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第三章
100話
しおりを挟む「今はさすがに、伯爵でなくても君よりは強いと思うが、君が鍛錬を積み、魔法を会得すれば今のルトラの歳にはティシウスに匹敵するくらい強くなれる可能性もある」
「……!! そんな、夢みたいな話、本当なんですか?」
「もちろん、君の努力次第だけど。私は君に期待をしている。だから伯爵になってほしい」
強くなれる。しかもアルトレスト伯爵、吸血鬼族の始祖と同レベルに? そんなこと、本当にあるのだろうか?
「ルトラが現役を 退くのはまだ先の話だろう。君は幼い。だからすぐにという話ではないけど……10年なんてあっという間に過ぎてしまうから」
王は手を動かそうとしたが、その動作は途中で止まる。俺に手を伸ばそうとしたように見えたのは……俺の自惚れだろうか。
赤い瞳が淡く輝き俺を見ている。
ああ、そうか、この赤い瞳は魔法だ。エスカータの花嫁が生贄となり継続している魔法。魔族を従えさせる、絶対服従の魔法。
そう、エリザベラ様もアルトレスト伯爵も俺に命令を聞かせようとしたとき瞳が赤くなった。
オルトゥス王の瞳が常に赤いのは、もしかしてずっと魔法を使っているということなんだろうか。
いや、でも、今は凄く圧力を感じ、従わなくてはならないという気持ちになる。ふわりと香る甘い匂いに膝をつきたくなる。
オルトゥス王を喜ばせたい、期待に答えたい……。
この気持ちが自分の気持ちなのか、オルトゥス王の魔法なのか判らない。
それなら……俺はこの意志には従えない。
淡く輝く赤い瞳をじっと見据えて、俺は震える声をなんとか振り絞る。
「あの……と、とても魅力的な話なんですけど……俺は、父の後を継ぐ気はありません」
「私が頼んでいるのに?」
「……えっと、俺、強くなりたいです。アルトレスト伯爵にだって勝ちたいし、あんな風にいいように遊ばれたくない、見返したい。でも、それは俺の、自分自身の力で達成したいんです。オルトゥス王や伯爵の方々は魔力も強いし、俺なんかからしたら雲の上の方々です。でも、俺は、その場所に自分の力で行きたい」
そうだ、俺はオルトゥス王に与えられ、庇護されたいわけじゃない。
…―― 俺が王を守りたいんだ。
「……人狼にはすぎた望みだよ?」
「判ってます。でも、俺思いました、だって父さんだって俺と変わらなかったんでしょう? 伯爵という力を得て強くなった。なら俺だって、自分自身で伯爵に匹敵する、何か強くなれるモノを見つければいいんじゃないかって」
「そう……私が作った魔法ではカデルは満足できない、そういうことだね」
赤い瞳が細められ、射貫くように鋭くなる。低くなった声に、心よりも体が先に恐怖で委縮した。息が苦しい。
怖い、だけどここで折れたら、俺は絶対に後悔する。
頑張れ俺、オルトゥス王のこの絶対服従の魔法に抗うんだ。王が期待してくれている俺なら、それくらいして見せろ。
俺は震えそうになる体に力を入れて、オルトゥス王の瞳を見つめ返した。
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