まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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たぶん「好き」だと気付いてる

1.「おれ、あんたと付き合ってると思ってたんだけど?」

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 これが噂に聞いた壁ドンか。
 俺は鍋の蓋を持ちながら目の前の人物を見る。
 ここが自宅でなければ完全にカツアゲにあっているように俺は思っただろう。カツアゲされているわけではないが、ちょっと怖くてドキドキする。

「おれ、あんたと付き合ってると思ってたんだけど?」

 俺が逃げないように頭の横の壁に両手をつき、のぞき込まれれば低い声で呟かれた。

 最近は俺のうちか各務かがみくんのうちか、はたまた外食かで、週に一度くらい一緒に夕飯を食べている。
 今日は俺のうちでご飯を食べ洗い物をしていたところ、俺がうっかり会話の流れで聞いてしまったのだ。

「各務くんって彼女いるの?」と。

 そして今、壁ドンされている。

 各務くんの茶髪はブリーチだと思うけど瞳の色も真っ黒じゃなくて茶色いんだな、なんて目の前の瞳を観察して思わず現実逃避をしてしまった。

 考えなくても、これは俺が悪い。

「ごめん。ついうっかり」

 うっかりで言う事じゃないのは判るので、これでもかと睨まれても耐えるしかない。とりあえず視線をそらさずに見つめ返した。

 バレンタインに俺はチョコを貰ってホワイトデーにカニ鍋でお返しして、そこからお付き合いはしているのだと思う。
 だけど、ご飯を一緒に食べて、テレビをみて、映画に行ってとどう考えても友達と過ごすのと変わらないので、するっと抜けてしまっていたのだ。お付き合いしているって事実が。

 俺が見つめ返していると、視聴予約をしていたテレビの電源が入りバラエティー番組が映し出された。
 各務くんはそれはもう凄く長いため息をついてから、部屋に戻っていった。

 呆れてテレビを消すんだろうか? もしかして帰っちゃうだろうか? と様子を見守っていたが、普通に座ってテレビを見始めただけだった。
 そんなに見たかったのかな? とりあえず俺の失言は許して貰えたみたいだ。
 俺はとっとと洗い物を済ませてコーヒーを二人分淹れれば、部屋に戻って一緒にテレビを見ることにした。
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