42 / 50
いつでも「好き」が溢れてる
5.「なら最高のやつ選ぼうぜ」
しおりを挟む紳士服売り場を出たあと、今度は高級文具を扱う店に足を運んだ。
「ちょっと良いボールペンをお揃いで持ちたいなって思ったんだけど、どうかな?」
「おれあんま使わないけど、それでもいいならいいよ」
「うん、それは全然いいよ。俺も最近は使わなくなったし。ただ、ちょっといいのもってるとずっと使えるから、そろそろ買ってもいいかなって思って」
「そういうもん?」
たぶん各務くんは純粋に尋ねてきただけだと思う。だけど俺はもっともな事を言いつつ下心バッチリだったので、耐えられず素直に本来の目的を吐露した。
「……というのは建前で、各務くんとお揃いのものが持ちたかっただけです」
視線を彷徨わせつつ答えた俺に、各務くんは何度か瞬きすると、仕方ないなぁと言わんばかりの優しい表情を浮かべる。
「書き味も試せる?」
「言えば出してもらえると思うけど」
「ふーん、なら最高のやつ選ぼうぜ」
優しい各務くんは俺の我儘に付き合ってくれた。書き味で選んだやつが10万円近くしたため第一候補は却下されてしまったけど、無事に色違いのボールペンを買うことができた。各務くんとお揃いだと思うと嬉しくて思わず顔がにやけてしまう。
その後は休憩にお茶をして、各務くんがタブレットを見たいと言うので電気屋へ行った。買うのかと思って財布片手に待ち構えていれば、ただ触ってみたかっただけで買うのはネット通販にするらしい。俺の財布の出番はなかった、残念。
他にも家電コーナーで便利調理器具などを見て回った。いくつか使ったら面白そうなのがあったので、日を改めてまた一緒に買いに来ようと各務くんと約束した。
ホテルでチェックインを済ませ、一度部屋に行き買った荷物をおいてから予約してあるホテルのレストランへ向かった。クリスマスのコースも提供している鉄板焼の店だ。コースだとちょっと量が少ないかもと思ったけど、足りなければ追加注文も出来るとのことなので安心である。
カウンター席に並んで座り、目の前で焼かれて提供される伊勢海老やあわび、黒毛和牛のステーキを食べる。絶品だった。味も美味しかったし料理する様子も一種のエンターテイメントだろう。各務くんも俺もシェフの手際の良さに感嘆し、話が弾んだ。
クリスマスだから向かい合わせでしっとりディナーというのも考えた。だけどそれはなんだか照れくさいし、男二人で見つめ合って照れたりしていたら、周りが気にしてしまうかもしれないと思った。それならいっそルームサービスの方が得策に思える。
恋人同士として何が正解かは正直わからないけど、俺は各務くんと色んなところで食事をしてみたいし、色んな体験もしてみたい。
だから今夜もこうして焼き上がる肉を、今か今かと期待に満ちた目で見つめる各務くんが見られて非常に嬉しい。
「美味しかったら追加しようね」
幸せが滲み出てしまい、俺はだらしない顔になっていたのだろう。「あんま、飲みすぎるなよ」と各務くんに釘を刺されてしまった。
今日は流石に自重してるので大丈夫です。
34
お気に入りに追加
307
あなたにおすすめの小説

彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!


闇を照らす愛
モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。
与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。
どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。
抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる