まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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ちゃんと「好き」だと伝えたい

8.「好きだよ」

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 駅からやって来た人たちから離れるように俺は各務くんの手を引いて海岸を歩くことにした。周りが暗いせいか、普段よりも心の内を話せるような気がしたからだ。

「てっきり知ってる人に聞かれたくないから、俺にデートって言葉を使ってほしくないんだと思った」
「べつにそんなのは今更気にしてない。いや、あんたが気にするってなら気を付けるけど」

 人気がなくなり波の音しかしなくなったところで各務くんが立ち止まる。俺もつられて立ち止まった。

「前も言ったけど俺は気にしないよ。誰に迷惑をかけているわけじゃないし。俺より各務くんの方がそういうの気にしてたと思ったけど」

 違う? と向き直り各務くんに視線で問えば、そっと視線を逸らされた。

「全く気にしないわけじゃねぇけど、おれは……あんたに嫌われたくないだけで、だから……その……他のやつから何言われても、べつに……」
「え? そうなの? すっごい悩んでるのかと思ってたんだけど?」
「そりゃ、前はすっげぇ悩んでたよ! おれの周りに同性愛者なんていなかったし。でも一番怖かったのはあんたに気持ち知られて、気味悪がられることで……でも、あんたは何でも無いことみたいに言って、おれの気持ち認めてくれて……それで」

 再びぐっと手を引かれて抱きしめられた。先程よりも強く。気のせいでなければ早い鼓動も聞こえてくる。

「デートできて……嬉しい。あんたと一緒にこうしていられて、それだけで、あとはほんと、どうでもいいんだ」

 絞り出すような囁くような各務くんの声。至近距離だけど、俺は先ほどみたいにパニックにはならなかった。
 触れる肌は相変わらず熱い。さっきは気付かなかったけど抱きしめていると潮の香りに混じって各務くんの汗の香りもした。たぶん今一生懸命、俺に思いを伝えてくれて緊張しているのだろう。汗ばむ体温から、震える声から、そんなことまで伝わって来るようで、今日何度目か判らないが、各務くんを可愛いと思った。可愛い、愛おしい。
 俺は自然と空いている手を各務くんの頬に添えると、そのまま顔を近づけた。
 むちっと各務くんの唇に唇を押し付けて離れる。
 視線のあった各務くんの顔が一気に茹でダコのように真っ赤になった。可愛いなぁ。

「あ、な、ぇえっ……」
「俺も各務くんのこと、好きだよ」

 一生懸命な各務くんに俺もちゃんと伝えたいと思った。俺の気持ちはきっとちゃんと伝わってるとは思ってるけど、好きな気持ちは何度伝えたって悪いことはないだろう。

 もう一度キスしようとした瞬間、俺のスマホが鳴った。あまりのタイミングの良さに思わず二人して飛び上がるように大袈裟に驚いてしまった。

「8時にアラームセットしておいたんだ」
「…………………。…………………ありがと」

 すっごく不満そうな顔をしつつも各務くんは律儀に礼を言う。その姿に思わず笑ってしまう。
 真面目な各務くんと大人の俺は欲望に流されることもなく、そのまま素直に駅に向かって歩き出した。
 電車に乗るまでずっと手を繋いだままではあったけど、そのくらいは問題ないだろう。同じホームに居た女子にガン見されていた気がしたが、各務くんは特に気にする様子もなかったので俺も堂々と各務くんの手を握っていた。
 水族館デートはいろんな発見があって、とても楽しかった。

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