上 下
5 / 61

5 寝食を共にすれば絆が深まる、ハズ

しおりを挟む
 
『拝啓。父上、母上、キャロライン、マルゲリット、リヒャルト、お元気にしていますか? 俺は元気です。早いもので王都に来てから一年が経ちました……』

 定期的に実家へ送っている手紙を書き終えれば大きく背伸びをする。窓から差し込む朝の日差しが気持ちいい。

 王太子であるヒューベリオン殿下の側近候補として王都にある王城に住み、早一年。
 十歳になった俺は、やっと最近ヒューベリオン殿下のお側について、身の回りのことをやらせてもらえるようになった。

 一応俺は落ちぶれた公爵家とはいえ公爵令息だし、王族籍から出てはいるが父は王弟なので使用人のようなことをする必要はない。
 だけど俺がやりたいのでやらせてもらうことにしたんだ。

 だって、せっかく殿下と仲良くするために来たというのに、なんか物凄い壁があるんだよっ! 明らかに俺よりメイドさんたちの方が殿下と仲がいい。
 まぁね、たしかにね、産まれた時からお世話してる方々と同じように、突然やってきた子どもに接してくれるとは思ってないよ? 
 でもね、俺だって可愛い盛りの妹たちや大好きな両親から離れ、一人寂しく頑張ってるんだよ。
 結果を残したいじゃないか! 

 そこでどうしたら殿下が俺に打ち解けてくれるのか? って考えて、浮かんだのが身の回りのお世話だ。
 寝食を共にすれば絆が深まるって昔から言うし、何気ない日常を一緒に過ごすのってとっても大事だろう。

 最初こそ使用人のみんなは難色を示したけど、ヒューベリオン殿下本人が許可したし、もちろん陛下にも許可はもらったので無事に俺の仲良しになろう大作戦は決行できているのである。
 
 そんな俺の一日はヒューベリオン殿下を起こして、本日のスケジュールをお伝えすることからはじまる。

 現在唯一の直系王族たる殿下の日程はハードだ。
 さすがに十一歳なので公務はほぼないが歴史、教養、算術などの座学だけでなく、マナーや剣術、社交ダンスなどなど実技も多くこなされる。いわゆる帝王学というやつである。

 俺もだいたい一緒に勉強するんだけど、成績は殿下の足元に及んでるのかなぁどうかなぁといったところだ。
 うちヴァルドラ公爵領にいた頃は、やれ天才だの百年に一度の優秀なαだのと持てはやされた俺だけど、所詮井の中の蛙でしかなかった。

「ヒューベリオン殿下、おはようございます! ミルドリッヒです!」

 俺は部屋の前に立つ護衛たちに挨拶してから意気揚々と殿下の部屋をノックする。
 すぐに部屋の中から入室を許可する声が聞こえたので殿下の部屋へ入れば、当たり前のように身支度を終えた完璧な笑顔の美少年がテーブルセットに座っていた。


 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

処理中です...