48 / 73
48 俺のすべきこと
しおりを挟むあらためて整理してみよう。
俺は就寝の準備を終えベッドに大の字で転がると、見慣れた天井の花々を見つめる。
ヒューベリオン殿下には想い人が居る。これは間違いない。本人からも聞いたし、女王陛下も把握されていた。
もし、その相手がオデット皇女なら問題なく結婚するだろうから皇女ではない。そもそも子どもが出来ない相手らしいからその点でも除外できる。
殿下が俺に言った「障害」というのも、この子どもが出来ないってことなんだろう。
……でもどうにかなりそう、とも言っていたっけ。
「うーむ、どこかから養子をとる算段が出来そう……とか?」
現在王族と認められてはいないが歴史を遡れば王家の血を継いでいる貴族がいないわけでもない。
その者に王位継承権を発生させるのは難しいけど、不可能ということもないのでその辺りの調整なんだろうか? だとすると女王陛下も一枚噛んで……はいないよなぁ。陛下も相手の名は聞いていないみたいだったし。
「殿下がアレスに想い人を教えたのは信頼してるのはもちろんだけど、反対されないから……?」
俺や女王陛下に具体的に言わないのは、反対される相手だと分かっているからだろう。いやまあ相手が誰であろうと後継が作れない以上、陛下は立場上、反対するしか無い。
俺には相談してくれてもいいと思うんだけど……信用されてないんだろうなぁ。
それにしたって相手が本当にアレスじゃないなんてことあるんだろうか?
性格は確かに多少難アリだと思うが実力も容姿も申し分ない。殿下のこれからの人生のパートナーとして最良だろう。分かりにくいが、さり気ない優しさも漫画のアレスと同じく持ち合わせているし、懐に入ってしまえばかなりだだ甘やかしのスパダリになるはずだ。殿下が惚れない理由がない。
「あ、でも……」
漫画のヒューベリオンと俺の殿下は結構キャラが違う。
漫画の殿下は繊細で張り詰めた雰囲気の完璧王子だった。太陽か月かで言えば月だし、昼か夜かで言えば夜、季節なら秋か冬っていうイメージだ。見た目も俺の殿下よりだいぶ細身で、笑顔も憂いを帯びていて心の底から笑ってる印象はない。それがアレスと関わり、次第にやわらかく変わっていくのが胸アツ展開なんだが……と話がそれた。
とにかく漫画のヒューベリオンは俺が出会った頃の幼い殿下がそのまま成長した感じだった。あの偏食のまま育ったらそりゃ線も細くなるだろう。
一方俺の殿下は昼間の太陽みたいな存在に成長した。さすがに真夏ほど熱血ではないが春から夏にかけての明るいイメージが似合う。王子としての外面の良い笑顔はあるが、親しい者と話す時は楽しそうに声を出して笑うこともあるし、胸板も厚くて腕とか足とかも騎士並みに太い。フィジカルもメンタルもこれから一国を背負うのに問題ないほど図太く立派に成長した。どこにお出ししても申し分ない完全無欠の王太子である。
キャラ設定という点では俺もかなり変わっているが、惚れた相手は漫画の邪魔者ミルドリッヒと同じだ。
だから殿下たちもてっきり同じ人を好きになっているのだと思ったけど……違うんだろうか。
「わからん」
アレスの言う通り、俺が考えたところで正解はみつけられないだろう。
ヒューベリオン殿下に聞くのが確実だ。
「でも、またはぐらかされたらなぁ……」
それはそれでちょっとというかかなり凹む。俺は殿下の味方になれないと暗に言われているのだ。辛い。
俺はベッドの上をゴロゴロと転がってから、サイドテーブルに置いてある殿下特製マッサージオイルの小瓶を手に取った。
先日、嵐のように対策室にやってきたヒューベリオン殿下が置いていったものだ。というか、これを俺に渡すために立ち寄ったらしい。
「疲れたら使ってくれ」とそれだけいうとカインに引きづられて立ち去っていった。
漫画のヒューベリオンではイメージできないが、俺の殿下らしいと言えばらしい姿である。殿下も懐に入れた相手には優しいので、親しい部下が多少ぞんざいな扱いをしてきても笑顔で許すし、たまに悪ノリもしている。
そう言えば漫画のヒューベリオンは横柄な態度のアレスにかなり参っていた。他人から距離を詰められるのが苦手なんだろう。どうにか笑顔の仮面であしらっていたが、あまりのしつこさに堪忍袋の緒が切れて食って掛かったあとはちょっとずつ打ち解けて甘えていた。その後もまあまあツンデレ気味だった。
