まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音

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まさか「好き」とは思うまい

9.「ごめん……意味が解らない」

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「その……ウザいとかは、あんたに言ったんじゃなくて……」

 俺が座れば各務くんは俯いてぼそぼそと話し出した。

「俺じゃないの?」
「あんたじゃない」
「えっと……俺の背後霊とかそういう?」
「そんなの見えねぇよ。あんた見えんのかよ?」
「いや見えないけど、じゃあ……何がウザい、の?」

 背後霊の話をしたら、顔を上げて馬鹿にしたような顔をしてきたが、またすぐに俯いた。

「おれが……キモイし、ウザい」
「へ?」
「だから、おれがって言ってんだろ!」

 うつむいたままキレ気味に言われたんだけど。

「ごめん……意味が解らない」

 俺は素直な感想を述べた。確かに俺がウザいとかキモイとか言われるのも良く判らなかったけど、さらに解らない。

「その、あれだよ……あんたのこと、いいなって思ってる自分が…キモイなって」
「いいなっていうのは……?」

 毎日同じ時間にくたびれた顔して缶チューハイとおにぎりを買う生活がいいなって思った……わけはないよな。

「あんたに前にも助けてもらったことが、あって……それから……店来るたびにいいなって……」
「えっと……?」
「一年の時まだこっちきたばっかで、気持ち悪くてコンビニの前で座ってたら仕事行くあんたが声かけてくれて、コンビニで水買ってくれて、ついでに店長にも話してくれて……」
「あ、あった。時間なくてお店の人に結局お願いしちゃったけど。え、あれ? あの子きみだったの? だいぶ雰囲気変わったね。あれか、大学デビューか」
「……うぜぇ」
「あ、すみません」

 今のウザいは俺に対してなのはわかった。

「……キモイだろ。それであの店でバイトしてるとか、ストーカーじゃん」

 まあ、確かに。

「でも家から近いからそこでバイトしてんじゃないの?」
「……それもある」
「じゃあ別にたまたま俺が来てるってことでいいんじゃない。そっかそっか、俺の事じゃなかったのか。良かった。俺何したんだろうって思ってたから」
「いや、良くねぇだろ」
「え? そうなの?」
「……気持ち悪くないのかよ」
「別に気持ち悪くはないけど……あ、一応言っておくけど俺男だよ?」
「……見りゃ判る」
「だよね、えっと、きみも男だよ、ね?」
「女に見えんのかよ」
「見えません」
「じゃあ、聞くなよ」
「いやほら一応……」

 そして訪れる沈黙。
 これは……どうしたらいいんだろうか。いいなと言われてはいても告白されたわけではないし。

「あの、これ……チョコ、とりあえず食べない? バレンタインだし」
「……意味わかんねぇんだけど」
「いや、あの、間が持たなくて」
「……他の女から貰ったチョコとか、最悪なんだけど」
「これ義理チョコだよ」

 あははと笑ってたら、各務くんがおもむろに立ち上がって、冷凍庫からチョコの入ったモナカアイスを取り出してきた。
 そして俺に投げてくる。

「それ、食ったら……その、なんつぅか」

 チョコモナカアイスを指さしてぼそぼそと各務くんが言う。バレンタインに本命を貰ったのは初めてだな。
 俺は包みを開けて食べた。
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