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第一章
17話
しおりを挟む本当はもっと駆け引きとかしないといけないのかもしれない。
でも俺はそういう事が向いてないって自分でも判ってるし、クリスティア姫は俺に答えられることであれば、偽らずに答えてくれる、そんな気がしていた。
「カデル様が先ほど言ってらしたお話とは、ジークのことですの?」
「えーっとメリー殿のあの不調についても、なにか理由があるのなら知りたいですけど」
「ふふふ、カデル様はびっくりするくらい、包み隠さず聞くのですね」
俺が答えるとクリスティア姫が目を見開き緑と青の瞳を瞬かせてから、先ほどと同じくキラキラした笑顔を浮かべた。そんな綺麗に笑ってもらえるような事、俺は言っただろうか?
「笑うなんて失礼いたしました。でも嬉しくなってしまって、わたくしのお話ししたいこともジークとアーニャのことですの」
クリスティア姫はそういうと、視線をサヴィト殿とアレンに移し、話し始めた。
「わたくしの兄弟はわたくしが知る限りで31名おります」
「???? さんじゅういち??」
「ええ。もともとエスカータの王には正妻の他に側室がいるのが普通です。王というよりも貴族は概ね、妻を複数人娶ります。でもさすがに子どもが30人を超えるなどありません。ただ、私の兄弟は多いのです。それはオルトゥス王の花嫁を確実に育てるためでした。今年の時点で姫が存在していなくては、盟約が果たせませんから」
俺は思わず驚いた声を上げた。
その声がサヴィト殿や周りにいる誰かに聞かれてしまっていないかと視線を走らせたが、こちらを気にする者はいなかったので安堵する。
そんな俺とは違い、姫は静かな声音で話を続けた。
「31名の王の子の中で姫は私を含めて6名です。姫は王の子としてそのまま育てられていますが、王子は最初に生まれたリースカールお兄様と正妻である王妃の産んだ御子以外は、全員、生まれてすぐに養子に出されました。ジークロードも産まれてすぐ、わたくしの母の出身であるサヴィト伯爵家の養子となりました」
「それはつまり、サヴィト殿はクリスティア姫の血縁というか……」
「そうです。わたくしとジークは両親を同じくする兄妹です」
クリスティア姫はサヴィト殿たちの方を向いたまま、視線だけを俺に向けて告げる。
そういわれてみれば似てる、いや、あまり似てないか? 思わずサヴィト殿とクリスティア姫を見比べたが外見的な特徴では似ているところは見つけられなかった。
「アーニャはわたくしの乳母の娘で、幼い頃より一緒に育ちました。ジークとアーニャはわたくしを介して知り合い、恋に落ちたのです」
俺がクリスティア姫とサヴィト殿を見比べていると、姫は静かな声でさらりと聞き逃せない事を言ってきた。
恋?? とは???
「わたくしがカデル様にお伝えした方がいいと思ったお話は、ジークとアーニャの関係です」
「恋っていうと、えっと恋人同士……っていうこと?」
「恋人というか恋人だったというべきか。アーニャが取り乱した理由は、ジークがアエテルヌムに来たのは自分のせいだと思っているからですわ。ジークは伯爵家の養子となりましたが、王の子であることは間違いありません。アーニャはわたくし付きの侍女です。ジークは身分に合った令嬢を正妻として迎え、アーニャを側室にすることはできますが、それを彼は望みませんでした」
不器用な人なので、とクリスティア姫は苦笑する。ああ、その笑い方はサヴィト殿に似ているな。
鍛錬場には剣の打ち合う音が響く。
クリスティア姫の静かな声を聞き逃さないよう姫の言葉に意識を向けつつ、アレンと互角に戦うサヴィト殿を見つめた。
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