にいるディモは、汗をかきながら料理をしており、楽しそうになにかを喋っていた。
「ディ、ディモ? なんでそんなに楽しそうに喋ってるの?」
「ヘ、ヘレーナさん! これは……」
「あっ! お姉ちゃん! さっき紹介していたとこなんだよ! こっちに来て! 皆さん。先ほど紹介していた僕のお姉ちゃんです」
フラフラと鬼気迫る顔で近付いて来たヘレーナを見てアメーリエの顔が青ざめる。そんな表情の二人に、一人だけ気付いていないディモは輝くような笑みを浮かべるとヘレーナの手を取って集まっている女性達に紹介を始める。
「えっ? な、なに? この人達は誰?」
「僕の実演販売を見に来てくれた、この街の奥様方達だよ!」
集まっている数十人の女性から視線を受けて、戦場とは違う威圧感が襲ってくる。だが、一瞬で圧力は弱まり、優しい表情になった。
「まあ。あなたがお姉ちゃん?」
「なるほどねー。確かにお姉ちゃんって感じだね」
「ディモ君の手料理をいつも食べられるのかー。羨ましいわねー」
「自慢のお姉ちゃんが来たわよ!」
「でしょ! 自慢のお姉ちゃんだからね! あっ! 丁度、出来上がったみたいだよ」
ワイワイとヘレーナを囲んで喋ってくる奥様方達に圧倒されたながらヘレーナが困惑していると、ディモが嬉しそうにしながら料理の完成を告げてきた。
「ここで料理をしていたのかい?」
「うん!」
「そうです。私が依頼をしました。おお。自己紹介がまだでしたね。私はよろず屋オーナーのマテウスを申します。ヘレーナ様ですよね? ディモ君には無理を言って料理をして貰いました」
「無理を言った? ディモにかい?」
「違うよ! 僕が楽しんで料理をしたんだよ! お姉ちゃんに作る料理の練習にもなるからね。ここって凄いんだよ! 色々な調味料があってさ! それだけじゃなくて、食材も多くて街一番の食料品店なのも頷けるんだよ! それにね……」
呆然としながら確認したヘレーナに大きく頷くディモ。それを補足するようにマテウスが話し始める。無理を言ったとの発言に一瞬目を細めたヘレーナに慌ててディモがフォローに入る。嬉しそうに事情を説明しながら、最後は話が逸れてよろず屋を褒めたたえる話になっているのだった。
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