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1、チート救世主です

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 暫く見ていない太陽の様な屈託のない笑顔が、本当に腹が立つほど眩しかった。

「俺はここでまた大事なものを見つけるから、元の世界に帰れなくてもいいよ」

 その男はたいした事ではないように、そう言った。



 この世界には闇に包まれる暗屍期あんしきと、光に包まれる光生期こうせいきというものが存在する。
 人間が生活できるのは光生期だ。
 太陽は輝き、恵みの雨が降り、空は高く青く、森は木々を緑に、そして赤く変えて大地に落ちれば土を富ませる。
 平和で豊かな日々だ。

 救世主いわく彼の世界の「春」「夏」と「秋」に似ているのだそうだ。

 逆に暗屍期は人間を食べる妖魔が生活しやすい。
 空は雲に覆われ常に夜のように暗く、寒い風に草木は実りをもたらさない。そして動物たちは死に絶える。その死骸を妖魔は好んで食べる。
 こちらは「冬」に似ているのだと言う。

 暗屍期は妖魔の親となる核が力を持つことでおこる。
 妖魔が増えることで自分たちが生きやすい世界に作り変える、おおよそ千年に一度おこる災害だ。

 暗屍期が長引けば人間は死んでしまう。30年もあれば全滅してしまうだろう。
 そんな過酷な状況を打破するために人間は叡智を生み出した。

 ――…この世界以外から救世主を召喚する方法を見つけたのだ。

 呼び出された救世主は、この世界にはない知識や術を持っていた。
 彼、あるいは彼女が降臨し、妖魔の核を破壊すれば暗屍期は終わりを告げる。

 人間の歴史上、暗屍期を終わらせるためには救世主の存在は不可欠で、だから暗屍期に入ればどの国も競って救世主の召喚を行った。

 しかし、ある国で呼び出した救世主は旅半ばで行方不明になり、またある国では王族をたぶらかして城で贅沢だけして、その責任を果たしていないという。

 暗屍期に入って五年が経過した頃、この世界の中でも大国の一つである我が国も救世主の召喚に成功した。

 救世主として我が国に降り立った男の名はショウマ、家名はトウノと名乗った。
 明るい茶色の髪と黒い瞳の大学生だ。筋骨隆々ということもなく、どちらかと言えば細身の男だ。

 大学とは我が国でいうところの上級学校のことらしい。そこで自然の摂理、数字について学んでいるとの事だった。

「ではショーマ様は剣や術の訓練はなさったことがないのですか?」

 ショウマの隣を歩くエミリーが驚いた顔で問いかける。

 まだ幼さの残るエミリーは観察師かんさつしだ。
 妖魔の発生状況や強さなどを測定する専門職である。たしか12歳になったばかりで、最近のお気に入りは頭の左右で結ぶ髪型だ。
 ショウマいわく、ツインテールというもので、モエ属性の女の子の定番髪型なのだという。モエとは可愛いという意味だそうだ。
 薄桃色の長い髪を揺らし、キラキラ赤い瞳を輝かせて異世界の事を聞く少女は、こんな暗い世界でも輝いて見えて確かに可愛らしい。

「んー授業で剣道とかやったけど、それくらいかなぁ」
「すごいです、すごいです! それであんなにお強いなんて!」
「いや~それほどでも」
「さすが救世主様ですね」
「うんうん、もっと褒めて!!」

 ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶエミリーの言葉に照れるショウマ。そのショウマをさらに旅の仲間の剣術師けんじゅつしダンが褒める。
 ダンは我が国の剣術師の中でも1、2を争う剣の使い手だ。
 妖魔など一瞬で一刀両断する。筋骨隆々で私やショウマよりも背は頭一つ大きく、髪は全てそり上げて切れ長の黒い瞳は眼光鋭い。

 ダンのような剣術師が何人もいれば救世主に頼らなくても良いのではと思っていたが、私の考えは甘かった。
 救世主の実力はこの世界の人間と比べられるものではなかったのだ。

「ねえねえメイラも褒めてよ!!」

 そんな三人を一歩離れたところで冷ややかに見ていた私に、ショウマが声をかけてくる。

「……貴殿は救世主なのだから強くて当たり前だろう」
「誉めるどころか下げられた! ううん、そんなクールなところが格好良いね! じゃあ俺のチート能力、アイテムボックスから今日も安全な寝床を取り出します!!」
「わーいショーマ様! 待ってました!!」

 ショウマが大袈裟に言うと、手を胸元辺りで前方に突き出し左右へ何かをこするように動かす。
 ショウマが指し示す先に、突如として小屋が現れればエミリーは再び跳び跳ねて大喜びした。
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