魔王の花嫁の護衛の俺が何故か花嫁代理になった経緯について

和泉臨音

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第三章

73話

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 謁見の間の天井は高く、左右の壁には大きな窓が並んでおり昼の光がまぶしく降り注いでいる。
 入り口からはずっと紫色の絨毯が、階段によって高くなっている玉座まで続いており、典型的な城にある王との謁見の間なんだろう。
 俺はこういう部屋に入るのは初めてなので、クリスティア姫より半歩遅れて進むことでそれとなく姫の動きを参考にさせてもらうことにした。

 玉座には黒い髪に赤い瞳、黒のローブを纏った人物がけだるそうに玉座に肘をつきこちらを見ていた。
 その玉座の隣、少し離れた位置にアルトレスト伯爵がいる。部屋の中にはその二人と俺たちだけだ。

 アルトレスト伯爵は俺と目が合うとにこりと微笑んだ。今まで会った時はシャツにパンツというラフな格好だったけど、今はきちんと正装をしている。
 赤を基調として金で装飾されたちょっと重そうな上着と白のパンツにも細かい刺繍のラインが入っており、ブーツに片肩だけのマントを着用していた。髪もきちんと後ろに流してセットしている。ラフな格好でも気品があったが、今の方が男前だなと妙な感心をしてしまった。

「お目にかかれて光栄に存じます」

 クリスティア姫は室内に並ぶ玉座に一番近い柱付近で立ち止まれば、普段よりも腰を落とし、スカートを持ち上げ優雅に礼をした。
 俺もその横で立ち止まり跪いて頭を下げる。

「ようこそアエテルヌムへ、我が花嫁クリスティア。エスカータからの旅ご苦労だった。これからはここが君の城となる。自由に過ごすがいい」
「ありがとうございます」

 静かな広間に我が王の声が響く。

 そう、我が王の声だ……だけど。なんだろう? 俺は違和感を感じて視線だけでそっと玉座を見る。そこにはクリスティア姫を見つめる王の姿があった。

「カデル・リベルタース。姫の護衛、ご苦労であった。無事に送り届けてくれたこと感謝する」
「はっ! ありがとうございます」

 やっぱり何か、変だ。俺は思わず確認しようと顔を上げて返事をした。
 王の姿を正面から見る。黒い髪、赤い瞳、綺麗な顔。俺の記憶のオルトゥス王に違いない。だけど。

「なにか言いたい事があるのか? カデル」

 声も、昨日聞いた王の声と同じだ。

「え!? あ、失礼いたしました!!」

 俺は慌てて頭を下げる。その俺の横でクリスティア姫が姿勢を戻すのが判った。

「わたくしはお伺いしたい事がございます。よろしいでしょうか?」
「ほう、かまわない。私への問いかけを許可しよう」

 オルトゥス王の声音は変わっていない。なのに明らかに場の空気が冷えた。
 俺は思わずアルトレスト伯爵を見る。伯爵は気にする様子なく俺と視線が合えば、再びにっこりと微笑んだ。
 あー……あの人また楽しんでるな。

「ありがとうございます。わたくしとカデル様はオルトゥス王に呼ばれたはずですが、いま玉座にいらっしゃる貴女はどなたでしょうか? アルトレスト伯爵もいらっしゃいますし、玉座に座ることを王がお許しになられているという事は、貴女も位のある魔族なのだとは思うのですが」

 凛としたクリスティア姫の声が謁見の間に響く。

 俺は思わず姫を見上げれば、視線をそらさずじっと玉座を見る姫の姿があった。
 その顔は紛れもなく真実を見極めようとしているもので、冗談や気の迷いといったあやふやな理由で発言したものではないことが判る。 

「……私が偽物だと。クリスティアはそう言うのか?」

 ぞわっと全身の毛が逆立つほど空間に魔力が放たれ威圧される。

 その魔力は玉座の人物から放たれているが、確かにオルトゥス王のものとは違う。
 玉座をもう一度意識して見つめれば、オルトゥス王の姿に重なってもう一つ、王よりも小さい影が見えた。

 視界が揺れる。これはウェスペルの街でアルトレスト伯爵と会った時と同じ。

「はい、貴女はオルトゥス王ではございません。だって、わたくしと同じ位の少女ではありませんか」

 きっぱりと言い切ったクリスティア姫の青い左目が、炎のようにきらめき揺れたように見えた。
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