79 / 130
第三章
73話
しおりを挟む謁見の間の天井は高く、左右の壁には大きな窓が並んでおり昼の光がまぶしく降り注いでいる。
入り口からはずっと紫色の絨毯が、階段によって高くなっている玉座まで続いており、典型的な城にある王との謁見の間なんだろう。
俺はこういう部屋に入るのは初めてなので、クリスティア姫より半歩遅れて進むことでそれとなく姫の動きを参考にさせてもらうことにした。
玉座には黒い髪に赤い瞳、黒のローブを纏った人物がけだるそうに玉座に肘をつきこちらを見ていた。
その玉座の隣、少し離れた位置にアルトレスト伯爵がいる。部屋の中にはその二人と俺たちだけだ。
アルトレスト伯爵は俺と目が合うとにこりと微笑んだ。今まで会った時はシャツにパンツというラフな格好だったけど、今はきちんと正装をしている。
赤を基調として金で装飾されたちょっと重そうな上着と白のパンツにも細かい刺繍のラインが入っており、ブーツに片肩だけのマントを着用していた。髪もきちんと後ろに流してセットしている。ラフな格好でも気品があったが、今の方が男前だなと妙な感心をしてしまった。
「お目にかかれて光栄に存じます」
クリスティア姫は室内に並ぶ玉座に一番近い柱付近で立ち止まれば、普段よりも腰を落とし、スカートを持ち上げ優雅に礼をした。
俺もその横で立ち止まり跪いて頭を下げる。
「ようこそアエテルヌムへ、我が花嫁クリスティア。エスカータからの旅ご苦労だった。これからはここが君の城となる。自由に過ごすがいい」
「ありがとうございます」
静かな広間に我が王の声が響く。
そう、我が王の声だ……だけど。なんだろう? 俺は違和感を感じて視線だけでそっと玉座を見る。そこにはクリスティア姫を見つめる王の姿があった。
「カデル・リベルタース。姫の護衛、ご苦労であった。無事に送り届けてくれたこと感謝する」
「はっ! ありがとうございます」
やっぱり何か、変だ。俺は思わず確認しようと顔を上げて返事をした。
王の姿を正面から見る。黒い髪、赤い瞳、綺麗な顔。俺の記憶のオルトゥス王に違いない。だけど。
「なにか言いたい事があるのか? カデル」
声も、昨日聞いた王の声と同じだ。
「え!? あ、失礼いたしました!!」
俺は慌てて頭を下げる。その俺の横でクリスティア姫が姿勢を戻すのが判った。
「わたくしはお伺いしたい事がございます。よろしいでしょうか?」
「ほう、かまわない。私への問いかけを許可しよう」
オルトゥス王の声音は変わっていない。なのに明らかに場の空気が冷えた。
俺は思わずアルトレスト伯爵を見る。伯爵は気にする様子なく俺と視線が合えば、再びにっこりと微笑んだ。
あー……あの人また楽しんでるな。
「ありがとうございます。わたくしとカデル様はオルトゥス王に呼ばれたはずですが、いま玉座にいらっしゃる貴女はどなたでしょうか? アルトレスト伯爵もいらっしゃいますし、玉座に座ることを王がお許しになられているという事は、貴女も位のある魔族なのだとは思うのですが」
凛としたクリスティア姫の声が謁見の間に響く。
俺は思わず姫を見上げれば、視線をそらさずじっと玉座を見る姫の姿があった。
その顔は紛れもなく真実を見極めようとしているもので、冗談や気の迷いといったあやふやな理由で発言したものではないことが判る。
「……私が偽物だと。クリスティアはそう言うのか?」
ぞわっと全身の毛が逆立つほど空間に魔力が放たれ威圧される。
その魔力は玉座の人物から放たれているが、確かにオルトゥス王のものとは違う。
玉座をもう一度意識して見つめれば、オルトゥス王の姿に重なってもう一つ、王よりも小さい影が見えた。
視界が揺れる。これはウェスペルの街でアルトレスト伯爵と会った時と同じ。
「はい、貴女はオルトゥス王ではございません。だって、わたくしと同じ位の少女ではありませんか」
きっぱりと言い切ったクリスティア姫の青い左目が、炎のように煌き揺れたように見えた。
10
お気に入りに追加
417
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
王子なのに戦場の聖域で好き勝手ヤってたら獣人に飼われました
サクラギ
BL
戦場で共に戦う者たちを慰める場所、聖域がある。そこでは国も身分も関係なく集うことができた。
獣人と戦士が書きたいだけで始めました。独りよがりなお話をお許し下さいます方のみお進みください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
見捨てられ勇者はオーガに溺愛されて新妻になりました
おく
BL
目を覚ましたアーネストがいたのは自分たちパーティを壊滅に追い込んだ恐ろしいオーガの家だった。アーネストはなぜか白いエプロンに身を包んだオーガに朝食をふるまわれる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで
キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────……
気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。
獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。
故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。
しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
聖獣王~アダムは甘い果実~
南方まいこ
BL
日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。
アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。
竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。
※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる