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22 エーデルガルド伯爵家

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 エーデルガルド家は隣国にあるジス皇国との交易に成功し莫大な富を得て成り上がった、わりと歴史の若い伯爵家である。といっても俺が生まれるよりも何代も前からあるので、俺からするとそれなりに知名度のある重鎮貴族といった印象がある。
 エーデルガルド伯爵家の成り立ちは初代当主がその才覚を認められ、国庫を預かる要職に就いたことから始まっている。
 初代以降もほぼ世襲で財務管理周りの職を子孫が継いでおり、現エーデルガルド伯爵も例外ではない。

 この時点で政治に関して結構な発言力を有してるんだけど王妃殿下、つまりヒューベリオン殿下の母上と現エーデルガルド伯爵が従兄妹同士なため伯爵家は王家と血縁がつながり、さらに王城での発言力を増した。

 しかも王家の縁者と言うだけでなく女王陛下の即位にも尽力したということで、政治を預かる重鎮貴族たちから一目も二目もおかれる存在になり権力地盤をさらに強固なものにしたのだ。
 ぶっちゃけ結構、やりたい放題している。

 ちなみに母上を借金の代替としてもらい受ける愛人にすると提案したのが前エーデルガルド伯爵である。
 まあこれは俺の曽祖父がエーデルガルド家から大量の金を借りたのが悪いので、エーデルガルド伯爵家を非難できるものではないけど。 
 ただ母上に不当な扱いを要求した結果、父上を王位継承戦から外すことに成功した。

 つまり、女王を即位させるため邪魔な父上対抗馬を王族から追い出すことにエーデルガルド伯爵家が成功した、というわけだ。それが計画されたことか否かといえば多分前者だろう。父上と母上の関係を知ったうえで利用したに違いない。
 さすがというかなんというか。他人を陥れるなんてこと真似したくはないけれど、根回しの良さは見習うべきだと思う。

 そんなわけもあって、現在の王城でエーデルガルド伯爵家に面と向かって意見できる者はいない。

 それでも俺と殿下は今まであまり関わらずに過ごしていた。
 母上のことで恨みを持つ父上がエーデルガルド家に圧力をかけて俺たちを護ってくれているのもある気がするが、なによりヒューベリオン殿下がエーデルガルド家を遠ざけていたことも大きい。
 シュタインを側近にという話は以前からなかったわけじゃない。殿下が強硬に拒否していたので実現しなかっただけだ。

 ぐったりと脱力してだらしなく紅茶を飲む姿もまた美しい殿下の姿を見つめる。

「なにか弱味でも握られましたか?」

 俺の問いかけにヒューベリオン殿下は物憂げな視線を俺に向けた。

「弱味というわけじゃないが、そろそろ身を固めろと言われてね。女王陛下もその話に微妙に乗り気で……」

 ガチャリとカップを置く音が盛大に響く。

 その音の正体がなにか最初わからなくて、しかもそれが自分の立てた物音だと気付かず、俺は盛大に驚いてしまった。
 少しだがこぼれた紅茶がテーブルを濡らす。

「大丈夫か? 火傷は……してないな」
「だ、だいじょうぶです。失礼しました」

 俺の失態に慌てた殿下が体を起こすと、すぐに俺の手を取り怪我の有無を確認する。
 突然触れた殿下の体温にビクッと身体が大きく揺れた。


 
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