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4 歴代稀に見る有能なα(仮)

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「え?」

 父の仕事を見ていて思ったことがある。どうにも仕事の効率が悪いのだ。もっと簡素化してもいいのではないだろうか。
 
 例えば書類にしているサインだ。とにかく書く量が多い。
 全部父が目を通す必要があるのかもしれないけど、直筆でサインをする必要はないだろう。見たという印ならハンコでいいはずだ。
 直筆サインをハンコに変えるだけでかなりの労力と時間の短縮ができる。
 俺はハンコを押す動作をして「ぺったんにするの!」ともう一度説明した。

「あと、しょるいのかきかたをそろえたらいいとおもう」

 母の仕事を減らすなら、書式の統一が有効だろう。
 山積みの書類はざっと見た所、ほぼほぼ予算関連と思われる数字の書かれた紙ばかりだ。だが残念なことに書類によって書き方がまちまちなのである。
 細かく書かれたものもあれば、計算用紙かな?って感じで乱雑に書き殴られただけのものまである。
 選別に母も尽力しているが父が見て改めて脇に寄せているものも多い。
 書式が決まっていれば少なくとも今やっている選別作業は楽になるし、ひと目で振り分けられるようになる。

 たったそれだけだが仕事の効率は格段に上がるはずだ。

 他にもタスク管理とか、うちの財政的にベテランは無理だろうけど、若い使用人を雇って人材を育てるとか……提案したいことは山程ある。

 気付けば母だけでなく、父も目を見開き俺を見ていた。

 あれ? なにか変なことを言ったかな? あ、もしかして書式を誰が作るんだよって思ってるのかも。
 判るよ父上。提案するだけして実働は他人任せって結構腹立つもんね。

「ちちうえ、しょしきはははうえにきいておれがつくりますね!」

 安心してください、作りますよ! と、俺はふんすと鼻息荒く父に宣言した。

「書式……」
「ジーク! ミルヒは可愛いだけじゃなくて、天才だよ!!」

 母は満面の笑みで、呆然とした父に抱きかかえられた俺ごと飛びつかんばかりに抱きしめる。

「ああそうだな……ミルドリッヒ頼めるか?」
「はい! おまかせくださいっ!」

 そうして俺は両親の仕事というか、仕事の効率化を手伝うことになった。



 その後、父が広めたハンコと経理台帳は領地経営している貴族だけでなく、王城の文官たちにも広まり、発案者の俺は歴代稀に見る有能なαだと社交界で噂になった。

 その結果、俺は王子の友人兼側近候補として九歳で王城へ行くことになる。

 仕事ぶりを認めて貰えたのは嬉しいけど、王都へ向かう日は家族と離れるのが寂しくなってさすがに泣いたよね。
 ……仕方ないよね、まだ九歳だもの。ぐすっ。



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