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9 行き違い
しおりを挟む「…………………お前は、それを望んでいるくせにっ!!!!」
「はぃ?」
「~~っ! お前が玉座を狙っていることを、私が知らないとでも思っているのか!?」
ん? んんんんんんーっ??
「え、待ってください殿下。なんの話ですか?」
「皆言っている。私よりお前が王にふさわしいって! 女王陛下もそうお考えだから、私と同じ教師をお前につけてるんだ!!」
普段のヒューベリオン殿下からは全く予想がつかない、それはもう癇癪を起こした子どものように真っ赤な顔で俺を睨みつけてくる。
こんな殿下今までに見たことがない。
度々、ヒューベリオン殿下は真面目すぎるし張り詰めすぎてるとは思ってたけど……。
えぇ……もしかして、原因の一端は俺だったってこと……?
座り込み黙ったまま、唖然と見上げる俺に殿下は感情が収まらないのか真っ赤な顔で続ける。
「お前だってどうせボクのこと、貧弱で情けないやつだって思ってるんだろっ!」
「いや、え、思ってないですけど」
将来キラキライケメン間違い無しの完璧な王子様だと思ってますけど!?!? なぜそんな誤解が……。
あ、でも、殿下の言葉を整理すれば判る、か。
「はっ、ボクの失態を皆に報告できるチャンスがきて良かったな、ミルドリッヒ。従者なんてしたくもないことした甲斐があったじゃないか!」
「いや、だからですね……」
ああもうっ!!!!
俺は勢いよく立ち上がる。ヒューベリオン殿下が驚いて一歩後ろへ下がったが、そんなのは無視して俺は殿下を力いっぱい抱きしめた。
「はっ?! えっ??!!」
何が起こったのかわからない殿下が変な声を発して固まる。
現状ありがたい反応だけど、こういう時はとっさに投げ飛ばすとか腹にワンパン入れるとか、御身を守って欲しい。護身術の授業を増やしたほうが良いんじゃないかななんて思ってしまったが、それは置いておいて。
俺はぎゅーっとヒューベリオン殿下を抱きしめて、背中を優しくトントンと撫でた。
これ実は癇癪起こして泣きわめいていた妹たちをあやす時にしていたやつだ。
相手は赤子だったけど……癇癪起こした子どもってところは一緒だし、きっと今の殿下にも有効だろう……たぶん。
「とにかく。ヒューベリオン殿下、誰から何を吹き込まれたのか知りませんが、俺は玉座なんか狙ってません」
「……っ! お前が狙ってなくてもジークハルト叔父上が……」
「ヴァルドラ公爵もそんなこと考えてませんよ。俺はそもそも女王陛下の命で殿下のもとにおりますし、父上の指示ではないです」
父が玉座を狙うなら俺を使うなんてまどろっこしいことはしないで自分で手に入れるだろう。あの人はそういう人だし、そもそも母とイチャイチャすることに人生捧げてる節があるから、国政なんて面倒なことはむしろ避けたいはずだ。母との時間がなくなっちゃうからね。
「でも……では、女王陛下が、ボクでなくお前をと……望まれて……ぐすっ」
抱きしめていると殿下の顔は俺の肩の上にあるので表情は判らないが、たぶん泣き始めてしまった。
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