上 下
25 / 50
ちゃんと「好き」だと伝えたい

5.「……なぁ、まだ時間平気?」

しおりを挟む

 お土産を見つつまだ行っていなかった施設を見ていれば、気付けば結構な時間が経っていた。夕暮れになりパーク内には明かりが灯る。海の水面に光が反射して、ただの街燈なのに不思議と綺麗に見えた。
 子ども連れの姿はすでになく、見渡せばカップルの姿がやたらと目につく。

「あと何かやりたいことある?」

 売店で買ったコーヒーを飲みつつ、ベンチに腰掛けぼんやり海を眺めていた俺に各務くんが声をかけた。

「いやもう満足しました。楽しかった。各務くんは? あの大きなイルカのぬいぐるみ本当に要らない? 今ならまだ戻れるよ?」
「要らねえよ」

 同じくコーヒーを飲みつつ隣に座る各務くんが嫌そうに答える。欲しそうに見てたと思ったんだけどな。今日一日一緒にいて、各務くんは絶対にイルカを気に入ったと確信している。いつも睨んでいるような視線の多い各務くんの目力が緩み、イルカをキラキラとした少年のような瞳で見てた。可愛かった。
 色々出来たのも楽しかったけど、なにより普段見られない各務くんを見ることが出来て大満足である。俺が思わずニヤけていれば各務くんに睨まれた。
 これ以上は本気で嫌われそうなので、俺は顔の筋肉を総動員して思わず笑顔になってしまいそうになるのを堪える。

「……なぁ、まだ時間平気?」
「うん、大丈夫だよ。8時に出ればバイトの時間には間に合うし」
「バイト?」
「? 各務くん今日コンビニでしょ?」

 俺が答えれば各務くんが目をパチクリと瞬かせる。

「……おれじゃなくて、あんたの予定を聞いたんだけど」
「え、あ、そうなのか。俺は全然大丈夫だよ」

 俺の答えを聞けば各務くんは立ち上がると駅へ向かって歩く。どこか他に行きたい場所があるのかと思い着いていけば、駅を通り過ぎて小島であるテーマパーク全体が見える対面の海岸へ向かっていた。

「わあ、綺麗」

 海岸からはテーマパークの明かりだけでなく、対岸に見える明かりが暗い海面に反射してきらめいていた。すっかり暗くなった夜空にはいつもよりもずっと星が見える。
 左手にふと熱を感じでビクッと肩を揺らしてしまったが、各務くんの意図を察した俺はそっと各務くんの手を握った。

 水族館の中では涼しくて感じなかったが、今日は蒸し暑い。いつの間にか手の平にも汗をかいていてしっとりとしている。多分間違いなく俺の手だけでなく各務くんの手も汗ばんでいるのだろう。不快に感じそうなのに不思議なことに汗の感触も心地良かった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

勘違いラブレター

ぽぽ
BL
穏やかな先輩×シスコン後輩 重度のシスコンである創は妹の想い人を知ってしまった。おまけに相手は部活の先輩。二人を引き離そうとしたが、何故か自分が先輩と付き合うことに? ━━━━━━━━━━━━━ 主人公ちょいヤバです。妹の事しか頭に無いですが、先輩も創の事しか頭に無いです。

【完結】もう一度恋に落ちる運命

grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。 そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…? 【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】 ※攻め視点で1話完結の短い話です。 ※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

俺に告白すると本命と結ばれる伝説がある。

はかまる
BL
恋愛成就率100%のプロの当て馬主人公が拗らせストーカーに好かれていたけど気づけない話

キミの次に愛してる

Motoki
BL
社会人×高校生。 たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。 裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。 姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

素直じゃない人

うりぼう
BL
平社員×会長の孫 社会人同士 年下攻め ある日突然異動を命じられた昭仁。 異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。 厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。 しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。 そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり…… というMLものです。 えろは少なめ。

処理中です...