まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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いつでも「好き」が溢れてる

5.「なら最高のやつ選ぼうぜ」

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 紳士服売り場を出たあと、今度は高級文具を扱う店に足を運んだ。

「ちょっと良いボールペンをお揃いで持ちたいなって思ったんだけど、どうかな?」
「おれあんま使わないけど、それでもいいならいいよ」
「うん、それは全然いいよ。俺も最近は使わなくなったし。ただ、ちょっといいのもってるとずっと使えるから、そろそろ買ってもいいかなって思って」
「そういうもん?」

 たぶん各務くんは純粋に尋ねてきただけだと思う。だけど俺はもっともな事を言いつつ下心バッチリだったので、耐えられず素直に本来の目的を吐露した。

「……というのは建前で、各務くんとお揃いのものが持ちたかっただけです」

 視線を彷徨わせつつ答えた俺に、各務くんは何度か瞬きすると、仕方ないなぁと言わんばかりの優しい表情を浮かべる。

「書き味も試せる?」
「言えば出してもらえると思うけど」
「ふーん、なら最高のやつ選ぼうぜ」

 優しい各務くんは俺の我儘に付き合ってくれた。書き味で選んだやつが10万円近くしたため第一候補は却下されてしまったけど、無事に色違いのボールペンを買うことができた。各務くんとお揃いだと思うと嬉しくて思わず顔がにやけてしまう。

 その後は休憩にお茶をして、各務くんがタブレットを見たいと言うので電気屋へ行った。買うのかと思って財布片手に待ち構えていれば、ただ触ってみたかっただけで買うのはネット通販にするらしい。俺の財布の出番はなかった、残念。

 他にも家電コーナーで便利調理器具などを見て回った。いくつか使ったら面白そうなのがあったので、日を改めてまた一緒に買いに来ようと各務くんと約束した。

 ホテルでチェックインを済ませ、一度部屋に行き買った荷物をおいてから予約してあるホテルのレストランへ向かった。クリスマスのコースも提供している鉄板焼の店だ。コースだとちょっと量が少ないかもと思ったけど、足りなければ追加注文も出来るとのことなので安心である。
 カウンター席に並んで座り、目の前で焼かれて提供される伊勢海老やあわび、黒毛和牛のステーキを食べる。絶品だった。味も美味しかったし料理する様子も一種のエンターテイメントだろう。各務くんも俺もシェフの手際の良さに感嘆し、話が弾んだ。

 クリスマスだから向かい合わせでしっとりディナーというのも考えた。だけどそれはなんだか照れくさいし、男二人で見つめ合って照れたりしていたら、周りが気にしてしまうかもしれないと思った。それならいっそルームサービスの方が得策に思える。
 恋人同士として何が正解かは正直わからないけど、俺は各務くんと色んなところで食事をしてみたいし、色んな体験もしてみたい。
 だから今夜もこうして焼き上がる肉を、今か今かと期待に満ちた目で見つめる各務くんが見られて非常に嬉しい。

「美味しかったら追加しようね」

 幸せが滲み出てしまい、俺はだらしない顔になっていたのだろう。「あんま、飲みすぎるなよ」と各務くんに釘を刺されてしまった。
 今日は流石に自重してるので大丈夫です。

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