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6 使える立場は最大限に利用します
しおりを挟む「おはよう、ミルドリッヒ」
起こしに来た俺を当然のように出迎える、それがヒューベリオン殿下である。
まだベッドで休んでていいのになぁ。俺が起こす係なのに……。毎日のことながらちょっと寂しい。
俺だったら起こしに来てくれるまで甘えて寝ている。殿下のこういうところが真面目というか……完璧主義者というか、たぶん隙を見せたくないって思ってるのだろう。
まだ十一歳なのに人間として出来すぎである。
ちなみにヒューベリオン殿下が出来すぎなのは完璧な立ち居振る舞いだけではない。
サラサラな金髪と吸い込まれんばかりに輝くサファイア色の瞳、子どもらしい愛らしさはあるものの、スッとした顔立ちは絵本に出てくる妖精王のような、人並み外れた美しさである。
言わずもがな手足も長くてスタイル抜群。とにかく腰の位置が俺と違う。おかしい、身長たいして変わらないのにっ!
ああ、今日も殿下が眩しいです。
きっと殿下も父上のようにキラキライケメンになるんだろうな。
はぁー、今から将来が大変楽しみ……と、見惚れている場合じゃなかった。
俺は殿下に近寄ればポケットからスケジュール帳を取り出し本日のページをめくる。
それを合図に殿下の前に朝食が準備された。
パンと野菜スープと卵料理、あと旬の果物だ。
現王家の皆様は基本的に個別に食事をする。
陛下は忙しいし、王妃殿下は病弱で部屋からお出になることがなく、御子はヒューベリオン殿下しかいないからだ。
なので殿下は公務がなければ自分の部屋で一人食事をする。
家族でわちゃわちゃと食事をするのが当たり前だった俺からすると、なんだかかなり寂しい食事風景だ。貴族としてはうちが変わってるんだろうけど。
財政が安定した今も食事は基本的に家族全員でとってるみたいだしね。
「本日の予定ですが、算術と領地の授業を受けたあとお昼の休憩をはさみ、午後は乗馬の授業で遠乗りの予定です」
「そう、わかった。……遠乗りはどのあたりまで行くの?」
「市街地の外までは馬車で移動して、そこからベルニア湖畔までを予定しています」
「わかった。ありがとう」
ヒューベリオン殿下の質問に答えるのも俺の仕事だが、殿下は人を試すような意地悪な質問をしてこないので対応は難しくない。
上司がみんなヒューベリオン殿下みたいだったらいいのになぁなんてしみじみ思う。
べつに俺が上司に恵まれなかったなんてことはない、というか父上と殿下の下にしかついたことないけど、心底そう感じてしまうから不思議である。
ちなみに俺は既に食事は済ませているので、ここでは殿下の食事を見守る係だ。
ふーむ、今日は食欲があるみたいだな。良かった良かった。
俺が来たばかりの頃、殿下の朝食はミルクティーだけだったからね。
朝は食欲がないから食べたくないと言われたけど、十歳男児の朝食がお茶だけとか、体の成長にも問題が出ちゃうのではと物凄く心配になった。
なので俺は侍従長やコック長に殿下が一口でも食べられるような料理を用意してほしいと伝え、ヒューベリオン殿下自身にも食事の重要性をといた。
元気な体を作るためには肉や野菜などバランス良く食べなくてはなりませんっ!! と。
あの時の鳩が豆鉄砲食らったような、ポカンとした殿下は年相応の少年で可愛かった……ではなく、俺の主張の甲斐あって「ミルドリッヒが同席してくれるなら、頑張って食べられるかもしれない」なんて、殿下が言うのでこうして食事に同席している。
最近は前より格段に殿下の食事量が増えていて、俺のお陰だと侍従長やコック長から感謝された。
みんな何気に心配はしてたけど、本人には言えなかったんだと思う。
ヒューベリオン殿下は子どもだけど子ども扱いは許されない。
彼らにとっては主なのだ。殿下がNOといえば無理強いはできない。
大人からすれば扱いが難しい子どもだろう。
だけど俺は殿下と同じ子どもだし、一応殿下の従兄弟だから言いたいことを言うのである。
使える立場は最大限に利用します!! それで良い結果が出るならなおさらです!
と、自分の功績を満足げに噛みしめながら、ふわふわオムレツを口に運ぶ動作すら絵になるなぁなんて殿下を見守っていれば、ふと違和感を感じた。
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