魔王の花嫁の護衛の俺が何故か花嫁代理になった経緯について

和泉臨音

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第三章

85話

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 合流したネストたちを見て、ふと一人足りないことに気づく。

「サテンドラは一緒じゃないのか?」

 俺は父さんの代理としてみんなと別行動だったが、四人は一緒だったはずだ。

「あー、サテンドラな。さっきまでは一緒だったんだけど、姫様たちが出て来たあたりでまた呼ばれてった」
「呼ばれたって……」
「手伝ってほしいんだってさ。人手足りなさすぎだろ」

 俺の質問にネストが呆れたように答える。
 人手も足りなさすぎだし、サテンドラも手伝い過ぎだろう。全然会えないじゃないか。
 まあ、今の俺の姿を見たら「馬子にも衣装ですね」と揶揄からかってくるのは目に見えるけどさ。

「ほらほら~何やってるんすか二人とも! あっちに肉あるっすよ」

 無意識に人混みにサテンドラの姿を探していた俺と、その隣に立っていたネストの間にラッツェが顔を出せば腕を引く。
 案内されたテーブルではすでにミードミーとハロルドが肉を山盛り確保しており、俺たちを待っていた。

 そこからはハロルドも一緒にみんなで料理を食べたり、順番にミードミーと踊ったりして楽しく過ごした。
 途中、ドルミーレ伯爵にダンスを申し込まれた俺が、挙動不審になったがそれは仕方ないと思う。女性としての色気も勿論だけど、魔族のオーラというか、とにかくアルトレスト伯爵同様、言葉にしづらい圧迫感プレッシャーがすごいのだ。

 強い魔族からは感じる圧迫感。伯爵たちからはすごく感じる。
 だけど……そういえばオルトゥス王からは感じたことがない。一番強い魔族なのに、なんでだろう?
 ふと、視線を玉座に座る王に移す。

「あ、カデル、さっきアーニャちゃんに、騎士様との婚礼を来週やるから出席してほしいって言われたんだ。カデルに確認してからって思って返事は保留にしたけど、参加でいいよな?」

 婚礼!!!!? 
 視界の先に写るオルトゥス王に思いを馳せていた俺の意識が一気に戻る。

「それは絶対に出ないとダメだろう!」

 俺が迷わず答えれば、ネストが「カデル、尻尾」と半笑いで注意してきたので、俺は喜びで思わず盛大に振っていた尻尾を手で抑える。
 だってやっぱり嬉しいじゃないか! 二人との付き合いは短いが、ドタバタを見ているせいか親近感もあるし、祝福したい。

 ああそうか。姫の言っていた話ってきっと二人の婚礼のことだ。
 確かに準備があるなら話すのは早い方がいい。オルトゥス王を交える理由は判らないけど、何か大掛かりなことでも考えているんだろう。

 ふとハロルドの制服を見つめる。もしかしたらサヴィト殿と知り合いかもしれない。サヴィト殿やクリスティア姫に確認して、良ければハロルドにも出席してもらおう。
 祝い事は人が多い方がいいし、祝われ過ぎて悪いことなんてないもんな。

 そんな事を考えつつ、俺はその後もネストたちと晩餐を楽しんだ。

 晩餐は夜通し続くとの事だったが、時計の針が頂点を過ぎる頃には王や伯爵たちの姿は会場になかった。
 
 まだ呑み足りないと騒ぐラッツェに、俺はリベルタース伯爵の塔に寄るから先に帰ると嘘をついた。バレない様に尻尾には細心の注意をはらう。

 ミードミーとネストはラッツェに付き合い暫く残るというので、会場でみんなと別れた。

 俺は魔法転移の扉の前に立つと、大きく深呼吸する。
 アルトレスト伯爵の部屋へ。
 そう意識し開いた扉の先はリベルタース伯爵の塔と同じ作りの廊下だった。
 ただ、装飾が違う。
 絨毯は深紅で内装は全体的に赤が基調になっている。濃紺が基調の父さんリベルタースの部屋でないことは明らかだった。

 俺は廊下を抜け、扉をノックする。中から「どうぞ」とアルトレスト伯爵の声がした。

「失礼します」

 俺は扉を開けると、アルトレスト伯爵の部屋へ足を踏み入れた。

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