まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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たぶん「好き」だと気付いてる

7.「あんたが楽しいなら、おれも楽しいよ」

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 呆れ声の各務くんを見つめ返して俺は大真面目に答える。

「うん? うん、そうかも。だからみずのんでるよ」
「それ、酒だろ」

 言われて持っていたグラスの水を飲む。
 確かに甘いから日本酒かも。
 俺がグラスを見ながら首を傾げていたら、大きなため息と共にグラスが回収され、ペットボトルの水を渡される。

「あはは、ありがとう」

 受け取って水を飲んだらちょっとすっきりしてきた。

「美味しいもの一緒に食べるためだけに、旅行、誘ったの?」

 そんな俺を見ながら、各務くんがまた真面目な顔をして聞いてきた。
 目の前の真剣な顔に心臓がどきどきしてくる。
 よく睨まれるけど、最近はこの真面目な顔も良く見るかも。

「……え、うん。温泉もはいってのんびりしたかったのもあるよ」
「まぁ……あんたのことだから、そうだよな」

 俺の答えに各務くんが微妙にがっかりした顔をした。

「あ、だめだった?」
「駄目?」
「たのしくない?」
「いや、楽しいけど? なんで?」
「がっかり、してたから……」

 酒癖悪い大人だと思われて、幻滅されたかな。

「会社でデートってどこがいいかってきいたんだけど、誘うほうが好きなとこがいいんじゃないかってなって……俺が今したいことに誘ったんだけど」
「うん、あんたが楽しいなら、おれも楽しいよ」

 そういうと身を乗り出して、俺の頭を撫でてくれた。

「これだと、どっちが年上かわからないね」
「あんたがガキなんだろ」
「……いつもはもう少し、しっかりしてるし」

 俺の言葉に頭をなでる手が乱暴になった。髪がぐしゃぐしゃだ。

「ちょっ……」
「あはは、ひでぇ髪」
「各務くんがやったんだろ」

 アルコールが回っているからかふあふあした楽しい気分で、しばらくぎゃあぎゃあ言いながら二人でじゃれていた。食器を下げに仲居さんが来たのでそこで遊ぶのをやめる。
 寝る前に部屋の風呂に入ろうと思ったら「酔ってるから明日の朝にしろ」と言われたので、大人しく寝ることにした。

 本当に、どっちが年上か判らない。
 頼りない大人で申し訳ないと思いつつも、遊歩道を歩いた疲れのせいか温泉の効能か、その日はぐっすりと眠った。
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