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8 完璧な王子様
しおりを挟む俺はヒューベリオン殿下の着替えを手伝いつつ、使用人のみんなが離れたタイミングを狙って殿下に話しかけることにした。
完璧主義の王子様は使用人が居るところで弱みを見せるのは難しいだろうという配慮ではあるんだけど、どっちにしろ俺のしようとしてることは強行案なので殿下に嫌われそう……。
でも、大事になるまえに強行突破させてもらう! 殿下を守る側近としてこれは間違った行動ではないはずだ。
「殿下、午後の遠乗りは中止しましょう」
「……なぜ?」
殿下のシャツのボタンを留めながら俺が声をかければ、珍しくイラッとした顔で殿下が俺を見下ろしてきた。
俺は気にせず殿下の右手を取る。腕を引いて隠されそうになったので手首を掴んで阻止した。
そのまま殿下の手を覗き込めば、手のひらには幾つもマメが潰れたあとがあった。
「つっ……」
「ちょ、これ、痛そう。剣だこ……ですか? 治療は?」
たぶん、間違いなく、剣だこだろうけど、血こそ止まってはいるが包帯が巻かれることもなくそのままになっている。
慌ててヒューベリオン殿下を見上げれば、物凄く冷ややかな目で俺を見下ろしてる殿下がいた。
思わず「ヒェ」と俺の口から声が漏れる。
「…………。悪いが皆、暫くの間ミルドリッヒと二人にしてもらえるかな」
そして冷え冷えの殿下は綺麗な笑顔を顔に貼り付けて、メイドさん達を追い出す。本来護衛は室内待機なのに、彼らまで外に追い出してしまった。
え、そこまで隠したかったのっ!?
ヒューベリオン殿下の手を握ったまま呆気に囚われる俺に、殿下は笑顔のまま威圧してきた。
「予定の変更はしない」
「は? だめに決まってるでしょう。怪我してるんですよ? もし痛みで手綱を離したりしたらどうするんですか!」
ヒューベリオン殿下が落馬なんてしたらそれこそ大問題だ。
「そんなことはしない。それに危機的状況で乗馬を強いられることだってあるかもしれない。その訓練だ」
は?
「いや、あるかもですけどそれはその時に頑張ってください。とにかく今日はダメです! 中止の指示と治療の準備をしてきます」
「待て! 勝手なことをするな。私の不注意で予定を変えるわけにはいかない。……皆に迷惑がかかる」
冷え冷えした雰囲気はそのままに、殿下は視線をそらした。
なるほど、それが本音か。
ヒューベリオン殿下は絶対に我儘を言わない。
聞き分けが良く、手のかからない、聡明なαの王子様。みんなそれを当たり前のように受け入れて疑いすらしない。
でもさ、王族のαだからって生まれたときから完璧なわけないじゃん。
なんでこんなに痛そうな傷を、成長途中の子どもが治療もしないで我慢して、大人に気を遣わなきゃいけないの?
そんなのおかしい。
……かといって、殿下にそんなことを言ってしまえば彼の今までの努力を否定しまうことになるだろう。
だからここは、聡明な王子の部分へ合理的な訴えをする方がいいに違いない。
「殿下、冷静に判断してください。それこそ落馬する方が大問題になります。御身に何かあってからでは遅いんですよ」
「……」
俺は殿下の傷だらけの手をそっと握ったまま、忌々しげに俺を見つめてくる冷ややかなサファイア色の瞳を見つめ返す。
「お怪我や病気は仕方ありません。誰も殿下を責めたりしませんよ……っぁて」
俺は出来るだけ優しく殿下に言い聞かせようとしたが、殿下は俺の肩を思いっきり押した。
よろけた俺は思わず尻餅をついてしまう。
まさか手が出るとは思ってなくて思わずポカンと殿下を見上げれば、先程までの涼やかさはどこへやら、怒りをあらわにした少年がそこには居た。
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