まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

文字の大きさ
上 下
22 / 50
ちゃんと「好き」だと伝えたい

2.「あんたが変なこと言ったからだろ」

しおりを挟む

 九月になっても残暑厳しく、せっかくだから普段行かないところにデートに行くかと思っていたけど屋外は遠慮したい。
 となると映画くらいしか思いつかなかった俺のレパートリーを増やしてくれたのは同僚のまきさんだ。
 
 すでに夏休みを消化済みの主婦の槇さんは家族で水族館に行ったらしい。涼しくて暗いから子どもはずっと寝てたけど大人しくしててくれて良かった、と感想を述べていた。
 ちなみに同じ部署の谷内たにうちくんの方が俺より年齢も各務くんに近いし、若い子がデートに行きたい場所の参考になるのでは? と思うものの彼からはいつも同じ大型テーマパークの話しか聞けないので参考にならないのだと最近気づいた。

「来週のデートは水族館とかどうかな?」
「ぶっ!?」

 そんなわけでいつも通り夕飯を一緒に食べている各務くんに提案をしてみたのだが、何故か食べていたドリアを吹き出しかけた。

「大丈夫、熱かった?」
「あんたが変なこと言ったからだろ」
「え、デートで水族館って変なの?」
「そっちじゃねぇ……」

 慌てて口の中のものを飲み込んだ各務くんはジロリと俺を睨むと額に手を当てて、ため息を付きながら俯いてしまった。
 
「ほんと、あんた気にしないんだな」

 なんとなく恨めし気な視線を向けてくる各務くんの言わんとすることが判らず、俺は首を傾げる。

「デートって……こんなとこでわざわざ言わないだろ、ふつう」

 そう言われて見れば今日はお互いの家ではなく、チェーン店のレストランなので周りには他のお客さんも当然いる。他人の会話を意識して聞く人がいるとは思えないが、居ないとも限らない。
 しかもよく考えればこの辺りには俺の知り合いはあまり居ないけど、各務くんの通ってる大学は近い。つまり、彼の知り合いはその辺にいる可能性があるのだ。
 
 男同士というのは昔ほど奇異の目では見られないと思うけど、それでも受け入れられない人たちが居るのも判る。大学生なんて多感なお年頃だ。中高生よりは分別はあるものの、ちょっとしたことでイジメとかに発展してしまうかもしれない。
 迂闊だった。

「ご、ごめん。変なこと言って」
「………」

 俯いてる各務くんの表情は見えない。怒ってないといいなと思いつつ、俺は目の前のカルボナーラを食べる。二人で沈黙していたのはほんの数秒だろう。

「……水族館ならどこでもいいの?」

 俯いたままボソリと各務くんが呟く。

「え、うん。水族館は涼しいって聞いて、最近行ってないし、普段と違っていいかなって思って」
「……ふーん判った、なら調べとく。あんたって夏苦手?」
「え、うーん、どうだろう。気にしたことなかったけど」

 特に夏が好きとか冬が好きとか考えたことはなかった。言われれば暑いよりは寒いほうがいいかなぁとは思う。ただそれは今が夏で、暑すぎる日差しを浴びているからそう思うのかもしれない。冬になったら夏がいいとか思いそうだ。

 だけど。

「冬になったらまたカニ鍋食べたいから、うん、やっぱり、今は冬の方が好きかな」
「ぶっ!?」

 思わず俺が呟けば、各務くんが今度はコーラを喉に詰まらせ、肩を震わせた。

「はっ、あんた、ほんとに食べるの好きだな」

 肩を震わせ笑うのをこらえつつ顔を上げた各務くんと視線が合う。
 確かに美味しいものを食べるのは好きだ。だけど、カニ鍋はまた各務くんと食べたいと思ったのだ。今度は美味しい日本酒もお取り寄せしたい。

 でも、それを本人に言うのは恥ずかしい気がしたし、また困らせてしまう気がして「石狩鍋もやってみたい」と関係のないことを言って誤魔化した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い

たけむら
BL
「いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い」 真面目な幼馴染・三輪 遥と『そそっかしすぎる鉄砲玉』という何とも不名誉な称号を持つ倉田 湊は、保育園の頃からの友達だった。高校生になっても変わらず、ずっと友達として付き合い続けていたが、最近遥が『友達』と言い聞かせるように呟くことがなぜか心に引っ掛かる。そんなときに、高校でできたふたりの悪友・戸田と新見がとんでもないことを言い始めて…? *本編:7話、番外編:4話でお届けします。 *別タイトルでpixivにも掲載しております。

みどりとあおとあお

うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。 ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。 モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。 そんな碧の物語です。 短編。

針の止まった子供時間 ~いつか別れの言葉を言いに来る。その時は、恨んでくれて構わない~

2wei
BL
錆びついたまま動かない時計の針。 柄沢結翔の過去と真実。花束の相手──。 ∞----------------------∞ 作品は前後編となります。(こちらが後編です) 前編はこちら↓↓↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/76237087/650675350 ∞----------------------∞ 開始:2023/1/1 完結:2023/1/21

仮面の兵士と出来損ない王子

天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。 王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。 王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。 美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。

処理中です...