上 下
20 / 42

20 本日のお茶会、再び

しおりを挟む
 
 庭園から逃げるように辞した俺は王城で与えられている住み慣れた自室に戻りベッドへダイブした。
 そしてそのまま爆睡した。そう、コンマ0秒でスヤった。よく寝た。めちゃくちゃすっきりした。

「……殿下の言う通り、疲れてたんだな俺」

 目覚めればすでに日は暮れ夜の帳が訪れている。夕飯の時間を逸してしまったけど、庭園でお菓子を食べたのでそこまで空腹を感じていないのが幸いだろう。
 なんとなくベッドに横になっている気にもなれず部屋のランプに火を入れると、俺はくつろぐ用に設置してあるソファーへ移動した。

 ひと眠りしてすっきりとした頭で先程の自分の様子を冷静に思い出す。
 ……多分あれはシュタインへの嫉妬と自分の立場を失うことへの恐怖を感じて動揺したのだろう。

 よく考えなくても二か月というのはそれなりに長い期間だ。
 その間ヒューベリオン殿下ご自身にスケジュール管理をさせるわけにもいかないし、その他の俺の雑務も含めて数人の使用人や事務官へ分担してこなすようお願いしてあった。
 だけど、先程見た様子からして、俺の仕事をそのままそっくりとシュタインが引き継いでいるのだろう。それ自体は許容できなくはない。休むことを選んだのは俺だ。だけど。

「ヒューベリオン殿下は俺じゃなくってもよかったんだな……」

 思わず思ったことが口から出てしまい、自分の言葉にダメージを受けてしまう。
 いやまあでも冷静に考えろ。一国の王太子だ。
 側近や近しい臣下、友人とも呼べる人物が俺しかいないという状況の方が異常だろう。
 これは逆にいい機会なんじゃないか? 俺がもし領地へ戻ることになった時、殿下を一人にしないで済む。
 もう幼い頃のように一人で抱え込むことはないだろうけど、仲間はいた方が心強いに決まっている。

 俺は大きく深呼吸した。
 なんとなくまだモヤモヤするが俺の築き上げてきた七年間をあっさり奪われるのだ、すぐに気持ちの整理がつかなくても仕方ないだろう。

「……。なにか暖かい飲み物でも貰ってくるか」

 けっこう爆睡したせいか、どうにも眠れそうにない。さすがにこのまま起きて夜を明かすには早すぎる。
 夜番の従者へ依頼をしに行こうと立ち上がったのと同時に、扉が控えめにノックされた。
 まるでどこかで見ていたのでは? という絶妙なタイミングに驚いたけど、それ以上に訪問者にも驚いた。

 俺の部屋を訪ねてきたのはヒューベリオン殿下だった。

「ミルドリッヒが夕食をとっていないと聞いたので軽食を持ってきた。……寝ていたのか?」
「はい。もうぐっすり寝てました」

 なぜバレたんだ? やはり監視されてるのか? と俺が驚愕しつつ答えれば、殿下はくすくすと笑みを浮かべつつ俺の頭を撫でる。
 あ、もしかして寝ぐせか。
 優しく髪を撫でられるままに大人しくしていればヒューベリオン殿下が満足そうに俺の髪の毛を整え始めた。
 いつの間にか俺の方が子ども扱いされるようになった気がする。昔は俺の方がお兄ちゃんだったのに!いや俺の方が実際は年下だけど。

 俺の髪を殿下が整えている間に殿下と共にやって来た従者がサンドイッチやスコーンの乗った皿と二人分のティーセットを当たり前のように俺の部屋にセッティングする。それが終われば護衛とともに部屋の外へ出て行った。

 昔から、毎回ではないが、殿下が俺の部屋を訪れた際は二人きりになることが多い。秘密の話というわけでもないが、殿下が気兼ねなく本音を言いたい時にそうするよう指示している気はしている。

 しかし、普段の訪問はもう少し早い時間、夕飯直後が多い。
 こんな夜中の訪問は初めてだから、もしかしたら緊急性の高い相談事があるのかもしれない。

 気合を入れるべく意識を仕事モードに切り替えようとしたのに、ほのかな紅茶の香りと風呂上りなのか殿下から香るホットミルクのような甘くて良い香りに、俺の胃袋がきゅるるると鳴った。
 ……先程は空腹など感じていなかったのに。俺の身体、素直すぎるだろ。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

無気力令息は安らかに眠りたい

餅粉
BL
銃に打たれ死んだはずだった私は目を開けると 『シエル・シャーウッド,君との婚約を破棄する』 シエル・シャーウッドになっていた。 どうやら私は公爵家の醜い子らしい…。 バース性?なんだそれ?安眠できるのか? そう,私はただ誰にも邪魔されず安らかに眠りたいだけ………。 前半オメガバーズ要素薄めかもです。

「本編完結」あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、R指定無しの全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 6話までは、ツイノベを加筆修正しての公開、7話から物語が動き出します。 本編は全35話。番外編は不定期に更新されます。 サブキャラ達視点のスピンオフも予定しています。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat) 投稿にあたり許可をいただき、ありがとうございます(,,ᴗ ᴗ,,)ペコリ ドキドキで緊張しまくりですが、よろしくお願いします。 ✤お知らせ✤ 第12回BL大賞 にエントリーしました。 新作【再び巡り合う時 ~転生オメガバース~】共々、よろしくお願い致します。 11/21(木)6:00より、スピンオフ「星司と月歌」連載します。 11/24(日)18:00完結の短編です。 1日4回更新です。 一ノ瀬麻紀🐈🐈‍⬛

婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび
BL
藍沢奏多は王子様と噂されるほどのイケメン。 そんなイケメンの婚約者である古川優一は日々の奏多の行動に傷つきながらも文句を言えずにいた。 それでも過去の思い出から奏多との別れを決意できない優一。 しかし、奏多とΩの絡みを見てしまい全てを終わらせることを決める。 ザマァ系を期待している方にはご期待に沿えないかもしれません。 前半は受け君がだいぶ不憫です。 他との絡みが少しだけあります。 あまりキツイ言葉でコメントするのはやめて欲しいです。 ただの素人の小説です。 ご容赦ください。

主人公は俺狙い?!

suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。 容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。 だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。 朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。 15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。 学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。 彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。 そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、 面倒事、それもBL(多分)とか無理!! そう考え近づかないようにしていた。 そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。 ハプニングだらけの学園生活! BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息 ※文章うるさいです ※背後注意

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。

三十路のΩ

BL
三十路でΩだと判明した伊織は、騎士団でも屈強な男。Ω的な要素は何一つ無かった。しかし、国の政策で直ぐにでも結婚相手を見つけなければならない。そこで名乗りを上げたのは上司の美形なα団長巴であった。しかし、伊織は断ってしまい

処理中です...