花形スタァと癒しの君

和泉臨音

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番外編(後日談、セリ視点)「甘い甘い蜂蜜と」

前編

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 仕事帰り、今日の夕飯は何にしようかなんて考えながらアパートメントにたどり着く。
 部屋に続く階段に足を踏み入れれば赤い果実がひとつ、またひとつと上から転げ落ちてきた。

「え? え? なに、林檎?」

 僕の目の前に落ちてきたのは美味しそうな林檎たち。

「あらあら。どうしましょう」

 コロンコロンと落ちてくる林檎のひとつを僕が拾い上げるのと、頭上から声が聞こえたのはほぼ同時だった。


 ***


 林檎を拾いながら階段を昇れば、二階の踊り場で落とし主に辿り着いた。

「あの、林檎が落ちてきたんですけど……」

 落とし主である妙齢のご婦人に声を掛ければ、ゆっくりとした動作で振り返る。
 手に持つ紙袋は底が破れているようで、またひとつコロンと今度はレモンが外に零れ落ちた。
 僕はとっさに受け止めると、拾った林檎たちとご婦人を交互に見る。
 
「まぁまぁ、どうもありがとう。急に袋が壊れてしまったの」

 品良く微笑まれて僕も思わず笑顔になった。
 ご婦人は足が悪いのか、杖をつきながら階段をあがっていた。もしかしたら僕の祖母より歳上なのかもしれない。
 ただでさえ不自由そうなのに紙袋が破れてしまったのでは荷物を運ぶのも大変だろう。たかが林檎5個程度でも負担になるに違いない。

「あの、よろしければこのまま部屋まで僕が運びますよ」

 一日一善。徳はいくら積んでも無駄にはならないからね。

 僕の提案にご婦人は少し眉を寄せ、申し訳無さそうな表情になる。

「あら、でも悪いわ」
「大丈夫です。僕ここの四階に住んでるので部屋に帰るついでですから」

 ライルさんと一緒に住んでいるアパートメントは四階建ての建物だ。僕たちの部屋は最上階の四階にある。日当たりも良くてとても良い物件だ。

 任せてください! とばかりに胸を張って言えば、ご婦人の表情が明るくなり、幼い子どもを見守るような優しい顔になる。

「もしかして、最近ご夫婦で越してきた方かしら?」
「あ、えっと、夫婦ではないんですけど……」
「あら、仲が良いからてっきりご夫婦なのかと思っていたわ。わたしも四階に住んでいるのよ」
「え? そんなんですか」

 一つのフロアに二部屋ある建物だけどお隣さんはずっと留守のようだから、空き部屋なのかと思っていた。

「ええ。最近まで孫のところに行っていてね。ああ、立ち話もなんね、お言葉に甘えてお手伝いしてもらってもいいかしら」
「もちろんです」

 僕は笑顔で答えるとご婦人から他の荷物も受け取り、拾った林檎たちと共に落とさないようお隣の部屋まで運んだ。


 
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