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第二章
63話
しおりを挟む昨日のこともあったし、その瞬間に俺たちも立ち会わせてもらえるのは幸せな事だと思う。だけど、俺が思うプロポーズって。
「騎士様はもう少し、ムードとか状況ってものを学んだ方がいいんじゃないんですかね?」
ネストがややというか、だいぶ呆れた感じでつぶやいた。
そう、俺も思った。プロポーズってさ、こうもっと綺麗な場所でするもんじゃないのか?
サヴィト殿とメリー殿だけを切り取ってみればそれはもう、絵画か恋物語のワンシーンに見えなくはないけど、ここはいかんせん厨房である。そんな二人を放置して、ミードミーはベーコンと卵を焼いているし、パンの焼ける美味しい匂いもする。その横でサテンドラもせっせとなんだあれ、サラダか? なんか野菜を皿に盛り付けていた。
「ジークは皆さまが起きないうちにアーニャに求婚するつもりだったようですわ。残念ながら上手くいっていないようですけれど、あの状態でまったく動かないのです」
二人はいつからそのままなのか微動だにしていない。それに業を煮やしたクリスティア姫が何かしら変化を起こそうと俺たちにまで声をかけたという事か。アルトレスト伯爵まで使いっぱしりに出来るところがさすがだけど。
「あの、クリスティア姫。メリー殿の具合は、良くなりましたか?」
「アーニャの具合、ですか?」
俺はこそっとクリスティア姫に気になっていることを尋ねる。しかし姫は小首をかしげて俺を見上げて来た。
やっぱり、俺のこの昨夜の記憶は夢なのか? 体の痣や便箋の跡など、物的証拠は俺の記憶が正しいと示しているが不安になってくる。どう、確かめたらいいんだろう。
俺が無い頭を悩ませていると、後ろから覆いかぶさるように俺の肩に両腕が乗ってきた。
もちろんびくっと、体は突如現れたものに驚き反応してしまったが、なんか、このパターン慣れてきたぞ俺。
「昨日、林檎酒でつぶれたのはカデルだけだよぉ。ジークロード! もうちょっと気の利いた事言ってあげたらどーお? お城買ってあげるとか、エスカータの王妃にしてあげるとか!」
俺の肩に両腕を乗せて寄りかかるように覆いかぶさってきているアルトレスト伯爵が、野次馬よろしくサヴィト殿に声をかける。
しかしその内容は明らかにメリー殿にとっての禁句だ。メリー殿は顔を青くしてアルトレスト伯爵の方、つまり俺の方を見れば一歩後ずさった。
「いえ、アルトレスト伯爵。オレはエスカータの王にはなりませんし、城ももちません。そのような権力やしがらみにアーニャを巻き込む気もない。ただ、一人の男として彼女と家族を持ちたいだけです。それが今までのオレの生活からすれば不憫だと周りの者に言われようとかまいません」
サヴィト殿はゆっくりと立ち上がると、こちらを向き、真剣な表情で告げた。
昨夜の、ここでの記憶はきっとサヴィト殿にも無い。
あったとすればさすがにここでプロポーズしようとは思わないだろう。でも、サヴィト殿の心は昨夜別れる前に話していたことを忘れてはいない、そんな気がした。
「ふぅん。好きな女に貢げないって男としてちょーと情けないなぁって僕は思っちゃうけどね。ね、カデル。僕のところにきたら美味しいものお腹いっぱい食べさせてあげるし、オルトゥスの城よりも大きい城を作ってあげる。だから僕の食糧にならない?」
「……謹んでお断りします」
抱きしめられたまま、小さい子どものように無邪気にすり寄ってくるアルトレスト伯爵がなんかとんでもないことを言ってきたが、俺は失礼にならないように言葉を選びつつも断固拒否した。
食糧にするために美味いもの食わせて家を立派にするって、それただの食用飼育だろうが。サヴィト殿たちの話と同列に話すなよ。
「アーニャ、言われたメニューは仕上げました。カデルたちも起きてきましたし、そろそろ食事にしましょう」
進展しそうもない状況で、ミードミーが冷静な声でメリー殿に伝えた。
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