31 / 73
31 邪魔者Ωミルドリッヒ
しおりを挟む「真昼の月と夜の太陽が出会う空で」は美麗な作画とオメガバースの醍醐味とも言えるR18シーンが多く、どのサイトでも高評価だったが内容が攻めすぎていたため好みはかなり分かれる作品だった。
ハッピー至上主義でオメガバースはカップリング固定になるからいいんだ派のふー姉ちゃんにはα同士ってのも3Pがあるってのも地雷だったらしい。
逆にBLってのは試練があってこそ珠玉になるという思考のまー姉ちゃんにはバイブルになっていた。
そう、この作品、濃厚なエッチシーンを売りにしていたからか3Pもある。
思い出せばだすほど俺は頭を抱えた。途中からは文字にするのも憚られて、そっとペンを置く。
邪魔者Ωミルドリッヒは偶然にもヒューベリオンとアレスの濃厚ラブシーンを見てしまう。そこで婚約破棄にでもなるのかと思えば、さすが邪魔者、ヒューベリオン殿下はアレスに騙されているのだと思い込む。しかし俺とは違い内気で箱入りΩのミルドリッヒは一人ではどうしたらいいのかわからず、常に自分の味方をしてくれる父親に報告した。
ミルドリッヒの父親、ヴァルドラ公爵ジークハルトはそれはもう一人息子のミルドリッヒが可愛くて仕方ない。元々ミルドリッヒがヒューベリオンに一目惚れしたことから始まった婚約だ。それならばヒューベリオンが逃げられないよう既成事実を作ってしまえばいいと一計を案じる。
いわゆる、ヒートトラップだ。
Ωが意中のαの前で発情し、フェロモンで強制的に襲わせる罠である。
これを実行に移したミルドリッヒだが、まあ、察しの良い読者ならうすうす勘づいていたのだろうけど、発情したミルドリッヒの元に現れたのはヒューベリオンでなくアレスだった。
ヒューベリオンの寝室に潜り込んだのにね。まさかアレスが居るとは思わないじゃん……。
哀れというか自業自得というか、邪魔者Ωミルドリッヒはアレスにグチャグチャに抱かれる。
そこにやってきたヒューベリオン。
どんな修羅場になるのかと思えば……まあこれも、考えればそうなるか……とは思うんだけど、ミルドリッヒのフェロモンにあてられてヒューベリオンも発情。激しい3Pへもつれ込むわけだ。
二輪刺しを女性向け漫画で見る日が来るとは……と、あの日の苦い記憶を思い出す。
しかも漫画のミルドリッヒはΩとして大事に育てられたからか、俺よりも体も小さく母上似だった。そんな小さい体で立派な体躯に似合った二人のアレを同時にとか……お尻が裂けそう……いやそんな萎える描写は勿論なかったけど。
そう、漫画のミルドリッヒは一人っ子だった。
だから甘やかされ世間知らずで育ち、何の疑問もなく家長である父上にあれこれや言われるままに行動していた。
自分の行動が誰かを苦しめるなんて思いもしないのだろう。
さて、この世界の常識として発情したαとΩがセックスをすれば、必ず妊娠する。
しかもバキバキの若いα二人の相手をしてるのだ。回避できるわけがない。当然ミルドリッヒは妊娠した。
だけどお腹の中の子がアレスの子なのかヒューベリオンの子なのか分からない。これまた父親に相談するんだけどヴァルドラ公爵は「ヒューベリオンの子だ」と言い切り、ヒューベリオンに責任を取るよう要求する。
嵌められたとは言え3P後はさすがにギクシャクするアレスとヒューベリオン。
そもそもアレスは実力と容姿を妬まれ迫害されたせいで捻くれたけど、もともとは優しくて責任感の強いタイプなのだ。嫌いではあったものの自分より弱く抵抗できないミルドリッヒを無慈悲に抱いたことにも、ヒューベリオンへ操を立てられなかったことにも激しく後悔していた。
そんな落ち込むアレスの姿を見て自分のせいで傷つけたと感じたヒューベリオンは、ヴァルドラ公爵の言う通りミルドリッヒと結婚しアレスを自分から解放する道を選ぶ。
悲恋のまま終わるのかと思われたがお腹が大きくなるにつれ、産まれる子が黒髪だったら……赤い目だったら……という恐怖に心を病んでしまったミルドリッヒは夫婦で眠る寝室の窓から飛び降りる。しかも寝ているヒューベリオンを起こし、飛び降りる場面を見せるというトラウマ作成に余念がない。まー姉ちゃんいわく、さすが嫌われるために作られたキャラである。
あえなくミルドリッヒは命を散らしたがお腹の子は無事救出される。ミルドリッヒの心配虚しく、産まれた子の髪も瞳もミルドリッヒと瓜二つだった。
その後、愛息子の命を奪ったと逆恨みしたヴァルドラ公爵との戦いを経て、再び絆を取り戻したヒューベリオンとアレス。
産まれた子どもはヒューベリオンの正式な後継として、アレスとヒューベリオンに大切に育てられるのだった……。
何度思い出しても地獄だ。
ミルドリッヒの子であるのは確かなので、産まれた子はたとえヒューベリオンの子でなくても王家の血は継いでいるから……まあ、正式な後継でいいのかもだけど。
ハッピー至上のふー姉ちゃんは途中から大荒れし、悲恋大好物まー姉ちゃんとバトってたなぁ。懐かしい……。
なんとなく漫画の内容から逃避したくて、姉ちゃんたちのことを思い出す。
三人共オタクだったからお互い布教しまくったりして、毎日が楽しかった。俺は昔も今も姉弟運に恵まれている。
長めに息を吐くと、そっとノートを閉じた。
……うん、やっぱり俺は身を引こう。
殿下にヒートトラップなんて以ての外だし、誰かに抱かれるというのも正直ゾッとする。
「ま、そもそも漫画と違って俺はβだけどね」
だけどきっと漫画のことを思い出したのは、殿下の側に居たいからと未来を決断できない俺への神の啓示なんだろう。
俺はノートをしまいランプの明かりを消せばベッドにもぐり込む。
すぐには無理だけど領地へ戻ろう。殿下への気持ちは引きずる自信しかないけど、それならば余計に物理的にも距離を取ったほうがいいはずだ。
疲れもあってか横になると、俺はすぐに眠りに落ちた。
しかし3Pなんて過激なことを思い出してしまったせいか、その夜、殿下に抱かれる夢を見てしまうのだった。
916
お気に入りに追加
1,991
あなたにおすすめの小説

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど?
お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!?
※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

モブ兄に転生した俺、弟の身代わりになって婚約破棄される予定です
深凪雪花
BL
テンプレBL小説のヒロイン♂の兄に異世界転生した主人公セラフィル。可愛い弟がバカ王太子タクトスに傷物にされる上、身に覚えのない罪で婚約破棄される未来が許せず、先にタクトスの婚約者になって代わりに婚約破棄される役どころを演じ、弟を守ることを決める。
どうにか婚約に持ち込み、あとは婚約破棄される時を待つだけ、だったはずなのだが……え、いつ婚約破棄してくれるんですか?
※★は性描写あり。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる