まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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ちゃんと「好き」だと伝えたい

2.「あんたが変なこと言ったからだろ」

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 九月になっても残暑厳しく、せっかくだから普段行かないところにデートに行くかと思っていたけど屋外は遠慮したい。
 となると映画くらいしか思いつかなかった俺のレパートリーを増やしてくれたのは同僚のまきさんだ。
 
 すでに夏休みを消化済みの主婦の槇さんは家族で水族館に行ったらしい。涼しくて暗いから子どもはずっと寝てたけど大人しくしててくれて良かった、と感想を述べていた。
 ちなみに同じ部署の谷内たにうちくんの方が俺より年齢も各務くんに近いし、若い子がデートに行きたい場所の参考になるのでは? と思うものの彼からはいつも同じ大型テーマパークの話しか聞けないので参考にならないのだと最近気づいた。

「来週のデートは水族館とかどうかな?」
「ぶっ!?」

 そんなわけでいつも通り夕飯を一緒に食べている各務くんに提案をしてみたのだが、何故か食べていたドリアを吹き出しかけた。

「大丈夫、熱かった?」
「あんたが変なこと言ったからだろ」
「え、デートで水族館って変なの?」
「そっちじゃねぇ……」

 慌てて口の中のものを飲み込んだ各務くんはジロリと俺を睨むと額に手を当てて、ため息を付きながら俯いてしまった。
 
「ほんと、あんた気にしないんだな」

 なんとなく恨めし気な視線を向けてくる各務くんの言わんとすることが判らず、俺は首を傾げる。

「デートって……こんなとこでわざわざ言わないだろ、ふつう」

 そう言われて見れば今日はお互いの家ではなく、チェーン店のレストランなので周りには他のお客さんも当然いる。他人の会話を意識して聞く人がいるとは思えないが、居ないとも限らない。
 しかもよく考えればこの辺りには俺の知り合いはあまり居ないけど、各務くんの通ってる大学は近い。つまり、彼の知り合いはその辺にいる可能性があるのだ。
 
 男同士というのは昔ほど奇異の目では見られないと思うけど、それでも受け入れられない人たちが居るのも判る。大学生なんて多感なお年頃だ。中高生よりは分別はあるものの、ちょっとしたことでイジメとかに発展してしまうかもしれない。
 迂闊だった。

「ご、ごめん。変なこと言って」
「………」

 俯いてる各務くんの表情は見えない。怒ってないといいなと思いつつ、俺は目の前のカルボナーラを食べる。二人で沈黙していたのはほんの数秒だろう。

「……水族館ならどこでもいいの?」

 俯いたままボソリと各務くんが呟く。

「え、うん。水族館は涼しいって聞いて、最近行ってないし、普段と違っていいかなって思って」
「……ふーん判った、なら調べとく。あんたって夏苦手?」
「え、うーん、どうだろう。気にしたことなかったけど」

 特に夏が好きとか冬が好きとか考えたことはなかった。言われれば暑いよりは寒いほうがいいかなぁとは思う。ただそれは今が夏で、暑すぎる日差しを浴びているからそう思うのかもしれない。冬になったら夏がいいとか思いそうだ。

 だけど。

「冬になったらまたカニ鍋食べたいから、うん、やっぱり、今は冬の方が好きかな」
「ぶっ!?」

 思わず俺が呟けば、各務くんが今度はコーラを喉に詰まらせ、肩を震わせた。

「はっ、あんた、ほんとに食べるの好きだな」

 肩を震わせ笑うのをこらえつつ顔を上げた各務くんと視線が合う。
 確かに美味しいものを食べるのは好きだ。だけど、カニ鍋はまた各務くんと食べたいと思ったのだ。今度は美味しい日本酒もお取り寄せしたい。

 でも、それを本人に言うのは恥ずかしい気がしたし、また困らせてしまう気がして「石狩鍋もやってみたい」と関係のないことを言って誤魔化した。
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