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20 本日のお茶会、再び

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 庭園から逃げるように辞した俺は王城で与えられている住み慣れた自室に戻りベッドへダイブした。
 そしてそのまま爆睡した。そう、コンマ0秒でスヤった。よく寝た。めちゃくちゃすっきりした。

「……殿下の言う通り、疲れてたんだな俺」

 目覚めればすでに日は暮れ夜の帳が訪れている。夕飯の時間を逸してしまったけど、庭園でお菓子を食べたのでそこまで空腹を感じていないのが幸いだろう。
 なんとなくベッドに横になっている気にもなれず部屋のランプに火を入れると、俺はくつろぐ用に設置してあるソファーへ移動した。

 ひと眠りしてすっきりとした頭で先程の自分の様子を冷静に思い出す。
 ……多分あれはシュタインへの嫉妬と自分の立場を失うことへの恐怖を感じて動揺したのだろう。

 よく考えなくても二か月というのはそれなりに長い期間だ。
 その間ヒューベリオン殿下ご自身にスケジュール管理をさせるわけにもいかないし、その他の俺の雑務も含めて数人の使用人や事務官へ分担してこなすようお願いしてあった。
 だけど、先程見た様子からして、俺の仕事をそのままそっくりとシュタインが引き継いでいるのだろう。それ自体は許容できなくはない。休むことを選んだのは俺だ。だけど。

「ヒューベリオン殿下は俺じゃなくってもよかったんだな……」

 思わず思ったことが口から出てしまい、自分の言葉にダメージを受けてしまう。
 いやまあでも冷静に考えろ。一国の王太子だ。
 側近や近しい臣下、友人とも呼べる人物が俺しかいないという状況の方が異常だろう。
 これは逆にいい機会なんじゃないか? 俺がもし領地へ戻ることになった時、殿下を一人にしないで済む。
 もう幼い頃のように一人で抱え込むことはないだろうけど、仲間はいた方が心強いに決まっている。

 俺は大きく深呼吸した。
 なんとなくまだモヤモヤするが俺の築き上げてきた七年間をあっさり奪われるのだ、すぐに気持ちの整理がつかなくても仕方ないだろう。

「……。なにか暖かい飲み物でも貰ってくるか」

 けっこう爆睡したせいか、どうにも眠れそうにない。さすがにこのまま起きて夜を明かすには早すぎる。
 夜番の従者へ依頼をしに行こうと立ち上がったのと同時に、扉が控えめにノックされた。
 まるでどこかで見ていたのでは? という絶妙なタイミングに驚いたけど、それ以上に訪問者にも驚いた。

 俺の部屋を訪ねてきたのはヒューベリオン殿下だった。

「ミルドリッヒが夕食をとっていないと聞いたので軽食を持ってきた。……寝ていたのか?」
「はい。もうぐっすり寝てました」

 なぜバレたんだ? やはり監視されてるのか? と俺が驚愕しつつ答えれば、殿下はくすくすと笑みを浮かべつつ俺の頭を撫でる。
 あ、もしかして寝ぐせか。
 優しく髪を撫でられるままに大人しくしていればヒューベリオン殿下が満足そうに俺の髪の毛を整え始めた。
 いつの間にか俺の方が子ども扱いされるようになった気がする。昔は俺の方がお兄ちゃんだったのに!いや俺の方が実際は年下だけど。

 俺の髪を殿下が整えている間に殿下と共にやって来た従者がサンドイッチやスコーンの乗った皿と二人分のティーセットを当たり前のように俺の部屋にセッティングする。それが終われば護衛とともに部屋の外へ出て行った。

 昔から、毎回ではないが、殿下が俺の部屋を訪れた際は二人きりになることが多い。秘密の話というわけでもないが、殿下が気兼ねなく本音を言いたい時にそうするよう指示している気はしている。

 しかし、普段の訪問はもう少し早い時間、夕飯直後が多い。
 こんな夜中の訪問は初めてだから、もしかしたら緊急性の高い相談事があるのかもしれない。

 気合を入れるべく意識を仕事モードに切り替えようとしたのに、ほのかな紅茶の香りと風呂上りなのか殿下から香るホットミルクのような甘くて良い香りに、俺の胃袋がきゅるるると鳴った。
 ……先程は空腹など感じていなかったのに。俺の身体、素直すぎるだろ。


 
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