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第一章
20.5話 幕間1(前)ネスト視点
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堅苦しい話が続いているのでちょっと息抜き番外編です。
視点はネストとラッツェ。
時間軸は1話よりも前。護衛任務者の勧誘の話。
********************************************
カデルから話があるともじもじと照れた様子で声をかけられたから、ついにミードミーにでも告白されたか? と思ったのに全然違った。
「エスカータの姫の護衛ぃ??」
おれは思わず飲んでた葡萄酒を吹きそうになった。
もじもじと顔を赤くしたカデルが、頼んだ肉に手を付けずにこくこくと頷いた。
「そうなんだ! 我が王から直々にリベルタースに話が来たって、そんで俺が責任者で護衛の任務に就くことになったんだ!」
ヘルデの街にある、おれたちの住むリベルタースの屋敷にほど近い酒場。
カデルは酒を飲まないが、飯が美味いし値段も高くないから屋敷では話しにくいことがあると、二人でここに来ることが多い。
今日もそういった話かと思ったが違ったな。
「んで、なんでお前はそんな恋した乙女みたいな顔してんだ」
おれは呆れながら問いかける。
返事によっては本気で口の中のもの吹き出す気がしたので、とりあえず飲むのも食べるのも一時中止だ。
「は? そんな顔してないだろ」
赤い顔に気づいてないのか、自分の頬を両手で抑える。そういうのが乙女っていうか、おれの妹たちかよ……って突っ込むとこなんだって。
おれの視線で自分の動作が女っぽいと気づいたのか、慌てたように耳と髪にその手を移動させ、毛並を整えるように動かしカデルは誤魔化している。
誤魔かせてないけどな。
「それで、だ。ネストも」
「ダメダメ、おれは嫌でーす」
「まだなんも言ってないだろっ」
「言わなくてもカデルのいう事なんて判ってる。手伝えってんだろ?」
ちなみにさっきからお前の尻尾ずーっと揺れてるからな。いったい幾つになったら尻尾に感情がでるの抑えられるんだろうな。
半ばあきれつつカデルを見やりながら、おれは葡萄酒を再び口に運んだ。
「手伝えっていうか、一緒に護衛任務をしてほしい」
「だから、嫌でーす」
「っなんでだよ!?」
「面倒じゃん。ヒト族なんて弱いし。それにお前だって知ってんだろ、盟約を無くすためにって動く魔族もいるって。もしおれらより格上の魔族がでてきたらどうすんだ?」
「うっ……」
「伯父さんに任せとくべきだろ?」
「……うう、そうだけど」
そうだけど、何なんだろうな。
耳も尻尾もしゅんと下に垂らして俯く従兄弟は可哀想だな、とは一応思う。
「王様に、会えるってのにつられたのか? 盟約の話を否定しないってことは、そのエスカータの姫って王様の花嫁だろ?」
「……うん」
しょんぼりと俯いたまま、こくりと小さく頷きながら答える。
その肯定はどっちにかかってんだか。
従兄弟のカデルとは小さい頃からずっと一緒に育った。
こいつは三人兄弟の三番目で、小さい頃は一番上の兄貴、トライドとおれと三人でよく山とか行った。そのたびにカデルは穴にはまるわ、川に流されるわ、獣に攫われるわで大変だった。
ま、それをトライドと助けるのが楽しかったけど。そのトライドはもういない。おれ一人でこの甘えたがすぎる弟分の面倒を見るのはなかなか大変なんだ。
ちなみに二番目のルードはおれと同い年だが、あいつは外で遊ぶのが嫌いでほぼずっと屋敷で本を読んだり魔法を研究してる。おれとは趣味が合わないから一緒に遊んだ記憶はない。
「伯父さんとかルードはなんて言ってんだよ?」
「父さんは笑いながら応援してるっていった。兄さんは……ネストと同じ」
「お前じゃ荷が重いって?」
「そう言われた」
「そりゃそうだよな。もし万が一にでも失敗してみろ。大問題だぞ。お前の王様に会いたいっていう勝手な気持ちだけでヒト族の姫様も死ぬし、王様は花嫁を失う。盟約がなくなってみろ、エルター領なんて一番に魔族に食い尽くされるぞ」
おれが肉を口に入れる合間にカデルにいうと、しょんぼり顔のまま視線だけでおれを見る。
「俺は弱いかな」
「弱くはねえけど、格が違えば手も足も出ない。そんなこと……お前もよく判ってんだろ」
俺がそういうと、トライドの事でも思い出したのかカデルが暗い顔になった。
んーこういう辛気臭いの嫌いなんだよ。飯も不味くなる気がする。
それにおれだって好きこのんで嫌なことをカデルに思い出させたいわけじゃない。
