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46 なんで君がここにいるんだよ
しおりを挟む「~~というわけで、オデット皇女殿下には東の宮殿に滞在していただくことに」
「却下します」
「なっ!」
俺がジス皇国皇女の対応責任者となり早三日。
専用の対策室、というか元々会議用の部屋だけど、を作り準備を進めている。
こちらの業務をしている間はヒューベリオン殿下の世話役の仕事をしなくていいとのことで、あの最後のマッサージの日から殿下には直接お会いしていない。
いたたまれない夢を見てしまったので殿下に会わなくて良いのは正直ホッとしている。
とにかく今は目の前の仕事を完遂する。そして殿下の幸せの邪魔は誰にもさせない。もちろん俺自身にもだ。
本日は朝からはオデット皇女が泊まる場所の話し合いをしていた。相手はイゴー伯爵だ。王城の管理責任者である。
「なぜ駄目なのだっ?!」
「東の宮殿はヒューベリオン殿下も含めて若いαが多く出入りしています。そこにお泊まりいただくのは余りにも不用心。もしもの時の対応が遅れかねません。それにエーデルガルド伯爵も言っていましたが、Ωは繊細な方か多い。人の出入りが激しい場所では心休まらないでしょう」
「ぐっ……では西の宮殿にお部屋をご用意しては」
「それも却下です」
イゴー伯爵はαらしく精悍な顔つきで身長も高く髪は短くそろえられており清潔感はある。若い頃はそれはそれはモテたのだろう。だけど今は小太り……巨漢で背が高いのもありなかなか迫力のある体型をしている。
αは生まれ持って容姿など恵まれていることが多いが、その後の生活によっては残念なことになるというわかりやすい例だ。イゴー伯爵と比べると父上やエーデルガルド伯爵は、見た目もだが立ち居振る舞いにも気を使って生きてるんだろうなと察せられる。
「お前はっ、わしの提案がすべて気に入らないのか!」
「俺が気に入る気に入らないの話ではないんです。西の宮殿は王妃殿下が療養されており、陛下の居住でもあります。そもそもあそこは原則、陛下と殿下以外のαが立ち入ることを禁じています」
「そんなことはもちろん知っているっ!!」
「では、皇女御一行にαがいることもご存知ですよね?」
「なっ……そ、それはもちろん」
「αの方々は皇女と別の場所に泊めろと?」
「それはもちろんそうなるな」
イゴー伯爵の言葉に俺は大きくため息をついた。
「きっとオデット皇女は信頼できる部下を選んで連れてきています。その中でもαとなればよほど信頼している者たちなのでしょう。なのにあえて皇女の選んだαと引き離されたとしたらどんな気持ちになるでしょうか?」
「は、そんなのはどうとでも……」
「それに、来賓を分けるとその分警備費用もかさみます」
「ぐっ」
「皇女御一行は北の離宮に滞在していただきます」
「はっ! それこそ何を言う! あそこはずっと使っていない。整備するのにどれだけ費用がかかると……」
「それこそ何を言ってるんです、イゴー伯爵。北の離宮の維持費用は年間予算として貴方が申請していますよね?」
「あっ……」
「こういった場合にすぐ使えるよう整っているはずでは?」
「そ、それは……だが、離宮を警備するとなると予算が……」
「警備費用はあなたの管轄ではないし、俺の試算では東や西に増員するのと相違ない」
俺は予算を計算した資料をイゴー伯爵が分かるように机の上に置く。しかしイゴー伯爵はその書類を手に取ることなくわなわなと怒りに体を震わせた。お腹がプルプルしている。
「おわかりいただけたのなら、北の離宮を至急整えてください」
昨日確認に行かせたところまあまあ荒んでいたとのことなので、準備が間に合うかは結構ギリギリだろう。
だがここで間に合わないなどイゴー伯爵は言うことが出来ないはずだ。それこそ、ここ数年間の整備予算がどこに消えたのか言うよりはなんとしても間に合わせる方を選ぶだろう。
「ぐっ、ヒューベリオン殿下のお気に入りだからと調子に乗るなよっ!!」
イゴー伯爵は怒りに震えながら俺の右斜め後ろに向かって吐き捨てると、足音を荒々しく響かせて退室していった。
俺は大きく息を吐きながら背もたれに身を預ける。
こんなやり取りばかりだ。思わず頭を抱えたくなる。
自分の意見を責任者たちが軒並み押し進めようとする。それでも筋が通っていればと思うが、自分が管理している資料すら読んでないんじゃないだろうか……。よくこれでこの国は安定していられるな。いや、安定してるからこんな杜撰な官僚でも政治が回っているのか。
まあ、王政だから女王陛下がしっかりしてさえすればどうにかなるというのもあるけど、認めたくないがエーデルガルド伯爵の手腕もあるのだろう。
話を通すのに殿下や陛下の名を出すよりエーデルガルド伯爵の名を出す方が明らかに有効なのも考えものだ。
「おい、なんでお前のせいでオレが睨まれるんだよ」
俺の右斜め後ろから良い声で毒づかれる。
そして現状、俺が頭を抱えたいもう一つの事案はこれだ。
「その答えを俺が持ち合わせていると思いますか? そもそも俺は大丈夫だからヒューベリオン殿下の元へ行くよう言ったはずですが?」
俺は斜め後ろを振り返ると、なぜか俺の後ろで待機するアレスを見上げた。
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