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まさか「好き」とは思うまい
5.「……断るならもっとましな嘘つけば?」
しおりを挟む翌朝出勤時にコンビニに寄ればおばさんが戻ってきていて、彼はやっぱり盲腸で今日手術することになったと教えてくれた。
「お兄さんに見に行ってもらって良かったわよ。あ、これ昨日のお礼ね。それにしても朝早いのねぇ、いってらっしゃい」
おばさんはそう言うと缶コーヒーを袋の中に入れてくれた。
俺は毎日変わらずコンビニで夕飯を買う。
驚いた事に、次の金曜日に彼はレジに立っていた。
「手術したって聞いたけどもう平気なの?」
俺は客が他に居ないことを確認してから、缶チューハイとおにぎりをレジに出して声をかける。
「あ?……1時間だけ入ってる。店長が休憩とれねぇから」
「そっか、無理しないようにね」
「うぜぇ」
「あ、うん、ごめん」
いつも通りの会話に何故かほっとして、412円を払う。
「あんたさ、次のヒマな日とか、いつだよ」
「えっと……なんで?」
「は? 一応礼とかしねぇといけねぇだろ」
「そんなのいいって。俺、救急車呼んだだけだし」
「……ちゃんと礼しろって店長がうるせぇんだよ」
「あ、もしかしてあのおばさんが店長さん?」
俺が聞くと不良店員くんが頷く。
「それは、押し切られて大変だな……でも、俺しばらく休みなくって、気持ちだけで十分だよ」
「……断るならもっとましな嘘つけば?」
「嘘じゃなくって本当の話。たぶんあと二か月くらい休みなくってさ」
あはは、と乾いた笑いが出る。自分で言ってて胃がきりきりとしてきた。
「それやばくない?」
「やばいけど、うん、長くいる会社だし、もうちょっとだから頑張ろうと思って」
「ふーん。聞いたことも無い会社なのにな」
あ、そういえば名刺渡してたっけ。世の中の会社なんて一般の人が知らない名前の中小企業が大多数なんだけどね。
「あらじゃあ、二か月後にお礼したらいいじゃないの。各務くんもテスト終わるころだし、いいじゃない」
俺と不良店員くんの会話に、バックヤードからお箸とお弁当をもったまま出て来たおばさんが加わった。
「店長。接客中なんすけど。食いながらこないでください」
きみの態度の方が接客としてはどうかと思うよ……と俺は思ったけど、黙っていた。
そして本当に二か月後、二月のバレンタインの日にご飯をおごってもらうことになった。
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