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31 邪魔者Ωミルドリッヒ

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 「真昼の月と夜の太陽が出会う空で」は美麗な作画とオメガバースの醍醐味とも言えるR18シーンが多く、どのサイトでも高評価だったが内容が攻めすぎていたため好みはかなり分かれる作品だった。

 ハッピー至上主義でオメガバースはカップリング固定になるからいいんだ派のふー姉ちゃんにはα同士ってのも3Pがあるってのも地雷だったらしい。
 逆にBLってのは試練があってこそ珠玉になるという思考のまー姉ちゃんにはバイブルになっていた。

 そう、この作品、濃厚なエッチシーンを売りにしていたからか3Pもある。

 思い出せばだすほど俺は頭を抱えた。途中からは文字にするのもはばかられて、そっとペンを置く。

 邪魔者Ωミルドリッヒは偶然にもヒューベリオンとアレスの濃厚ラブシーンを見てしまう。そこで婚約破棄にでもなるのかと思えば、さすが邪魔者、ヒューベリオン殿下はアレスに騙されているのだと思い込む。しかし俺とは違い内気で箱入りΩのミルドリッヒは一人ではどうしたらいいのかわからず、常に自分の味方をしてくれる父親に報告した。
 ミルドリッヒの父親、ヴァルドラ公爵ジークハルトはそれはもう一人息子のミルドリッヒが可愛くて仕方ない。元々ミルドリッヒがヒューベリオンに一目惚れしたことから始まった婚約だ。それならばヒューベリオンが逃げられないよう既成事実を作ってしまえばいいと一計を案じる。
 いわゆる、ヒートトラップだ。
 Ωが意中のαの前で発情し、フェロモンで強制的に襲わせる罠である。
 これを実行に移したミルドリッヒだが、まあ、察しの良い読者ならうすうす勘づいていたのだろうけど、発情したミルドリッヒの元に現れたのはヒューベリオンでなくアレスだった。

 ヒューベリオンの寝室に潜り込んだのにね。まさかアレスが居るとは思わないじゃん……。

 哀れというか自業自得というか、邪魔者Ωミルドリッヒはアレスにグチャグチャに抱かれる。
 そこにやってきたヒューベリオン。
 どんな修羅場になるのかと思えば……まあこれも、考えればそうなるか……とは思うんだけど、ミルドリッヒのフェロモンにあてられてヒューベリオンも発情。激しい3Pへもつれ込むわけだ。
 二輪刺しを女性向け漫画で見る日が来るとは……と、あの日の苦い記憶を思い出す。

 しかも漫画のミルドリッヒはΩとして大事に育てられたからか、俺よりも体も小さく母上似だった。そんな小さい体で立派な体躯に似合った二人のアレを同時にとか……お尻が裂けそう……いやそんな萎える描写は勿論なかったけど。

 そう、漫画のミルドリッヒは一人っ子だった。
 だから甘やかされ世間知らずで育ち、何の疑問もなく家長である父上にあれこれや言われるままに行動していた。
 自分の行動が誰かを苦しめるなんて思いもしないのだろう。

 さて、この世界の常識として発情したαとΩがセックスをすれば、必ず妊娠する。
 しかもバキバキの若いα二人の相手をしてるのだ。回避できるわけがない。当然ミルドリッヒは妊娠した。
 だけどお腹の中の子がアレスの子なのかヒューベリオンの子なのか分からない。これまた父親に相談するんだけどヴァルドラ公爵は「ヒューベリオンの子だ」と言い切り、ヒューベリオンに責任を取るよう要求する。

 められたとは言え3P後はさすがにギクシャクするアレスとヒューベリオン。
 そもそもアレスは実力と容姿を妬まれ迫害されたせいで捻くれたけど、もともとは優しくて責任感の強いタイプなのだ。嫌いではあったものの自分より弱く抵抗できないミルドリッヒを無慈悲に抱いたことにも、ヒューベリオンへ操を立てられなかったことにも激しく後悔していた。
 そんな落ち込むアレスの姿を見て自分のせいで傷つけたと感じたヒューベリオンは、ヴァルドラ公爵の言う通りミルドリッヒと結婚しアレスを自分から解放する道を選ぶ。

 悲恋のまま終わるのかと思われたがお腹が大きくなるにつれ、産まれる子が黒髪だったら……赤い目だったら……という恐怖に心を病んでしまったミルドリッヒは夫婦で眠る寝室の窓から飛び降りる。しかも寝ているヒューベリオンを起こし、飛び降りる場面を見せるというトラウマ作成に余念がない。まー姉ちゃんいわく、さすが嫌われるために作られたキャラである。

 あえなくミルドリッヒは命を散らしたがお腹の子は無事救出される。ミルドリッヒの心配虚しく、産まれた子の髪も瞳もミルドリッヒと瓜二つだった。

 その後、愛息子の命を奪ったと逆恨みしたヴァルドラ公爵との戦いを経て、再び絆を取り戻したヒューベリオンとアレス。
 産まれた子どもはヒューベリオンの正式な後継として、アレスとヒューベリオンに大切に育てられるのだった……。

 何度思い出しても地獄だ。
 ミルドリッヒの子であるのは確かなので、産まれた子はたとえヒューベリオンの子でなくても王家の血は継いでいるから……まあ、正式な後継でいいのかもだけど。

 ハッピー至上のふー姉ちゃんは途中から大荒れし、悲恋大好物まー姉ちゃんとバトってたなぁ。懐かしい……。

 なんとなく漫画の内容から逃避したくて、姉ちゃんたちのことを思い出す。
 三人共オタクだったからお互い布教しまくったりして、毎日が楽しかった。俺は昔も今も姉弟運に恵まれている。

 長めに息を吐くと、そっとノートを閉じた。

 ……うん、やっぱり俺は身を引こう。

 殿下にヒートトラップなんてもってのほかだし、誰かに抱かれるというのも正直ゾッとする。

「ま、そもそも漫画と違って俺はβだけどね」

 だけどきっと漫画のことを思い出したのは、殿下の側に居たいからと未来を決断できない俺への神の啓示なんだろう。

 俺はノートをしまいランプの明かりを消せばベッドにもぐり込む。

 すぐには無理だけど領地いえへ戻ろう。殿下への気持ちは引きずる自信しかないけど、それならば余計に物理的にも距離を取ったほうがいいはずだ。

 疲れもあってか横になると、俺はすぐに眠りに落ちた。

 しかし3Pなんて過激なことを思い出してしまったせいか、その夜、殿下に抱かれる夢を見てしまうのだった。


 
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