まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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それでも「好き」が止まらない

5.「ちゃんとおれを見て答えて」

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 夕飯までにはまだ時間もあるし、そもそもカレーも出来上がっていないから適当にくつろいでてと俺は各務くんに言ったはずだった。いや、確実に言った。それを聞いた各務くんはいつもの場所に座ってサブスクの映画でも見るだろうと思っていた。が、俺の予想は裏切られた。
 カレーをグツグツ煮込みつつ、サラダのためにキャベツを刻む俺の斜め後ろに各務くんは立っている。壁に寄りかかり俺を監視……もとい、見つめていた。

「えっと……」
「また仕事、忙しいのかよ」

 なにか用があるのかと振り返らずに声をかければ、予想外な言葉に俺は手を止める。

「仕事? 全然忙しくない……ああ、でも確かにそろそろ繁忙期になるから少しだけ残業するけど、でも去年と比べれば全然楽だよ」

 再びざっくざっくとキャベツを刻みつつ苦笑すれば「嘘じゃないだろうな」と疑われてしまった。忙しかったのは各務くんのはずなのに、なぜそんなことを聞かれるのか。
 俺が包丁を置いて振り返ると、不機嫌そうな各務くんと目が合があった。

「…………最近、朝会った時に元気なかったし、なんかやつれてただろ。一人でも飯、ちゃんと食ってんだろうな?」

 各務くんは不機嫌な顔のままボソボソと話すが、視線は外さずまっすぐ俺を見つめていた。嘘も見透かされそうな、そんな視線に俺の方が絶えられずに目を逸らす。

「昼はちゃんと食べてたよ、うん」
「朝と夜は?」
「朝はもともと食べないことが多いし、夜もいつもどおりに食べてたけど……」
「ちゃんとおれを見て答えて」

 うちのキッチンは廊下にあるタイプで狭い。もともと近くに居た各務くんが一歩踏み出せば、それはもうキスでもできそうなくらいに距離を詰められてしまう。
 前門の各務くん、後門の煮えたぎるカレー……ではなく。俺は各務くんに視線を戻すと正直に答えることにした。

「………ここのところ面倒でチューハイとおにぎり食べてました。や、でもそれでもちゃんと食べてるし問題はないから」

 思わず誤魔化そうとへらりと笑って答えれば、各務くんがぎゅっと眉根を寄せて怒ってるような悲しんでるような呆れているような複雑な顔をした。

「はぁー……ほんと、あんたって自分を追い込むの好きだよな。つうか、なに? 何がそんなしんどかったの?」
「え?」
「仕事じゃないんだろ? ……おれになんて相談できないことかもしれないけど、悩んでることあれば、これでも、一応、こ、恋人なわけだし? 愚痴とかくらいなら聞けるっていうか……」

 至近距離で見つめ合っていれば、言ってて恥ずかしくなったのか、徐々に顔を赤くしながら各務くんは頭を抱える。
 
「あー……やっぱ目を離すべきじゃなかったんだな……失敗した」

 俺に言ったのではなく多分独り言なのだろう。だけど俺たちの距離はあまりにも近くて、小さな声もよく聞こえた。
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