14 / 50
たぶん「好き」だと気付いてる
4.「おれなら、いいの?」
しおりを挟む「なっ……」
「そんなこと考えてないし、話したくない相手を旅行に誘うってどんだけだよ」
「だって、あんた罵倒されなくて寂しいとか、結構マゾじゃん」
それを言われると返す言葉がないけど。
「いや、マゾだってほら、だれかれ構わず苛められたいってことじゃないと思うよ。いや、わかんないけど」
わからないから、そんな真面目な顔で見てこないでほしい。
そもそも俺は変わった性癖はもってない、と思う。
「おれなら、いいの?」
真面目な顔で見つめられ、小さな声で聞かれる。
すべて進行方向に座席が並ぶ特急列車の二人並びの席で、窓際の俺は通路側の各務くんに迫られると、窓と座席と各務くんに四方を囲われてしまって逃げ場がない。
壁ドンとは違うけど、逃げ場がないという意味では同じ状況だ。
しかも今回はカツアゲされているとは思えないのに、ドキドキする。
「お、俺はだからマゾじゃないから……」
「返事になってない」
当り障りなく答えたが、回答がお気に召さないのか微動だにしない。しかもだんだん目力が強くなってきて、いつも通り睨まれている。
真面目な顔よりは、こっちの方がドキドキするけど、なんか落ち着く。
落ち着く?
「ほらっ! 早く寝ないと寝る時間無くなるよ。駅着いたら歩いて市場とお土産物屋とかあるとこ行ってお昼食べて、その後行くところ考えよう。ずっと眠そうだと連れまわすの申し訳ないから、寝て」
俺はなんかやばくなりそうな思考を停止するため、睨む相手に出来るだけ余裕の笑みを浮かべて諭す。
「……チッ」
各務くんは舌打ちすると自分の座席に深く座り直した。俺は四方の囲まれていた壁から解放されて、ほっと息をつく。
次の駅につくころには各務くんは穏やかな寝息を立てていて、きつい瞳が閉じられているせいかとても幼く見えた。
幼く、といっても俺と10歳も違うんだから年下だよな。
あれ、もしかして俺が二十歳の時に十歳……ってことは俺が成人式してる時に各務くんは小学四年生とか、なのか??
うん、これは深く考えたらきっと負けだ。
俺は気持ちよさそうに眠る各務くんの横でスマホを取り出し、これから行く場所の観光スポットを検索することにした。
予定の駅につくと俺達は歩いて市場や飲食店などのある観光スポットで昼食にした。
電車で寝たのが良かったのか各務くんの眠気は収まったみたいだ。
次にどこに行くか話し合ったがどうにも行ける範囲で行きたいところもなく、海を見ながらそこで地ビールをのみ早めに旅館へ行こうという事に落ち着いてしまった。
「もっと遊ぶ場所が多いとこにすればよかったね」
俺はスマホ画面を落としつつ言う。
「……あんたと一緒なら、別にどこでもいい」
海を見つつ、ビールの入った透明なプラカップを傾けながら、ぼそりと言われて思わず見つめる。アルコールのせいか、ちょっと頬の染まっている各務くんが物凄く可愛い。
「ありがとう」
梅雨が過ぎて一気に夏らしくなった空の下、海風に吹かれながらのんびりとした時間が過ぎていく。
とっても贅沢な時間の使い方だ。それに付き合ってくれる相手が居ると言うのもとても幸せなことだって思った。
19
お気に入りに追加
294
あなたにおすすめの小説
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
告白ゲーム
茉莉花 香乃
BL
自転車にまたがり校門を抜け帰路に着く。最初の交差点で止まった時、教室の自分の机にぶら下がる空の弁当箱のイメージが頭に浮かぶ。「やばい。明日、弁当作ってもらえない」自転車を反転して、もう一度教室をめざす。教室の中には五人の男子がいた。入り辛い。扉の前で中を窺っていると、何やら悪巧みをしているのを聞いてしまった
他サイトにも公開しています
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話
雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。
塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。
真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。
一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。
ガラス玉のように
イケのタコ
BL
クール美形×平凡
成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。
親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。
とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。
圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。
スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。
ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。
三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。
しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。
三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。
【幼馴染DK】至って、普通。
りつ
BL
天才型×平凡くん。「別れよっか、僕達」――才能溢れる幼馴染みに、平凡な自分では釣り合わない。そう思って別れを切り出したのだけれど……?ハッピーバカップルラブコメ短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる