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番外編

母の勘

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「あらレオン、顔つきが変わった……もしかして?」

 研究室に資料を持ってきたレオンの母は、息子の顔を覗き込む。

「やっぱり、そう思いますよね」
「思うわね、間違いないんじゃないかしら」
「? 二人とも、何の話?」

 セルトレインも加わり、何故か意気投合している母と親友にレオンは首を傾げる。

「なにって、レオンのお腹の子の話よ」
「俺のお腹の子??????」

 レオンは思わず自分のお腹をさする。

「多分だけど妊娠してるんじゃない? 次の発情期っていつ?」

 セルトレインの言葉にレオンはハッとする。

(そうだ、そろそろ火照ったりとか発情の予兆が出てくる時期なのに、まだ何もない!!)

「え、あ、お、え、お、あ、え、お、え、え?」
「レオン、とりあえず落ち着こう」

 思わず両手をふらふらと動かし、変な踊りを踊り始めたレオンをセルトレインが制止する。

「そんなに慌てなくても検査すればわかることよ。検査薬持ってきてあげるわ」
「え、ちょ、母さんまっ、心の準備が……」

 時は金なりと言わんばかりにレオンの母は素早く研究室を後にする。息子の戸惑いなど見事に無視を決め込んだ。

「おめでとうレオン」
「え、ちょっと気が早いよ」
「でも心当たりはあるんでしょ?」
「う、それはまぁ」

 今までの発情期は避妊薬を飲んでいた、というか飲まされていた。
 それはレオンが子どもを産みたくないのだと思っていたユーグリッドの気遣いだった。だが、その誤解もとけて前回の発情期でははじめて避妊をしなかった。
 基本的に発情期のΩとαが交わえば着床率は100%だ。

 気が早いと言いつつも、言われれば心当たりしかないレオンも思わず顔がほころんでしまう。

(ユーグリッド様喜んでくれるかなぁ)

 ぶしゅーと蒸気が出そうなほど顔を真っ赤にして、にこにこと大切なものを包むようにレオンはお腹を撫で始める。
 そんな幸せしか目に入っていない親友に不安を感じ、セルトレインは迷いつつも忠告をすることにした。

「あのさレオン。あまり子どもばかり気にすると……兄さんがねるから程々にね?」

 セルトレインの言葉にレオンはキョトンとした顔をする。

「大丈夫だよ。ユーグリッド様はそんなに心狭くないから」

 即答である。

 レオンの兄に対するこの絶対的な信頼はどこから来るのか?
 あんなヘタレで暴走しがちなαなのに。

「あっと、そうは言ってもコーディもね、まあまあ拗ねたからαってそういう生き物っていうか」
「コデルリヒト様はセルのこと大好きすぎるから妬きそうだけど、ユーグリッド様はそこまでじゃないし、落ち着いてるから大丈夫だよ」
「…………ソウダネ」

 きらきらとした笑顔で自分の番ユーグリッドが子どもを喜んでくれると信じて疑わない親友に不安しかない。
 どれほどユーグリッドがレオンに執着しているのか、気付いてないのは本人だけなのだ。
 子どもができたと聞いて、一番近い位置、しかもレオンのからだの中に、自分以外の存在がいることに、あの兄が耐えられるだろうか。耐えてもらうしかない。いや耐えろ。
 セルトレインは疑問形から最終的には命令形で兄へ思いを馳せ、もしユーグリッドが拗ねたり妬いたりして心なくレオンを傷付けたら、レオンと子どもをうちで保護しようと決意する。

「レオン、いい? 何かあったらなんでも相談していいからね!」
「ふふ、セルは心配性だなぁ」

 柔らかく微笑む親友の笑顔は必ず僕が守ってやると、セルトレインは心に誓うのだった。

 検査薬の結果、無事に懐妊していることが発覚し、レオンはその夜ユーグリッドに報告をした。
 レオンはどんな顔で報告すればいいのかわからず、早速セルトレインに相談しておけばよかったと思ったのも後の祭り。
 意を決すれば、もじもじしつつもレオンは首や耳まで赤く染めて「子どもができました」とユーグリッドに伝えた。

 ユーグリッドはそんなレオンの様子に息を呑む。

 ユーグリッドとて心当たりはしっかりあるので、そろそろ報告されるだろうと楽しみにしていた。
 それこそレオンから報告をされたらどのように返事をするか100通りは考えてあった。
 しかしだ、最愛の番レオンが誇らしげにそれでいて最高に幸せそうに、テレテレと真っ赤になりながら報告する姿があまりにも可愛すぎて、全部吹っ飛んだ。
 今までここまで可愛い番を見たことがあっただろうか、いやいつも可愛らしいが群を抜いている。

 ユーグリッドは溢れ出てくる感情やうめき声や鼻血をぐっと身に押し込めて、そっとレオンを抱きしめた。

「ユーグリッド様?」

 あまりに可愛くてうっかり我を忘れてレオンを抱きしめていたユーグリッドは、レオンの不思議そうな声に意識を取り戻す。

「……っすまない。感動してしまって」

 レオンの愛らしさに胸打たれていたのだから嘘ではない。もちろんそんなユーグリッドの内心など想像していないレオンは、ただただ伴侶が新しい命の誕生に感動したのだと素直に受け取った。

(やっぱりユーグリッド様は優しいし子ども好きだから喜んでくれた! セルが心配してたからちょっと不安だったけど……良かった)

「えへへ、わかります。俺もです。俺も親になるんだなぁ、ユーグリッド様の子を産めるんだなぁって思ったら嬉しくて」
 
 キュッと目元に力を入れて泣くのを耐えているレオンの頬に、ユーグリッドはキスをおとす。

 ユーグリッドの基準は全てレオンか否かであったが、懐妊を喜ぶレオンは物凄く愛おしいし子どものことも想像すれば自然とユーグリッドの顔もほころびた。
 きっとレオンの幼い頃に似て、すごく可愛いに違いない。

「オレたちの子どもに会えるのが楽しみだな」
「……はいっ」

 優しく微笑むユーグリッドの笑顔に、レオンの堪えていた嬉し涙が溢れ出た。
 その涙をユーグリッドは舐め取りながら、さらに強くレオンを抱きしめる。
 レオンは優しい伴侶アルファの姿に泣きながらもほわほわと微笑み、ぎゅと抱きしめ返すのだった。
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