上 下
29 / 130
第一章

25話

しおりを挟む

 サテンドラは「姫と話す前に、オルトゥス王と騎士王エスカータについて、カデルがまとめてください」と黒板に書くと、自分はハーブティーを飲み始めた。

 確かにエスカータ国と魔族の国アエテルヌムでは二人の物語が違って伝わっているかもしれない。話し合いの時に前提条件を確認するのは大事なことだ。

「では、魔族の国で伝わっているオルトゥス王とエスカータ王の話をしますね……」

 オルトゥス王に出会った頃の騎士王エスカータは、今よりも小さい国の王子だった。
 その頃は魔族がヒト族を狩り、ヒト族は昼夜問わず魔族の襲撃に怯え、隠れるように住んでいたという。
 そういった時代に騎士王エスカータの生まれた国は強力な騎士団を作り上げて、魔族から国民を守っていた。
 しかし、その国は小さく、どんなに尽力しても守り切れないヒトが多かったのだという。

 若き王子エスカータは、魔族に対して戦う以外の対応は出来ないのかと考えた。だが魔族について彼は何も知らなかったから、案など出ようはずもない。
 そこで魔族の多い地域に単身、調査に出かけた。それが今の俺たちの国の中心、ウェスペル付近だ。

 調査に出かけたウェスペルの森で、王子エスカータはオルトゥス王に出会う。

 オルトゥス王はヒト族と同じ容姿だったから、エスカータはオルトゥスを同胞魔族に会いに来たヒトだと思ったそうだ。
 二人は何故か意気投合し、エスカータの悩みを聞いたオルトゥス王は魔族を統治し、ヒト族が安心して暮らせるよう協力することとなった。

 これがアエテルヌム建国の話だ。

 あまりにもヒト族が弱いことを不憫に思い、オルトゥス王は気に入ったヒト族の王子の願いを気まぐれで叶えた。
 その見返りが盟約。エスカータ国の姫を200年に一度、もらい受けること。

「クリスティア姫が1200年目の、6人目の花嫁ですね」

 俺の説明をサテンドラが「カデルにしては良くまとめましたね」と褒めてくれたので、ちょっと嬉しい。

「エスカータでは始祖エスカータ王が知恵を使い、オルトゥス王が魔族を統治するよう導いた、と言われています。オルトゥス王からそれについて特に異議はいただいていないので、気にもなさらない相違なのでしょうけど」
「さすがに気まぐれで助けてもらって、子孫を嫁がせるなんて話はエスカータ国では伝えられないと思いますよ」
「それもそうですわね。ただ、王家の一部、いえ、王になる者しか知らないオルトゥス王の伝承もエスカータには伝わっておりますの」

 クリスティア姫が俺たちに教えてくれた話はこうだ。
 3度目の花嫁の時、あろうことかエスカータ王は自分の娘でなく町娘を買い、その娘を自分の姫としてアエテルヌムへ送り出した。

 しかしそれはオルトゥス王に見破られ、怒りを買ったエスカータ王とその妻と娘たちは一瞬にして命を絶たれたという。
 そしてその王の弟が代わりに即位し、弟王の娘が改めて3度目の花嫁としてオルトゥス王に嫁ぎ、盟約は無事に果たされた。

「え……3度目っていうと600年前? にそんなことがあったんですか?」
「エスカータの公式な歴史では、その時の国王一族は流行病でなくなり、その後即位した弟王の第一王女も同じく流行病で亡くなったことになっています。もちろん、3人目の花嫁は兄王が送り出した姫ということになっておりますわ」
「サテンドラ、お前知ってたか?」

 何でも知ってるサテンドラだから、知っていても驚かないぞと思って話を振ったが「そんな国家の機密を知ってるわけないでしょう」とあっさりした返事と呆れた視線を返された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。

黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

ようこそ異世界縁結び結婚相談所~神様が導く運命の出会い~

てんつぶ
BL
「異世界……縁結び結婚相談所?」 仕事帰りに力なく見上げたそこには、そんなおかしな看板が出ていた。 フラフラと中に入ると、そこにいた自称「神様」が俺を運命の相手がいるという異世界へと飛ばしたのだ。 銀髪のテイルと赤毛のシヴァン。 愛を司るという神様は、世界を超えた先にある運命の相手と出会わせる。 それにより神の力が高まるのだという。そして彼らの目的の先にあるものは――。 オムニバス形式で進む物語。六組のカップルと神様たちのお話です。 イラスト:imooo様 【二日に一回0時更新】 手元のデータは完結済みです。 ・・・・・・・・・・・・・・ ※以下、各CPのネタバレあらすじです ①竜人✕社畜   異世界へと飛ばされた先では奴隷商人に捕まって――? ②魔人✕学生   日本のようで日本と違う、魔物と魔人が現われるようになった世界で、平凡な「僕」がアイドルにならないと死ぬ!? ③王子・魔王✕平凡学生  召喚された先では王子サマに愛される。魔王を倒すべく王子と旅をするけれど、愛されている喜びと一緒にどこか心に穴が開いているのは何故――? 総愛されの3P。 ④獣人✕社会人 案内された世界にいたのは、ぐうたら亭主の見本のようなライオン獣人のレイ。顔が獣だけど身体は人間と同じ。気の良い町の人たちと、和風ファンタジーな世界を謳歌していると――? ⑤神様✕○○ テイルとシヴァン。この話のナビゲーターであり中心人物。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界に転移したショタは森でスローライフ中

ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。 ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。 仲良しの二人のほのぼのストーリーです。

処理中です...