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ちゃんと「好き」だと伝えたい
4.「焼いた肉入れるとさらに美味い」
しおりを挟むゆっくりと館内の水槽を見学したあとはイルカショーを観た。音楽に合わせてものすごい高さに飛ぶイルカに拍手喝采である。各務くんは身を乗り出して観ていて、なんとなく大の大人が前列に座るのは気が引けて二人で後ろの方に座ったんだけど、これならもっと前に座れば良かったかなと少しだけ後悔した。
「各務くん、ふれあいコーナーでイルカに触れるみたい」
水族館を出て、さて次はどこに行こうかとパンフレットを見ていれば、メインの水族館の他にもふれあいコーナーなど別の建物にあるのを発見した。
タイミングよくイルカに触ることが出来たのだが「なんか……魚」とイルカをひと撫でした各務くんがどこかがっかりした顔で呟いたので笑ってしまった。俺ももっともっちりしてるのかと思ったから触ってちょっとびっくりしてしまった。これは実際触らないと判らない驚きと感動である。
その後は釣り堀で魚釣りをした。ちょっと各務くんは難色を示したものの、釣った魚が隣のバーベキューレストランで食べられるのだと知った俺に押し切られた。
自分で釣った魚をその場で食べるなんてなかなか出来る体験じゃない。というか30年生きてきたけどやったことがない。
「あんた食べることになると目の色変わるよな」
ちょっと呆れ気味に各務くんはぼやいていたが、ちゃんと付き合ってくれる優しい子である。釣りのセンスはどちらも微妙だったけど、小さい子も挑戦できるだけあってわりと入れ食い状態だったので釣れないという事はなかった。
釣った魚をレストランに持っていき、だいぶ遅くなった昼食をとる。
バーベキューレストランはビュッフェ形式で、各務くんは言うまでもなく山のように肉を取ってきていた。あとカレー。
「なんで食べ放題なのにカレーを持ってきちゃうんだろう。絶対に違うもの食べた方がお得なのに」
「……美味いから?」
「美味しいよね」
「焼いた肉入れるとさらに美味い」
そう言いながら各務くんは食べ頃に焼けたカルビを俺のカレーへトッピングしてくれる。
もちろん俺もカレーを持ってきていた。あととりあえず野菜。玉ねぎとか人参とか。特に打ち合わせをしたわけでもないけど、俺と各務くんは交互に焼く係を代わりつつ、食べ頃や美味しそうなところを相手の皿へ入れていた。
俺の場合は職場での忘年会や歓送迎会なんかで身につけた気遣いだけど、大学生の各務くんが俺と同じように気を配ってくれる事に感動する。本当に気が利く。グリルから立ち上る炎に悪戦苦闘しつつ俺のために肉を焼いてくれる各務くんを、気付けば惚れ惚れと見つめていた。
「うう、お腹いっぱい」
「おれも」
うっかりいつもの倍くらい食べてしまった。ただのビュッフェならここまで食べられなかったと思うけど、焼くのが楽しすぎたし焼いてもらうのが嬉しすぎた。
「今度、焼き肉の食べ放題行こうね」
あまりの達成感に思わず口から出た俺の誘いに、各務くんが心底呆れた視線を向けてくる。
「は? なんで今こんなに腹一杯の時に食べ放題の話しすんの?」
「え? 各務くんと行きたいから? ……駄目だった?」
「いや、行くけど……」
各務くんは呆れた顔のまま小さくため息を着くと、なんとも言えない複雑な表情を浮かべた。そんなに食べすぎたのだろうか。俺もまあかなり食べたけど。
この後、遊園地で乗り物に乗ろうと誘うつもりだったけどそれは止めて、お土産屋を見に行こうと提案することにした。
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