オメガバα✕αBL漫画の邪魔者Ωに転生したはずなのに気付いた時には主人公αに求愛されてました

和泉臨音

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23 心に決めた相手

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「怪我をしなかったなら良かった。……気をつけてくれ」
「はい」

 ヒューベリオン殿下は俺の手を両手で握り込みつつ、安心したようなちょっとニヤけたような、不思議な表情をしていた。
 さすがに紅茶の温度では火傷はしないので心配し過ぎな気がするけど、小言ばかり言う俺の失敗が嬉しかったのかもしれない。
 いやいや、さすがにそんな性格悪くないですよ、俺の可愛い殿下は! と一人脳内で会話してる間も殿下は何故か俺の手を握っていた。
 俺はとりあえず話をもとに戻すことにする。

「えっと、つまり……結婚を回避したくて言いなりになっていると?」
「簡単にまとめればそうだな」

 簡単にまとめすぎな気もするけど、殿下は俺に下手な見栄をはらないので本心なんだろう。

 女王陛下まで乗り気で、さらにエーデルガルド伯爵家が絡んでるとなると。

「お相手はジス皇国の姫君ですか」

 俺が呟けば殿下が俺の手をやんわりと握り込む。無言の肯定だろう。

 国内の貴族相手なら我儘も通るが外交が絡んでくると話は変わってくる。
 ジス皇国とは友好関係にあり貿易量も多い。それだけなら殿下が意に沿わない婚姻を結ぶ必要はないが、ジス皇国が隣接する他国と微妙な状態になっており、ここで戦争が起こった場合、我が国にも被害が及ぶ事が示唆されている。

 ヒューベリオン殿下とジス皇国皇女の結婚により、我が国と皇国の結びつきを強め、相手国を牽制するのが狙いだ。いわゆる政略結婚である。

「……皇女殿下は可愛いって噂ですよ。Ωだというし」

 二十歳前後が結婚適齢期で、貴族の場合それよりも前、場合によっては生まれる前から婚約者がいることも多い。
 殿下は唯一の直系王族と言うこともあり、お相手は慎重に選びたいという殿下の意向もあっていままで婚約者は居なかった。

 だけど、良く考えなくても、婚約どころか結婚して、子どもをもうけてもいい歳になってるんだよな……。

 それこそヒューベリオン殿下は唯一の直系王族なのだから、早めに後継を作る必要がある。

 未だ俺の手を離さない殿下の指を見つめる。
 俺と比べると太くてゴツゴツしてて、頼りがいのある大きい手だ。
 小さい頃、剣ダコが潰れていた頃とは全然違う、大人の男の、αの、頼りがいのある手だ。

 この手が…………。

「ミルドリッヒ」

 いつの間にか俺まで両手でヒューベリオン殿下の手を握っていた。無意識過ぎる自分の行動に思わず手を離すが、殿下はそれを逃すまいと今度は指を絡めて握り込んできた。

「ミルドリッヒ。私は……」

 気付けば目の前にヒューベリオン殿下の端正な顔がある。
 手を引かれ前のめりになった俺を殿下が抱きとめた。

 見上げればサファイア色の瞳が暗がりでも判るほど強く輝いていた。暗闇で獲物を狙う肉食獣の瞳はこんなふうに煌めくのではないかと錯覚するほどの強い視線に思わず俺は唾を飲む。

「…………私には心に決めた相手がいる」
「っ!!!???」

 ヒューベリオン殿下は俺を射抜くように見つめたまま、一瞬ためらったものの、決意のこもった声で宣言した。

 な、なな、なんだって?!!??

「いつの間にそんな相手が!? 初めて聞きましたけどっ?!」
「………それは、初めて言ったからな」

 慎重に相手を選ぶといいつつも殿下も俺と同じで、色恋沙汰に興味がないのかと思っていた。

「そんなに驚くことか?」

 あまりにも俺が情けない顔で驚いているからだろう。
 先程までの射抜かれるような眼力が緩み、気の抜けたような笑みを殿下は浮かべた。

「いや、だって、縁談を断るのはただ単に興味がないからだと思ってたので……成る程、添い遂げたいお相手が、居たんですね……」

 衝撃の事実過ぎて上手く思考が纏まらない。

「その方との関係は……どのような?」

 口に出た俺の声が震えている。動揺が隠しきれていないが幸いなことに今は殿下と二人だし、許してもらえるだろう。

「良好ではある。だけど障害があって中々進展できない」

 殿下はそんな俺とは逆に心に抱えていたものを吐き出せたからか、落ち着いた様子で俺の三つ編みを弄び始める。

「障害……ですか」
「ああ、だけどそれもどうにかなりそうだ」
「そう、ですか……」

 障害……身分違いの恋、だろうか。
 目下さっき話に出た皇女との縁談回避も必須事項ではあるけれど。

「~~っ!! わかりました! 俺は殿下の恋を応援します! 俺にできる事があればなんでも言ってください!!」

 政治的権力は俺にはないけど、女王陛下に出来ない裏工作も父上公爵なら可能かもしれないし、俺にもそれなりの人脈がある。

 俺の宣言に殿下は目を丸くすると、複雑そうな表情になってから、それはもう晴れやかな笑顔で微笑んだ。

「ミルドリッヒにそう言ってもらえると心強い。……ありがとう」

 愛しい相手を思い出しているのかヒューベリオン殿下はいつもよりも甘い声でささやくと、弄んでいた俺の髪にキスを落とす。

 夜だと言うのに俺を見つめる殿下のサファイア色の瞳は、澄んだ空のようにとても綺麗だった。


 
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