上 下
9 / 12

9 行き違い

しおりを挟む
 
「…………………お前は、それを望んでいるくせにっ!!!!」
「はぃ?」
「~~っ! お前が玉座を狙っていることを、私が知らないとでも思っているのか!?」

 ん? んんんんんんーっ??

「え、待ってください殿下。なんの話ですか?」
「皆言っている。私よりお前が王にふさわしいって! 女王陛下ちちうえもそうお考えだから、私と同じ教師をお前につけてるんだ!!」

 普段のヒューベリオン殿下からは全く予想がつかない、それはもう癇癪を起こした子どものように真っ赤な顔で俺を睨みつけてくる。

 こんな殿下今までに見たことがない。
 度々、ヒューベリオン殿下は真面目すぎるし張り詰めすぎてるとは思ってたけど……。
 えぇ……もしかして、原因の一端は俺だったってこと……?

 座り込み黙ったまま、唖然と見上げる俺に殿下は感情が収まらないのか真っ赤な顔で続ける。

「お前だってどうせボクのこと、貧弱で情けないやつだって思ってるんだろっ!」
「いや、え、思ってないですけど」

 将来キラキライケメン間違い無しの完璧な王子様だと思ってますけど!?!? なぜそんな誤解が……。
 あ、でも、殿下の言葉を整理すれば判る、か。

「はっ、ボクの失態を皆に報告できるチャンスがきて良かったな、ミルドリッヒ。従者なんてしたくもないことした甲斐があったじゃないか!」
「いや、だからですね……」

 ああもうっ!!!!

 俺は勢いよく立ち上がる。ヒューベリオン殿下が驚いて一歩後ろへ下がったが、そんなのは無視して俺は殿下を力いっぱい抱きしめた。

「はっ?! えっ??!!」

 何が起こったのかわからない殿下が変な声を発して固まる。

 現状ありがたい反応だけど、こういう時はとっさに投げ飛ばすとか腹にワンパン入れるとか、御身を守って欲しい。護身術の授業を増やしたほうが良いんじゃないかななんて思ってしまったが、それは置いておいて。

 俺はぎゅーっとヒューベリオン殿下を抱きしめて、背中を優しくトントンと撫でた。

 これ実は癇癪起こして泣きわめいていた妹たちをあやす時にしていたやつだ。
 相手は赤子だったけど……癇癪起こした子どもってところは一緒だし、きっと今の殿下にも有効だろう……たぶん。

「とにかく。ヒューベリオン殿下、誰から何を吹き込まれたのか知りませんが、俺は玉座なんか狙ってません」
「……っ! お前が狙ってなくてもジークハルト叔父上が……」
ヴァルドラ公爵ちちうえもそんなこと考えてませんよ。俺はそもそも女王陛下の命で殿下のもとにおりますし、父上の指示ではないです」

 父が玉座を狙うなら俺を使うなんてまどろっこしいことはしないで自分で手に入れるだろう。あの人はそういう人だし、そもそも母とイチャイチャすることに人生捧げてる節があるから、国政なんて面倒なことはむしろ避けたいはずだ。母との時間がなくなっちゃうからね。

「でも……では、女王陛下が、ボクでなくお前をと……望まれて……ぐすっ」

 抱きしめていると殿下の顔は俺の肩の上にあるので表情は判らないが、たぶん泣き始めてしまった。


 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もしかして俺の主人は悪役令息?

一花みえる
BL
「ぼく、いいこになるからね!」 10歳の誕生日、いきなりそう言い出した主人、ノア・セシル・キャンベル王子は言葉通りまるで別人に生まれ変わったような「いい子」になった。従者のジョシュアはその変化に喜びつつも、どこか違和感を抱く。 これって最近よく聞く「転生者」? 一方ノアは「ジョシュアと仲良し大作戦」を考えていた。 主人と従者がおかしな方向にそれぞれ頑張る、異世界ほのぼのファンタジーです。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

【本編完結】まさか、クズ恋人に捨てられた不憫主人公(後からヒーローに溺愛される)の小説に出てくる当て馬悪役王妃になってました。

花かつお
BL
気づけば男しかいない国の高位貴族に転生した僕は、成長すると、その国の王妃となり、この世界では人間の体に魔力が存在しており、その魔力により男でも子供が授かるのだが、僕と夫となる王とは物凄く魔力相性が良くなく中々、子供が出来ない。それでも諦めず努力したら、ついに妊娠したその時に何と!?まさか前世で読んだBl小説『シークレット・ガーデン~カッコウの庭~』の恋人に捨てられた儚げ不憫受け主人公を助けるヒーローが自分の夫であると気づいた。そして主人公の元クズ恋人の前で主人公が自分の子供を身ごもったと宣言してる所に遭遇。あの小説の通りなら、自分は当て馬悪役王妃として断罪されてしまう話だったと思い出した僕は、小説の話から逃げる為に地方貴族に下賜される事を望み王宮から脱出をするのだった。

僕の大好きな旦那様は後悔する

小町
BL
バッドエンドです! 攻めのことが大好きな受けと政略結婚だから、と割り切り受けの愛を迷惑と感じる攻めのもだもだと、最終的に受けが死ぬことによって段々と攻めが後悔してくるお話です!拙作ですがよろしくお願いします!! 暗い話にするはずが、コメディぽくなってしまいました、、、。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

悪役令息より悪いヤツ!

はいじ@11/28 書籍発売!
BL
「物語が始まる前に死のうとするな!お前は、10年後にこの俺(悪役)が殺すんだよ!?」 悪役令息に転生した脚本家(54)が自分の作ったシナリオを守るため、物語の主人公(攻め)をありとあらゆる災厄から守ろうと足掻いた結果、結果として救済しちゃう話。 ≪創作キャラ×生みの親≫が繰り広げるコミカル共依存BL——! に、なるハズ。 これから書くのでどうか更新スタートするまで読まずに、ひっそりと待ってて頂けるとありがたいです!!! (2024/10/31現在!!!)

乙女ゲームの強制力を舐めていました。このまま立派な悪役令息になってしまいそうです。

棚から現ナマ
BL
俺はティオリ。乙女ゲームの世界に転生しました。それもアルアルの悪役令息への転生です! もちろん断罪なんて、されたくないからヒロインを虐めたりなんかしません! って、思っていたのに……。初っばなからヒロインちゃんを思いっきり罵っちゃったよ。どうする俺! このまま乙女ゲームの強制力に負けてしまうのか!? でも、なんだかストーリーとは違うところもあるようで、嫌われているはずの婚約者のアルバンからチュッチュッさせているんですけど?  ただイチャイチャしているだけのお話です。

処理中です...