上 下
16 / 50
たぶん「好き」だと気付いてる

6.「……笑えねぇ」

しおりを挟む

「思いがけない冒険だったね。遊歩道の認識を俺は改めたよ」

 部屋に戻れば各務かがみくんも部屋の風呂に入浴済みで、豪華な食事も用意されていた。
 ちょっと豪華なプランにしたので、部屋も広くて寝る場所は洋室にベッドがあって、夕飯はその隣の和室に準備してくれているいわゆる部屋食だ。
 最初に部屋に入った時、各務くんが部屋の広さに若干引いていたけど、贅沢したかった俺は大満足である。

「まぁ、そうだな」
「あれ陽が落ちる前だったから良かったけど、冬に来てたら遭難してたかもね」
「……笑えねぇ」

 各務くんが心底嫌そうに言ったので、思わず笑ったら睨まれた。ごめん。
 料理も美味しくて、大浴場で教えてもらった日本酒もとっても美味しかった。
 飲みやすいしとにかく美味しい。このまま帰宅する必要もないしすぐ寝ていいんだ、と思えばアルコールもすすむし、勧めるのも遠慮が無くなる。

 目の前の浴衣姿に、いつもより大人っぽいななんて思いながら視線を向けた。

「あんたって食べること好きだよな?」
「ん? そうかな? そうかも?」

 刺身や煮つけ、アワビ焼きに伊勢海老のグラタン。贅沢だなぁと舌鼓をうっている俺をじっと見つめながら言われた。

「それなのに、よく毎日コンビニ飯で過ごせたな」
「あの時はね、何も考えたくなかったていうか考えられなかったんだ。でも今はこうやって一緒にご飯食べるの幸せだし、何食べようかなって考えるの楽しいよ」

 半年前、休みも無ければ毎日通勤と勤務と最低限の生活の確保だけしていた俺の夕飯はコンビニのおにぎりと缶チューハイだけだった。
 毎日寄ってたコンビニで働いてた各務くんが、俺に言っていたわけじゃないけど、俺を見て悪態をついていて、それが俺にとって精神の安定になっていた。
 脳が考えることを停止していた中で、自分が今まで受けたことのない刺激を受けたから気になって少し脳が生き返ったって感じなのだと思うけど、それを言ったらマゾ扱いされている。
 
 まあでもとにかく各務くんとの出会いは俺にとって幸運に他ならない。

 不思議なものを見るような顔で俺を見る各務くんに、思わず顔が緩んで微笑んでしまう。
 俺と一緒にこうやって俺の好きなことをしてくれるの、本当に感謝している。

「そう……かよ」
「うん。きっと同じものを一人で食べてもつまらないのかもしれないけど、かがみくんといっしょだとすごくおいしい」

 アルコールは弱くない。記憶をなくしたこともない。
 ちょっとふあふあと心地よくなるから全く酔わないわけでもないけど。だから、自分の呂律が回らなくなってきているのを感じて、少し飲みすぎたかもと思う。

 水を飲む。
 水……甘い水だな。

「あんた飲みすぎじゃね?」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

勘違いラブレター

ぽぽ
BL
穏やかな先輩×シスコン後輩 重度のシスコンである創は妹の想い人を知ってしまった。おまけに相手は部活の先輩。二人を引き離そうとしたが、何故か自分が先輩と付き合うことに? ━━━━━━━━━━━━━ 主人公ちょいヤバです。妹の事しか頭に無いですが、先輩も創の事しか頭に無いです。

【完結】もう一度恋に落ちる運命

grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。 そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…? 【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】 ※攻め視点で1話完結の短い話です。 ※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。

キミの次に愛してる

Motoki
BL
社会人×高校生。 たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。 裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。 姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

素直じゃない人

うりぼう
BL
平社員×会長の孫 社会人同士 年下攻め ある日突然異動を命じられた昭仁。 異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。 厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。 しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。 そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり…… というMLものです。 えろは少なめ。

処理中です...