俺の殿下ではちょっと想像できない姿だ。本気で嫌な相手には笑顔でのらりくらりと器用にあしらい遠ざけるし、場合によってはシュタインにしたように陥れて排除することも躊躇いなくするだろう。
漫画のヒューベリオンのように真面目で一生懸命すぎて不器用で、思わず手を差し伸べたくなるような、それこそ俺と出会った頃の殿下のような子どもみたいなか弱さはない。
「……はぁ」
俺は殿下から貰ったオイルを手に取ると両手に塗り込んでいく。
ふわりと広がる甘いホットミルクの香りにほっと一息つく。
「ほんと……いい香り」
ハンドクリームみたいに手に馴染ませて鼻に近寄せるとすーはーと大きく吸い込んだ。
「……ん?」
リラックスしすぎたのか、殿下にマッサージしてもらってた時の感覚を思い出してしまったのか、なんだか急に下半身がムズムズとしてきた。
「……んー」
俺はしばし考える。
朝起きた時に汚れているのは嫌なので、処理するには処理するのだが……。
「ちょっと、だけ……」
俺は服をくつろげると殿下の香りのするマッサージオイルを多めに手に取り、少し兆している男の象徴に触れる。
「ふ、ぅん……、これ、ヤバ」
ヌルっとした感触が予想よりも粘度があって、自身の熱と相まって想像以上に熱い。
「あっ…あっ……」
俺は更にオイルを腹にかけると右手は扱くのをやめず、左手で下腹部にオイルを塗りまくった。
ぶわりとミルクの香りが濃くなって、高まる快感で頭がグラグラする。
気持ちいい、気持ちいい、気持ちいいーっ!
夢中になった俺はしばし行為にふけったのだった。
気付けばはしたなく足を広げて尻穴までいじっていたわけだが……気持ちよかったのは殿下のオイルの匂いと前をいじったからで……消して後ろで感じたわけじゃない。
そんな誰に言うでもない言い訳を延々と脳内でしながら俺は再び就寝の準備を整える。
ヌイたからか少しばかりクリアになった思考が、殿下が誰を好きでも俺の行動は変わらないということに気づかせてくれた。
そう、たとえヒューベリオン殿下が誰と添いたげたいとしても、今回の縁談は成功させない。
ただそれだけだ。
「きっと、俺に言える時になったら殿下も打ち明けてくれるだろう……」
だから、殿下の想い人を知るのはその日まで待てばいい。今悩むことじゃなかった。
俺はスッキリとした体で、久しぶりに殿下の香りに包まれながら眠りについた。
893
お気に入りに追加
1,994
あなたにおすすめの小説

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!?
※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。

モブ兄に転生した俺、弟の身代わりになって婚約破棄される予定です
深凪雪花
BL
テンプレBL小説のヒロイン♂の兄に異世界転生した主人公セラフィル。可愛い弟がバカ王太子タクトスに傷物にされる上、身に覚えのない罪で婚約破棄される未来が許せず、先にタクトスの婚約者になって代わりに婚約破棄される役どころを演じ、弟を守ることを決める。
どうにか婚約に持ち込み、あとは婚約破棄される時を待つだけ、だったはずなのだが……え、いつ婚約破棄してくれるんですか?
※★は性描写あり。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど?
お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

お飾り王婿ライフを満喫しようとしたら、溺愛ルートに入りました?
深凪雪花
BL
前世の記憶を取り戻した侯爵令息エディ・テルフォードは、それをきっかけにベータからオメガに変異してしまう。
そしてデヴォニア国王アーノルドの正婿として後宮入りするが、お飾り王婿でいればそれでいいと言われる。
というわけで、お飾り王婿ライフを満喫していたら……あれ? なんか溺愛ルートに入ってしまいました?
※★は性描写ありです
※2023.08.17.加筆修正しました

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる