1 / 30
本編
1話
しおりを挟む飼い殺し、とはまさに自分の事だろう。
それはとても寂しく思うけど、恨む気持ちは少しもない。
番である伴侶の服をベッドにもっさり積み上げる。
他にももっと……と本能が匂いを探す。
椅子のクッションとか、ソファーのカバーとか外してベッドに置く。
自分の服を脱ぎ全裸になればベッドの、心地よくも頭の奥がぐらぐらするような安心と不安を掻き立てる匂いの中に身を入れ、鳥の巣のように自分の周りを囲っていく。
巣の中には葡萄や桃などの、とにかく水分を補給できる果実も籠に入れて置いておく。
これから一週間、自分の、自分だけの大事な大事な巣だ。
本来は番も一緒に過ごすはずの巣を使うのは一人。
不毛だし、虚しい。
それでも私物を自由に使わせてくれる伴侶の寛大さに感謝しなければならない。一週間後にはぐちゃぐちゃでとても使えるものではなくなってしまうのに、好きにしていいと言ってくれている。
金色の髪と涼し気な青い瞳の番の姿を思い出せば、彼の匂いも強く感じる気がした。
「あ……んぁ…っ」
ちらちらとくすぶっていた熱が一気に身体に燃え広がる感覚。
今朝まで彼が身に着けていたガウンを咥え、顔を押しつける。それだけで自分が昂っていくのがわかる。
いつも通りに陰茎を扱き、用意してあった張形を意地汚く涎を垂らすように濡れた後孔に差し込む。気付けばうつぶせになり、ベッドに陰茎を押し付けこすりながら、手は尻を掴み夢中で張形を激しく出し入れしていた。
「はぁ…あっ…もっと…んん…っユーグ…さまぁ…ひぅっ」
もっともっともっと激しく奥を突いてほしい。
満たしてほしい。
傍に居てほしい。
次第にそれだけを思うようになり、虚しさも何も、なくなる。
「もっと……あつぃ…ぁん、ゆーぐしゃま…しゅき…すき…っ!」
次第に大好きな番の、伴侶の名前を呼び腰を張形に押し付ける。
夢中になり熱に浮かされたように発情のままに身を委ねれば、妄想の中で大好きな伴侶が優しく自分の名を呼ぶのが聞こえてくる。
愛しい番の匂いが濃くなって、抱きしめられ、腹に熱を穿たれている感覚に次第に身体が満たされていく。
番の心地よい匂いの中で乱れ狂う間の記憶はない。でもそれでいいのだ。
こんな独りよがりを覚えていたら羞恥と後悔で、それこそ自分に協力してくれている伴侶に顔向けができない。
乱れ狂うのも、記憶を失うのも、Ωとしての本能なのだ。
今はただ、大好きな人に抱かれる甘美な夢を貪る。
……――そうして再び空虚さを思い出すのは、この発情期の一週間が終わった後になる。
67
お気に入りに追加
840
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました!
※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる