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1 ヴァルドラ公爵家の事情
しおりを挟む俺の両親は貴族には珍しい恋愛結婚だ。
現国王の弟で公爵家に婿入したαの父と、公爵令息であるΩの母は元々幼馴染だった。
しかし公爵家は俺の曽祖父が浪費しすぎて破産しかけた。しかも借金をしこたま作った本人はぽっくり逝ってしまい、後を継いだ祖父は優しい性格で人としては真っ当だけど、残念ながら魑魅魍魎の跋扈する貴族社会には向いていなかった。
あわや借金の形に母が成金貴族の愛妾、いやもう公爵令息が妾ってなんだよって思うけどそこまで落ちぶれてた、にされそうになったところを救ったのが父だ。
本来落ちぶれた取り潰し寸前の公爵家に王弟、当時は王子だけど、が婿入することはありえない。曽祖父の浪費のために公爵領の民は重税に苦しめられており、反乱待ったなしの状態でもあったし、王家は大反対だったらしい。
だけど父は王位継承権を含む王族としての権利や立場を捨て、個人的に稼いでいた財を持参金として公爵家に婿入した。
婿が持参金を持ってくるって話は聞いたことがないけど、そのあたりは父が押し切ったのだろう。母のためなら割と何でもするのが父である。
そして当然と言ってはなんだが、王族エリートαはひと味もふた味も違った。
返済は不可能だと言われていた公爵家の多額の借金を、たったの五年で返済の目処が立つくらいまで支払い終えたのである。
しかもこの五年間、父と母の結婚祝いと称して領民に対する税は無しとした。それでどうやって公爵家を立て直したのか非常に興味があるが、流石に四歳児の俺に教えてくれる人はいないので不明だ。
とりあえずそんなわけで、ボロボロだった領地と領民たちも公爵家の財政とともに立ち直ってきている。
領民からも信頼厚い新たな公爵となった父は、今日も山盛りの書類に囲まれながら仕事に励んでいた。
その隣で母もせっせと書類の束で新たな書類の山を作っている。
俺はそんなせわしなく働く両親を絵本片手に眺める毎日だ。
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