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いつでも「好き」が溢れてる

7.「ただの素直な感想です」

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「はっ、ほんとあんた質悪いな……頑張るつもりだけど、抑えられなかったらごめん。先に謝る」
「え? それはどういう?」
「……ああ、一応確認するけどおれが入れる側でいいよな?」

 俺の疑問をあっさり各務くんが聞いてくる。俺の勘は当たってたんだなと嬉しくなった。以心伝心と言うか阿吽あうんの呼吸というやつだろう。
 顔が近いため各務くんの表情は良く見えないが、少し息があがっている気がした。

「ああ、それは、うん。あ、でも、その、特に準備とかはしてなくて、だからその」

 最後まではできないかも、とモゴモゴと答えれば声ごと唇を奪われる。舌を絡めて刺激し合えば俺の息もあがってきた。

「はっ、ヤバ……最高っ」
「へ? なんで??」
「全部おれがやってあげるから、任せて……」

 各務くんは身体を起こすと舌なめずりせんばかりの笑顔を浮かべ、俺にまたがったまま服を脱ぎ捨てた。

 水を得た魚、或いは飢えていた肉食獣が餌を得たとでも言うべきか。
 初めてにしては凄かったのではないかと思う。比べようがないのでなんとも言えないのだけど。

 結局俺たちがシャワーを浴びることができたのは朝方だ。各務くんがバスタブにお湯を張ってくれて俺を介助し入浴させてくれる。さすが名の知れたホテルというべきか、バスタブも洗い場もビジネスホテルとは比べ物にならないくらい広かった。

「うう、おしりになんかまだツマってる感覚がする……」
「あんたのそれはあおってるのか空気読めてないのか、どっち?」
「うっ、ただの素直な感想です……」

 湯船に浸かる俺の顔を、各務くんが洗い場から真剣な顔で覗き込んでくる。濡れ髪の各務くんはなんとも大人っぽくて男らしくてイヤらしい。つい先程までのあれやこれやも相まって、俺の身体がうずうずしてしまう。

「あ、そういえば、各務くんて俺の名前覚えてくれてたんだね」
「はぁ?」

 程よい湯加減なうえに優しい香りの入浴剤に包まれフワフワとした心地よさの中、ふと最中のことを思い出した。なんと身体を繋げ、朦朧もうろうとするくらい気持ちよくなっていたころ、各務くんが俺の名前を呼びつつ好きだと何度も言ってくれたのだ。嬉しすぎて大変だった。

「あんたこそ……よくおれの名前知ってたよな」
「前に部屋で郵便物見たことがあったから。読み方間違ってなくてよかった」
 
 好きな人に名前を呼ばれる、ただそれだけの破壊力のなんと高いことか。そして気付けば俺も各務くんの名前を呼んでいた。各務くんも同じ気持ちになったのか、名前を呼び合っただけだというのにその後また元気になって結構大変だった。

「……間違ってたら大事故だろ」
えたら大変だもんね。……ねぇ、もう呼んでくれないの?」

 各務くんの前髪をちょっと引っ張って甘えて見せる。こんな事ができてしまうほど甘々な雰囲気が正直怖い。明日思い出したら恥ずかしくて俺はショック死してしまうのではないかと思うが、まあ、拒絶されて今殺される訳では無いので良しとする。

 俺の言葉に各務くんがゴクリと唾を飲むのが見えた。

「…………ここでまたヤっていいなら、呼ぼうか?」

 低く、それはもう低い声で各務くんが呟けば、照れることなくそれはもう雄々しい顔で微笑みを浮かべる。
 ゾワリと俺の全身が粟立った。

「す、すみませんでした」

 流石にこれ以上ヤられたら尻が壊れる気がする。あと腰が持たない。俺はこれでも足腰は強いほうだと思ってたけど、他人に好き勝手揺すられるのがこんなに負担がかかるなんて知らなかった。

「……ほんとあんた、マジでそうやって煽るの止めて。こっちは大変なんだからな」

 はーっと深い溜め息をつきつつ、力なく項垂れてしまった各務くんを元気づけたくて、俺は思わず手を取り指先に口付ける。そのまま握っていれば。

「~~あんた、なぁ! ほんともう、我慢ならねぇ!」

 各務くんにキレられた。

 再び元気づけるのに成功してしまった俺は、その後まさかのそれ専用のホテルへ連行され、デート二日目は観光を諦め各務くんの愛を受け止め続けることになった。

 よろよろとした足取りで帰宅する俺を送り届けた各務くんは意気揚々とバイトへ向かう。
 まさかここに来て年の差を実感するとは思わなかった。大学生……すごい。

 これからも各務くんとは年の差を感じたり、色んな発見があるのだろう。だけどその度に俺は彼を好きになるに違いない。

 あまりにも強引で欲望まみれの各務くんの姿を思い出し、俺はトキメキ過ぎてまたフローリングをゴロンゴロンと転がるのだった。
 
 
 -おわり-

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