17 / 30
本編
17話
しおりを挟む「え、えええ?? どうしたのセル??」
「お前までおかしくなったのか?」
微妙な空気を打ち破る様に絶叫したセルトレインは足をだむだむと踏み鳴らした。
「もう、我慢の限界!!! レオンが今回おかしい原因? それはね、例のハーブティーを飲んだからです!! 発情期も記憶が残る奴ね!!!」
セルトレインはレオンから手を放せば、びしっとユーグリッドを指さした。そのまま頭一つ以上背が高く、偉そうにしてるくせにヘタレな兄を睨みつける。
「だいたいねっ! 一緒にご飯食べてればその位は兄さんだって気付いたはずでしょ? 何で知らないのさっ!」
「……それは」
一緒に食事をするのは三か月に一度の発情期の確認の朝食と、妻同伴の仕事の食事会くらいだからとは、とても毛を逆立てた猫のように怒っている弟にユーグリッドは言えない。
「レオンもね!! 発情期の時以外にも兄さんにキスでもなんでも強請ってよ!! 責任とるっていってたんだから、ここぞとばかりに我儘いってやればいいじゃない!」
「セ、セル!!!!!!?」
親友の爆弾発言にレオンがさらに顔を真っ赤になりながら慌てる。
「そういうわけであとは二人でやってくれる? 仕事の邪魔!! ハイっ出ていってください!! あ、兄さん! レオン泣かせたらコーディに頼んでぶん殴ってもらうから覚悟しておいてね! お疲れ様でしたっ!!!」
凄い勢いでまくしたてるセルトレインに対抗するすべもなく、ユーグリッドとレオンは研究室の外に押し出されるとバタンと扉が乱暴に閉められた。
廊下に放り出されたが、レオンはどうしたらいいかわからず扉を見つめる。とてもじゃないがユーグリッドを見る勇気はない。
しかしこのまま挨拶をして屋敷に帰るのも、失礼だろう。
どうしたらいいのかと悩むレオンの横で、ユーグリッドは大きなため息をついた。
また、自分はユーグリッドに迷惑をかけているとレオンの胸がツキンと痛む。
「……身体はつらくないか?」
「あ、はい。大丈夫、です」
「そうか、なら少し付き合ってくれるか。話がしたい」
「ええと、ユーグリッド様のご迷惑になるんじゃ……」
「……それは、私とは話がしたくないって事か?」
「ち、違います!!」
思わずレオンは泣きそうな声を出す。これ以上、ユーグリッドの負担になりたくないだけなのに、上手く伝わらない。
俯いていれば、かちゃり、と研究室の扉がほんのすこし、本当に少しだけひらいて、ギラリと青い目が覗いた。
「ひっ…」
思わずレオンは悲鳴をあげて隣のユーグリッドの袖を掴む。扉から覗く目はギロリとユーグリッドを睨む。
「兄さん」
「……オレはレオンの意思をきいただけだ。ただでさえ薬のせいで発情期後の体調は良くないと聞いている。無理はさせたくない」
扉から覗く目はギロリとレオンに視線を移す。
「レオン、兄さんの顔が怖い時は怒ってる時じゃなくて後悔してる時だから。これ我が家の常識だから覚えておいて。あと兄さんがコーディに切り刻まれたくなかったらちゃんと二人で話してきて」
「それどういう脅しだよ……」
コデルリヒトはユーグリッドの無二の親友でもあるが、大切なセルトレインからのお願いなら親友兼義兄を切り捨てるくらい平気でするだろう。
学生時代、セルトレインに手を出そうとしたαを社会的にも精神的にも再起不能にした話は有名である。
扉から覗く青い瞳が、本気で国家権力を動かすと言っている。
「ちゃんと話すから、暴力はやめて、ね?」
知らずにユーグリッドの袖をぎゅっとレオンは握りしめながら、今まで見たことがないほど怒っている、と思われる、友人に答える。
そうすれば扉が再びぱたりと閉じられた。
二人同時に安堵の息を漏らしたが、「とりあえず、屋敷に帰るか」と先に声を発したのはユーグリッドだった。
53
お気に入りに追加
839
あなたにおすすめの小説

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭


【完結】僕の匂いだけがわかるイケメン美食家αにおいしく頂かれてしまいそうです
grotta
BL
【嗅覚を失った美食家α×親に勝手に婚約者を決められたΩのすれ違いグルメオメガバース】
会社員の夕希はブログを書きながら美食コラムニストを目指すスイーツ男子。αが嫌いで、Ωなのを隠しβのフリをして生きてきた。
最近グルメ仲間に恋人ができてしまい一人寂しくホテルでケーキを食べていると、憧れの美食評論家鷲尾隼一と出会う。彼は超美形な上にα嫌いの夕希でもつい心が揺れてしまうほどいい香りのフェロモンを漂わせていた。
夕希は彼が現在嗅覚を失っていること、それなのになぜか夕希の匂いだけがわかることを聞かされる。そして隼一は自分の代わりに夕希に食レポのゴーストライターをしてほしいと依頼してきた。
協力すれば美味しいものを食べさせてくれると言う隼一。しかも出版関係者に紹介しても良いと言われて舞い上がった夕希は彼の依頼を受ける。
そんな中、母からアルファ男性の見合い写真が送られてきて気分は急降下。
見合い=28歳の誕生日までというタイムリミットがある状況で夕希は隼一のゴーストライターを務める。
一緒に過ごしているうちにαにしては優しく誠実な隼一に心を開いていく夕希。そして隼一の家でヒートを起こしてしまい、体の関係を結んでしまう。見合いを控えているため隼一と決別しようと思う夕希に対し、逆に猛烈に甘くなる隼一。
しかしあるきっかけから隼一には最初からΩと寝る目的があったと知ってしまい――?
【受】早瀬夕希(27歳)…βと偽るΩ、コラムニストを目指すスイーツ男子。α嫌いなのに母親にαとの見合いを決められている。
【攻】鷲尾準一(32歳)…黒髪美形α、クールで辛口な美食評論家兼コラムニスト。現在嗅覚異常に悩まされている。
※東京のデートスポットでスパダリに美味しいもの食べさせてもらっていちゃつく話です♡
※第10回BL小説大賞に参加しています
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。


成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです

欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる