11 / 53
11 時は流れて
しおりを挟む「ねえ聞いた? やっぱりミルドリッヒ様はβみたいよ」
「もう十六歳なのに変化がないのでしょ? お小さい頃は利発でαっぽかったのにねぇ」
「でも殿下と並ぶと大分普通って言うか、特に最近は……ね」
「あー分かる。すごく凡人になられたって言うか」
春うららかな季節。花の蕾がほころび小鳥が歌うようにメイドたちのおしゃべりも花が咲く季節のようだ。
渡り廊下の庭先でたむろするメイドたちの横で俺はわざと「ゲフッ、ゴホッ」と大げさな咳払いをする。
俺の存在に気づいたメイドたちは一斉に整列して頭を下げた。
「……王子宮のメイドが人目のあるところで私語に華を咲かすなんて感心しませんよ」
「も、申し訳ございません! ミルドリッヒ様」
「今度話すときは休憩室など、使用人区画でお願いしますね」
「……はいっ」
噂話の張本人にまさか聞かれるとは思ってなかっただろう。真っ青になっているので、叱責するまでもなく反省してくれてると信じて追い打ちはかけまい。
「ミルヒは優しいな」
蜘蛛の子を散らすように静かに素早く立ち去ったメイドたちを見送っていれば、背後からやってきたヒューベリオン殿下に肩を抱かれた。
その手をベリっと剥がす。
「殿下もです。人目のあるところでの過度なスキンシップや、愛称呼びは禁止です」
俺が怒ってますよという顔で言えば、キラキライケメンスマイルを惜しげもなく浮かべながら、ヒューベリオン殿下は「真面目だな」と呟いて俺から離れた。
十七歳になられたヒューベリオン殿下は、それはもう予想以上のキラキラ王子に成長した。
幼少期よりも明るくなったサラッサラの金髪はすっきりと短く、ふぁっさふぁさな睫毛に縁取られたサファイアの瞳は全てを見通すような理知的な輝きを放っている。
顔立ちは言わずもがな、背は平均的な身長の俺よりも頭半分くらい大きく、手足も長くてスタイルも良い。
出会った頃は俺とほぼ変わらなかった胸の厚みなんかは、もう全然ヒューベリオン殿下のが立派だ。
メイドたちが言っていたが殿下と俺が並ぶと、身体も顔も超絶美しいカリスマ王子と、まあまあなんでも平均的な公爵令息って感じに見えるだろう。
ぐっ、俺だって平均から見ればまあまあ顔もスタイルも良い方だと思う。思うけど……所詮中の上。父と母の両方にちょっとずつ似た結果、俺は平凡になってしまった。我が事ながら残念なやつである。
「明日は何時頃出発するんだ?」
俺がイケメン王子をぐぬぬと見つめていれば、フッと笑った殿下が問いかけてきた。
「朝日が登る頃には出る予定です。うちは王都から結構かかりますしね。あ、二ヶ月もお休みいただきありがとうございます」
「構わないさ。ミルドリッヒはずっと頑張ってくれているし、たまにはのんびりしてきてくれ」
長期休みの礼を言えば、殿下は穏やかに微笑む。それにしても本当、立派に成長されたものだ。
ヒューベリオン殿下が本音を見せてくれたあの日から、俺たちの関係は少しずつ変わっていった。
殿下は相変わらず完璧な王子様ではあったけど、俺の前では愚痴や我儘をだんだん言うようになり、気づけば親友のように仲良くなっていた。
一時期なんかは俺と離れるのを殿下が嫌がったため実家に帰ることが出来なかったけど、ここ数年は落ち着き毎年帰省が許されている。
といってもいつもは三週間程度だったんだけど、今年はなんとニヶ月なんていう長期休みを貰えたのだ! いつもの二倍以上である! すごい!
ふふふ、三人目の弟も生まれたし、可愛い盛りの妹弟たちにも会えるのが楽しみである。
まあ、長期休みを貰った理由はそれだけではないけどね。
ちょっと込み入った相談を父上としなければならないのだ。その話し合いが長引くんじゃないかなと思っての日程でもある。
526
お気に入りに追加
1,331
あなたにおすすめの小説
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
バッドエンドを迎えた主人公ですが、僻地暮らしも悪くありません
仁茂田もに
BL
BLゲームの主人公に転生したアルトは、卒業祝賀パーティーで攻略対象に断罪され、ゲームの途中でバッドエンドを迎えることになる。
流刑に処され、魔物溢れる辺境の地グローセベルクで罪人として暮らすことになったアルト。
そこでイケメンすぎるモブ・フェリクスと出会うが、何故か初対面からものすごく嫌われていた。
罪人を管理監督する管理官であるフェリクスと管理される立場であるアルト。
僻地で何とか穏やかに暮らしたいアルトだったが、出会う魔物はものすごく凶暴だし管理官のフェリクスはとても冷たい。
しかし、そこは腐っても主人公。
チート級の魔法を使って、何とか必死に日々を過ごしていくのだった。
流刑の地で出会ったイケメンモブ(?)×BLゲームの主人公に転生したけど早々にバッドエンドを迎えた主人公
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
第一王子から断罪されたのに第二王子に溺愛されています。何で?
藍音
BL
占星術により、最も国を繁栄させる子を産む孕み腹として、妃候補にされたルーリク・フォン・グロシャーは学院の卒業を祝う舞踏会で第一王子から断罪され、婚約破棄されてしまう。
悲しみにくれるルーリクは婚約破棄を了承し、領地に去ると宣言して会場を後にするが‥‥‥
すみません、シリアスの仮面を被ったコメディです。冒頭からシリアスな話を期待されていたら申し訳ないので、記載いたします。
男性妊娠可能な世界です。
魔法は昔はあったけど今は廃れています。
独自設定盛り盛りです。作品中でわかる様にご説明できていると思うのですが‥‥
大きなあらすじやストーリー展開は全く変更ありませんが、ちょこちょこ文言を直したりして修正をかけています。すみません。
R4.2.19 12:00完結しました。
R4 3.2 12:00 から応援感謝番外編を投稿中です。
お礼SSを投稿するつもりでしたが、短編程度のボリュームのあるものになってしまいました。
多分10話くらい?
2人のお話へのリクエストがなければ、次は別の主人公の番外編を投稿しようと思っています。
【完結】足手まといの俺が「史上最強パーティを離脱したい」と言い出したら、なぜか国の至宝と呼ばれる剣聖とその親友の大魔道士に囲い込まれる話
.mizutama.
BL
※完結しました!ありがとうございます!
「もう潮時だろう? いい加減に目を覚ませ! お前はあの二人に遊ばれているだけなんだ!」
勇敢な冒険者を目指すティト・アスティは、魔法学園の下男として働きながら、いつか難攻不落と言われる国内最大のダンジョン攻略の旅に出ることを夢見ていた。
そんなある日、魔法学園の最上級生で国の至宝とよばれる最強の魔剣士・ファビオが、その親友の魔導士・オルランドとともに、ダンジョン攻略のための旅に出るための仲間の選定を行うことになった。
皆が固唾を飲んで見守る中、どんなめぐりあわせかそこにたまたま居合わせただけのティトが、ファビオにパーティのメンバーとして指名されてしまった。
半ば強引にパーティに引き入れられ冒険の旅へ出る羽目になったティトだったが、行く先々での嘲笑や嫉妬、嫌がらせ、そして己の力のなさに絶望し、ついにはファビオとオルランドにパーティ離脱を申し出る。
――だが、ファビオとオルランドの反応は、ティトの予想だにしなかったものだった……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
タイトルそのまま。ありがちな設定と展開。タイプの違う美形攻め二人×鈍感庶民受け
溺愛系を目指しています!
※注1 一対一嗜好の方には激しくオススメできない内容です!!
※注2 作者は基本的に総受け・総愛されを好む人間です。固定カプにこだわりがある方には不向きです。
作者の歪んだ嗜好そのままに書かれる物語です。ご理解の上、閲覧ください。
複数攻め・総受けが好きな人のために書きました! 同じ嗜好の人を求めています!!
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる