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第三章
97話
しおりを挟む二人がいつ出会ったかなんてわからない。
それでも、サテンドラがクリスティア姫の恋人なのだろう。
そう考えれば幾つも納得できることがあった。
人見知りでいつも人の目から逃れるようにしていたサテンドラが、率先してクリスティア姫には跪き、花を捧げていた。
ああ、なんで今まで気づかなかったんだろう。
だから王城に来てからも、きっと姫と共にいるための準備とか、そういう事をしていたんだ。
父さん、本当に頼むから、大事なことはちゃんと俺にも教えておいてくれ。
クリスティア姫が立ち上がり、やってきたもう一人の客に手を振っている。扉は背を向けた方角にあるから俺にはその姿は見えない。
クリスティア姫の今までで一番きらきらした笑顔を横目に見て、ああ、本当に大好きな相手なんだなって実感した。
大きく深呼吸をしたが、カップで揺れるハーブティーの落ち着く匂いがしなくなった気がする。
俺はちゃんと二人を祝わなくちゃいけない。
気持ちを切り替えるために、俺はカップの中の薄い琥珀をぐいっと全部飲み干した。
「こちらですわー! ハリー! オルトゥス王もカデル様もお待ちですわよ」
「すまない、ティーア! お待たせいたしましたオルトゥス王。ハロルド・エルター、ただいま参りました!」
……。
………?
…………は???
「はああああああああ? ハロルド????!!!!!」
俺は思わず立ち上がり、振り返る。椅子が大きな音を立てて倒れた。
「きゃぁっ!」
「大丈夫かいティーア。おいおいカデル。驚くにしても、もっと静かに驚いてくれよ!」
驚いてる時に静かも何かもあるかあああああ!!!
椅子が倒れたことに驚いたクリスティア姫が、小さな悲鳴を上げてハロルドに抱きついた。ハロルドは姫を抱き止めたまま、器用に俺の倒した椅子を元に戻す。
「え? 姫の恋人がハロルド?? え、あれ? サテンドラじゃ……」
「ああ……なるほど、そういうことか。さっき「サテンドラがもしかして」といったのは、クリスティアの夫になるのがサテンドラだと思ったんだね」
「そうでしたの。カデル様ってば早とちりですわ」
しっかりとハロルドの腕に自分の腕を回してクリスティア姫が抱き付いている。
姫は無邪気だと思うけど、あれだ、ちょっとあざといっていう奴なのかもしれない。目の前の姫は今までの子どもっぽさは鳴りを潜め、年相応の夫を取るにふさわしい淑女に見えた。
「ハロルドもよく来てくれたね。良ければお茶を飲んでいってくれ。カデル、クリスティアの隣はハロルドに譲っておあげ」
「えぇっ?! いえ、さすがに主にお茶の準備をしていただくわけにはいきません!!!」
「ハリー。オルトゥス王のご厚意を無下にする方が失礼ですわ。王の煎れてくださるハーブティーはとても美味しいんですのよ」
楽し気に誘うクリスティア姫に、ハロルドはさすがに戸惑って俺に視線を向けて来た。
わかるぞハロルドその気持ち。やはりクリスティア姫の心臓には誰も勝てない。
俺は自分が使っていたカップをソーサーごと持って、隣の席、クリスティア姫の正面で、我が王のすぐ隣に移動する。
その様子にハロルドも、自分が来るまでの間、俺も姫もオルトゥス王が煎れたお茶を飲んでいたと悟り恐縮しつつもテーブルに着いた。
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