魔王の花嫁の護衛の俺が何故か花嫁代理になった経緯について

和泉臨音

文字の大きさ
上 下
78 / 130
第三章

72話

しおりを挟む

 謁見の間は左右にいくつもの控えの部屋が並んだ廊下の先にあり、その中のひとつでクリスティア姫と合流した。

「カデル様たちのお部屋は塔の上と伺いましたが…」
「ええとても見晴らしがいいですよ。父の執務室だそうです」

 俺が答えるとクリスティア姫はすこし考えるしぐさをしてから提案してきた。

「よろしければ皆様でわたくしの屋敷へいらっしゃいませんか?」
「俺たちは別にどこでも構いませんが……何かありましたか?」
「何かということはありませんが、せっかくなのでもう少し皆様と過ごしたいと思いましたの。それにアーニャたちも皆様と一緒の方が心強いと思いますし」

 聞かばメリー殿とサヴィト殿は暫く客人として滞在する事になるらしい。
 うちの屋敷に居た時の二人を思い出し、クリスティア姫の心配を理解した。王城になれるまでは見知った相手が居た方が手持無沙汰にもならないし、落ち着くだろう。 
 ラッツェもいつの間にかサヴィト殿を名前で呼ぶほど親しくなっていたし、ミードミーとメリー殿の仲もいい。

「ネストたちもクリスティア姫たちと一緒の方が喜ぶと思いますし、ぜひ俺たちが王城に滞在中の間、お邪魔させてください」
「ありがとうございます。カデル様」

 クリスティア姫は白い羽の扇子を広げて口元を隠す。が、いつも通り嬉しそうに微笑んでいるだろうことはその瞳を見ればわかった。

 ドレスは先ほどと同じだったが、今まで見たことのない白い羽の扇子を手にしていた。イヤリングは白い真珠が葡萄の房のようになっていて、姫の小さな耳がまるで貝殻のように美しく見える。そして髪はきちんと結い上げられ白い薔薇が一輪、飾られていた。オルトゥス王に会う為に身なりを整えてきたのだろう。

「あれ? その薔薇って」
「ええ、リベルタース伯爵家の庭園のお花です。サテンドラ様に枯れないようにしていただきましたの」

 へえ、そんなことまで魔法って出来るのか。花をそのままにしておこうなんて思ったことがなかったから知らなかった。

「こちらの扇子は15歳の誕生日にいただいたお祝いのお手紙が変化したものなんですのよ」
「というと、もしかしてその真珠のイヤリングも?」
「あら、カデル様鋭いですわね。そうです。こちらは去年の誕生日にいただいたものですわ」

 姫は扇子で口元を隠す淑女のたしなみはもはや諦めたのか、今までと同じく満面の笑顔で答えてくれる。緑と青の異なった瞳がきらめいていて、貰った時の嬉しさを俺も共有できた。
 オルトゥス王の贈り物を律儀に身に着けるクリスティア姫の心配りはさすがだ。
 あれ? でもそうすると髪飾りは貰ってないのかな? 気にはなったがさすがにそんなこと聞くのは失礼なので、俺は口にはしないことにした。

「お話中失礼いたします。クリスティア様、カデル様。王がお呼びでございます」
「いよいよですわね」
「はいっ!」

 俺とクリスティア姫は高まる期待をそのままに、謁見の間に足を踏み入れた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

処理中です...