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第三章

88話

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 俺が身構えたのが伝わったのだろう、アルトレスト伯爵は苦笑すると手をひらひらと振った。

「サテンドラだね。まったくキミにはとことん甘いな」
「あ、あの! サテンドラは、クリスティア姫の質問に可能性を答えただけで、確信があったわけじゃ多分なくって、っその…」

 俺はしどろもどろになりつつも言葉を紡ぐ。
 これはもしかして、魔族の国アエテルヌムの知られてはいけない秘密に踏み込んだんじゃないだろうか。

 俺の様子にアルトレスト伯爵は苦笑したまま、小さくため息をついた。

「大丈夫。そんなに必死に説明しなくても、別に僕はサテンドラの口を封じようなんて思ってないよ」
「ほ、本当ですか」
「うん。そんなことしても僕にはなんの得もないしね。しかしまぁ、サテンドラは喋れなくても口が回るねぇ」
「口というか頭が回るんです!」

 サテンドラは日々新しい薬や魔導具を開発していて、そのおかげでヘルデでは怪我や病気による致死率は下がったし、生活が便利になったりしているのだ。
 思わず身内自慢をしだした俺に、アルトレスト伯爵は呆れたような顔を向けた。

「一応確認するけど、王の魔法の話が3つ目の質問ってことでいい?」
「え? 教えてくれるんですか??」

 さっきの伯爵の様子から極秘事項かと思ったけど、聞けるのなら聞いておきたい。
 予想があっているか判ればサテンドラへの土産話になる。頑張って晩餐の準備もしていたし、いい褒美になるだろう。

 期待して続きを待っていれば物凄く深いため息とともに、アルトレスト伯爵が話しだした。

「カデルがそれでいいなら僕はいいけどね。……正確に言うなら、魔王の絶対服従の魔法はオルトゥスが作ったんだ。ただ、作れるように魔法を教え、実行できるように魔力を貸したのが僕たち六伯爵で、実際に実行したのがオルトゥスとエスカータだ」
「!? それってもしかしてエスカーダが最初の花嫁ってことですか?」

 俺の言葉にアルトレスト伯爵は小さく首をかしげる。

「うーん、厳密には違うかなぁ。エスカータは人柱にはならなかったから」
「人柱……?」
「キミたちの言う花嫁のこと。花嫁は魔法形成のための生贄だ。人柱としてこの土地でその命が尽きるまで拘束される」
「拘束って、幽閉されるとかそういうこと……ですか?」
「閉じ込めはしないよ。この辺、ウェスペルって呼ばれてる地域にいればいい。それはオルトゥスも同じだね」
「え……?」

 オルトゥス王も同じって……?

「ああ、そこは聞いてないのか。オルトゥスも人柱の一つだよ。魔法の生贄……というより魔法の核かな。エスカータの花嫁よりは行動範囲は広いけど、アエテルヌムから遠く離れることは出来ないね」

 そういうとアルトレスト伯爵は持っていたグラスをテーブルに置いた。俺もいつの間にか握りしめていたグラスをテーブルに置く。

「そんな……」
「今までの花嫁、エスカータの姫たちはここに来てから死ぬまで居たけど、まあまあみんな自由に過ごしてたよ。オルトゥスに恋した子もいたし、護衛と愛し合って幸せに過ごした子もいたなぁ」
「え?? あの、でも、花嫁って。オルトゥス王の花嫁、ですよね?」
「そうだね、でもそれはただの便宜上の固有名詞だから」
「……便宜上???」
「そ、僕もよくわからないけどエスカータとリベルタースが決めたんだ」

 アルトレスト伯爵は視線をグラスに移して、どこか遠くを見るような目をする。

「オルトゥスに花嫁を与えたかったんだろうね。僕からすればとんだ茶番だと思うけど、オルトゥスは付き合ってあげたんだなぁ」

 言葉の意味が判らず俺が首を傾げていると、アルトレスト伯爵は俺を見てにこりと微笑んだ。

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