魔王の花嫁の護衛の俺が何故か花嫁代理になった経緯について

和泉臨音

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第三章

101.5話 幕間3(前)クリスティア視点

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 わたくしはオルトゥス王のいらっしゃる場所につながるよう命じ、魔法転移の扉を開けました。
 庭園で我が夫のハロルドを紹介し、そのあとお二人の時間を楽しまれた、と思っていたのに先ほど屋敷に戻って来たカデル様のお耳も尻尾も力なく垂れ下がっていたのです。

 あれは絶対に、なにかあったに違いない。

 わかりやすいカデル様の様子にわたくしは声をかける事はせず、彼を落ち込ませた原因であろう王へ文句……いいえ、意見をお伝えしに行こうと決意しました。

「……クリスティア? 入ってきていいよ」

 魔法転移の扉をくぐれば、簡素な石畳の塔にでました。その目の前に木でできた扉があり、そこがゆっくり開けばオルトゥス王の声が聞こえました。
 中は普通のお部屋です。来客をもてなす為の応接用のソファーと暖炉。王宮というよりも中流貴族の屋敷といった感じでしょうか。いえ、もしかしたら下流貴族、かもしれません。
 装飾も何もなく、どちらかと言えば実用的な室内に足を進めれば、文句を言おうと思っていた相手はソファーにどっかりと座って俯き、額に両手をあてて頭を抱えておりました。

 ああ、こっちも相当落ち込んでいる。

 自身の愛しい相手の元気を奪うとは何事なのか、と文句を言いに来たわたくしですが、これは、こちらをまず元気づけないといけないようです。

「何か用があった? もしかして……」
「カデル様は落ち込んでらっしゃいましたけど、私の屋敷に戻ってきております。問題はございませんわ」
「あ、そうか、なら良かった」

 わたくしの来訪をよからぬ事態が起きたと思ったのか、王は慌てた様子で顔を上げましたが、わたくしの説明に安心されれば再び俯かれました。

「サテンドラ様の件はお話になりましたの?」
「え? あっ……忘れていたね」
「そんな事だろうとは思いました。それなのにどうしてお二人とも落ち込んでらっしゃるんですの?」

 わたくしが問うと、オルトゥス王は再び顔を上げて苦笑しました。そして手でわたくしにソファーに座るように勧めてくださったので、正面の席に座ることにいたします。

「あんなに、嫌がられているとは……思ってなくて……」
「はい?」
「カデルが私を恐れていることは判っている。いつも怯えたように身を隠そうとするし、視線も彷徨わせるし」

 ええ、そうですわね。王に見られるとカデル様は大変恥じ入って、それはもう可愛らしくプルプルされていますわね。

「本来彼はちょっと頭が悪くて考えなしで、君も知ってるだろう? 無鉄砲で勇敢で恐れを知らない。なのに……少し触れただけで、飛び上がって避けられた」

 ああ、そうですわね。王がそのようにカデル様を優しくなでたなら、恥じ入って逃げますでしょうね。カデル様の評価に明らかな悪口がありますが、愛ゆえということで黙認いたします。

「それに、強くなりたいとずっと言っていたから、伯爵になれば力が得られると教え継ぐよう勧めたんだ。なのに……」
「拒否されたと」
「ああ……私の魔法に頼りたくないと。そこまで嫌われているなんて……思っていなくて」

 そう言って、魔族の王たるオルトゥス王は、今にでも地中に埋まってしまわれるのではないかというくらい重たい空気をまとい俯いてしまわれた。

 どうしてそんな思考になるのか、わたくし、まったく判りません。どこからどうみてもカデル様はオルトゥス王が大好きです。大変わかりやすいというのに。
 この目の前のお方は、全然気づいていない。

 わたくしの周りにいる世の女性が憧れる殿方は、どうしてこう揃いも揃って朴念仁なのでしょう?

 それにくらべてハリーのなんとかっこよく潔いことか。わたくしがオルトゥス王の花嫁になると知りながらわたくしとの愛を貫くことを誓ってくれました。一時は王を倒してわたくしを奪うと、とんでもない無謀も仰っていたので、これはよくないとわたくしから王へハリーと共にいる許可をいただくことにしましたけども。そもそもわたくしは王にも意中の方がいらっしゃることは判っておりました。

 小さい頃、わたくしが飼っていた犬のお話を手紙に書いた時の事、王も可愛い仔犬が傍に居るとお知らせくださいました。わたくしは同じように本当の犬なのだと思っていた時期もあったのですが、その内容から、これは人としての知能がある存在なのではと気づきました。
 そして魔族には獣人と呼ばれる種族がいるということを知り、王の大事な仔犬はきっと耳や尻尾が動物の特徴を持つ種族の方なのだろうと気づくのは簡単でした。

 ハリーのことをお伝えした時に「魔王の花嫁エスカータの姫」は王と夫婦になる必要はないと伺っておりました。なのでわたくしは好きな男ハリーと添い遂げるので、オルトゥス王も好きな方と添い遂げればいいと提案いたしました。
 王もその仔犬を特別に思っていることはご自身でも気付いていらっしゃいましたもの。提案はすんなりと通り、わたくしとハリ―の手はずは完璧でした。アーニャとジークにも幸せになって欲しくて同行を許可し、後は二人の気持ちだけだったと言うのに、一緒に居たいと言えるまでにどれだけ時間のかかった事か……。

 とにかく、オルトゥス王もジークも、意気地がなさ過ぎて引いてしまいます。まだこれならカデル様の方が勇敢ですわ。

「王よ、あなたがそんな事くらいでカデル様を諦めるとおっしゃるのでしたら、カデル様はわたくしがいただきます」
「え? 君にはハロルドがいるだろう??」
「女が夫を複数とってはいけないという決まりが、アエテルヌムにはありまして?」
「……いや、ないけど……。カデルもクリスティアの事、気に入っていたから……そうだね、それもありかも」

 思った以上に、面倒な方ですわね。
 わたくしは思わず大きなため息をついてしまいました。
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