「なーにカデルいじめてんっすか?」
そこにやたらと明るい声が割って入ってきた。
視点はネストとラッツェ。
時間軸は1話よりも前。護衛任務者の勧誘の話。
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カデルから話があるともじもじと照れた様子で声をかけられたから、ついにミードミーにでも告白されたか? と思ったのに全然違った。
「エスカータの姫の護衛ぃ??」
おれは思わず飲んでた葡萄酒を吹きそうになった。
もじもじと顔を赤くしたカデルが、頼んだ肉に手を付けずにこくこくと頷いた。
「そうなんだ! 我が王から直々にリベルタースに話が来たって、そんで俺が責任者で護衛の任務に就くことになったんだ!」
ヘルデの街にある、おれたちの住むリベルタースの屋敷にほど近い酒場。
カデルは酒を飲まないが、飯が美味いし値段も高くないから屋敷では話しにくいことがあると、二人でここに来ることが多い。
今日もそういった話かと思ったが違ったな。
「んで、なんでお前はそんな恋した乙女みたいな顔してんだ」
おれは呆れながら問いかける。
返事によっては本気で口の中のもの吹き出す気がしたので、とりあえず飲むのも食べるのも一時中止だ。
「は? そんな顔してないだろ」
赤い顔に気づいてないのか、自分の頬を両手で抑える。そういうのが乙女っていうか、おれの妹たちかよ……って突っ込むとこなんだって。
おれの視線で自分の動作が女っぽいと気づいたのか、慌てたように耳と髪にその手を移動させ、毛並を整えるように動かしカデルは誤魔化している。
誤魔かせてないけどな。
「それで、だ。ネストも」
「ダメダメ、おれは嫌でーす」
「まだなんも言ってないだろっ」
「言わなくてもカデルのいう事なんて判ってる。手伝えってんだろ?」
ちなみにさっきからお前の尻尾ずーっと揺れてるからな。いったい幾つになったら尻尾に感情がでるの抑えられるんだろうな。
半ばあきれつつカデルを見やりながら、おれは葡萄酒を再び口に運んだ。
「手伝えっていうか、一緒に護衛任務をしてほしい」
「だから、嫌でーす」
「っなんでだよ!?」
「面倒じゃん。ヒト族なんて弱いし。それにお前だって知ってんだろ、盟約を無くすためにって動く魔族もいるって。もしおれらより格上の魔族がでてきたらどうすんだ?」
「うっ……」
「伯父さんに任せとくべきだろ?」
「……うう、そうだけど」
そうだけど、何なんだろうな。
耳も尻尾もしゅんと下に垂らして俯く従兄弟は可哀想だな、とは一応思う。
「王様に、会えるってのにつられたのか? 盟約の話を否定しないってことは、そのエスカータの姫って王様の花嫁だろ?」
「……うん」
しょんぼりと俯いたまま、こくりと小さく頷きながら答える。
その肯定はどっちにかかってんだか。
従兄弟のカデルとは小さい頃からずっと一緒に育った。
こいつは三人兄弟の三番目で、小さい頃は一番上の兄貴、トライドとおれと三人でよく山とか行った。そのたびにカデルは穴にはまるわ、川に流されるわ、獣に攫われるわで大変だった。
ま、それをトライドと助けるのが楽しかったけど。そのトライドはもういない。おれ一人でこの甘えたがすぎる弟分の面倒を見るのはなかなか大変なんだ。
ちなみに二番目のルードはおれと同い年だが、あいつは外で遊ぶのが嫌いでほぼずっと屋敷で本を読んだり魔法を研究してる。おれとは趣味が合わないから一緒に遊んだ記憶はない。
「伯父さんとかルードはなんて言ってんだよ?」
「父さんは笑いながら応援してるっていった。兄さんは……ネストと同じ」
「お前じゃ荷が重いって?」
「そう言われた」
「そりゃそうだよな。もし万が一にでも失敗してみろ。大問題だぞ。お前の王様に会いたいっていう勝手な気持ちだけでヒト族の姫様も死ぬし、王様は花嫁を失う。盟約がなくなってみろ、エルター領なんて一番に魔族に食い尽くされるぞ」
おれが肉を口に入れる合間にカデルにいうと、しょんぼり顔のまま視線だけでおれを見る。
「俺は弱いかな」
「弱くはねえけど、格が違えば手も足も出ない。そんなこと……お前もよく判ってんだろ」
俺がそういうと、トライドの事でも思い出したのかカデルが暗い顔になった。
んーこういう辛気臭いの嫌いなんだよ。飯も不味くなる気がする。
それにおれだって好きこのんで嫌なことをカデルに思い出させたいわけじゃない。
「なーにカデルいじめてんっすか?」
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